君と、もみじ

Mari

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第二章

別れの日の出来事

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その日のお昼休み、響は三年の教室に来ていた。
千夏は居るのに、奏の姿が見当たらない。
「千夏先輩ー」
「おぉ、響くん」
三年からも人気の高い響が教室に来たことで、周りの女子たちもざわついた。
「ねぇねぇ、今日奏ちゃんは?」
「気になる?」
「気になる」
千夏は響の即答っぷりに一瞬目を見開いて笑う。
「即答だね」
「だって、奏ちゃん居ないとつまんないし」
千夏は微笑ましく思いながら答えた。
「今日ねぇ、多分サボりだよ」
「えっ?なんで?」
「昨日、ちょっと色々あってねぇ…」

響は首を傾げる。
「それって、俺聞いてもいい話?」
「…うーん」
苦笑いの千夏の目をじーっと見る響。
その目の強さに負けた千夏は、昨日小林先輩と会ってからカラオケまでのことを話し始めた。

一通り話を聞いた響は、千夏に問い掛ける。
「…ねぇ、千夏先輩」
「うん?」
「奏ちゃんが振られた時のこと、聞いてもいい?」

それは響がずっと気になっていたことだった。
響が一年の頃、学校内で見掛ける奏と小林先輩は、周りから見ても相思相愛で仲が良かったはずなのに、急に別れることになったのは何故なのか。
小林先輩の浮気が原因だと噂で耳にしたが、真相までは分からない。

「学校帰りのデートの待ち合わせ場所にね、小林先輩は浮気相手と一緒に現れたのよ…」
「…え」
「〝別れようって言いに来た〟って…」
「ひでぇ…」
「挙げ句の果てに、浮気相手がその時奏にこう言ったの。〝二番目で良いなら時々貸してあげますよ〟って」
「なんだ、それ…」
響は拳をギリギリと握り締めた。

千夏は話を続ける。
「奏は、泣いて、泣いて…私に電話してきたの。私、二者面談で学校に居たんだけど、奏のこと放っておけなくて、学校に戻っておいでって言ったの。面談終わるまで教室で待ってもらった」

響はハッとした。
あの日、教室で泣いてる奏を見掛けたのは、その時だったんだと。
別れた日だと奏に聞いてはいたが、その前にそんなことがあったなんて思いもしなかった。


「…響くん、奏のこと傷付けないでね」
「え…?」
「中途半端な気持ちなら、もうそっとしておいてあげて…」
「それ、どういう…」
千夏は眉を下げて辛そうに微笑む。
「…響くんには、彼女が居るでしょう?」
響は、千夏のその言葉に目を伏せた。
それ以上は何も言えずに…。

「仲の良い先輩後輩のままで居るのなら、それはそれでいいの。だけど、それ以上を望むなら中途半端なことはしないで」
もう一度千夏の目を見ると、響は静かに「…はい」と頷いた。


ずっと、奏のことを側で見てきた千夏の想い。
それが響の胸に痛いほどに突き刺さる。

響は、教室に戻る途中の渡り廊下で、ハラハラと舞うもみじの葉を一枚手のひらに乗せた。
頭の中に浮かぶのは、奏の笑顔…
ふと見上げれば、秋晴れの青い空に赤いもみじの木が眩しく映える。
響は、暫くじっとその場から動けずにいた…。




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