君と、もみじ

Mari

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第四章

不器用な想い

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奏が去った教室に、一人残った響はそっと奏の席に腰を下ろす。
そして先程奏の腕を掴んだ手のひらを見つめて呟いた。
「情けねぇ…」
陽菜とちゃんと別れて筋を通してからだとか、奏を傷付けた小林先輩と同じことしたくないだとか、本当はそんなものどうでも良いくらいに好きなのに…。
不意に緑色のもみじの葉に視線を移す。
放課後、ここにいつも奏が居たから何度も休憩中に足を運んだ。
「…俺を待ってるんじゃないかってずっと期待してたのは…、俺だ」
ぼんやりともみじの木を見つめながら呟く。
「…すっげぇ好きなのにな」
行き場のない想いが溢れ出して、苦笑いした。
響の頭の中には、奏の笑顔だけが浮かぶ。


しばらくすると、パタパタと足音が近付いてきた。
〝奏が戻ってきたらいいのに〟と思うが、明らかに奏の足音とは違うことが分かる。
案の定、教室を覗き込んだのは和真だ。
「おっ、こんなとこに居た」
「おぅ」
短く返事をすると、和真がゆっくりと教室に入ってくる。
「さっき、奏先輩が門を出るの見た。…話せたか?」
「少しだけな」
笑ってはいるものの、どこか切なげな響の表情に、和真は苦笑いだ。
「どうせ、言わなかったんだろ。好きだってこと」
「お見通しか…」
「お前のことだからな」
和真は響が座っている目の前の席に座る。


「俺たちも四月から三年かぁ」
和真が大きなため息をついて響に目を向けた。
頬杖をついて、中庭を眺める響の目は見たことのない程寂しそうに映る。
そんな響に和真はもう一度聞いた。
「お前、いいの?このままで」
響はゆっくりと口の端を持ち上げると、穏やかな顔で答える。
「諦めるつもりはないよ」
その言葉に和真は一瞬目を見開いて、
「なのに、そんなに余裕でいいの?」と笑った。
「余裕じゃないよ、全然。内心、超焦ってるし」
「奏先輩、大学生になったら小林先輩だけじゃなくて他の男に持ってかれるかもよー」
和真は冗談っぽく追い打ちを掛ける。
すると響は一度目を伏せて息を吐いた。
「今の俺じゃ、子供すぎるっしょ。奏ちゃんの周りに居る男に勝てない」
「今度は何?自信なくしてんの?」
そう言って和真が笑うと、響は言葉を続ける。
「奏ちゃんの隣に立っても恥ずかしくない男になったら、気持ち伝えに行く」

恋に関して、不器用で真っ直ぐな響。
それでいて自分の考えを曲げずに頑固なところがある、そんな響を、和真は〝カッコイイ〟とさえ思った。

「お前らしいね」
ため息混じりにそう呟くと、響も笑う。
「それはどうも」



三月上旬、桜の季節に行われた卒業式。
だけどそれは別れなんかじゃない。
響にとっては、新しいスタートを切るための序章でしかないのだ。
離れても、繋がっていられる。
そんな簡単に切れる間柄ではないと確信していた。
そこに理由なんてないし、確かに今はまだ、単なる先輩後輩でしかない。
だけど目に見えない何かで繋がっているような気がしてならなかった。
それが例え腐れ縁であったとしても、気持ちをちゃんと奏に伝えるまではと、もう一度前を向くのだった。





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