君と、もみじ

Mari

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第一章

響の彼女

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土曜日、市民体育館で行われるバレーボールの試合に行くため、私は朝早くから準備をしていた。
「張りきりすぎかな…」

何時間も鏡の前で一人ファッションショーをして選んだ服に身を包み、いつもと違うヘアアレンジ。
唇にはツヤツヤのリップクリーム…
試合会場に向かいながら、胸のドキドキはどんどん高まっていく。
走り出しそうになる気持ちを抑えるのがやっとだった。

千夏との待ち合わせ場所に着くと、
「あれー?なんか、可愛いじゃん」
そう言って千夏がからかう。

試合会場の中は熱気に溢れていて、黄色い声援さえ響いていた。
「凄いね、人」
「うん…」
人混みをかき分け、なんとかうちの学校のベンチ近くまで来る。
声援を送る女の子たちの中には、他校の子もいるようだ。
その中に、見つけてしまった…響の彼女…。

そうだよね、来ないはずないか…
出来れば会いたくなかったと、思っていた以上に胸が締め付けられる。

試合中、響を見つめることも出来ず、時折、彼女からの声援に笑顔を向ける響を見ていたくなくて、何度も帰りたくなった。

観に来てとは言われたものの、どうして私ここに居るんだろうと虚しくも思える。


試合は、セットカウント三対一でうちの高校が勝利する。
試合の終了と同時に、
「ねぇ千夏、早く出よう」
と、千夏の腕を引っ張り足早に帰ろうとしたその時…


「奏先輩?」

見つかってしまった…
一番顔を合わせたくなかった子に。

「陽菜(はるな)ちゃん、久しぶり」
「やっぱり奏先輩!お久しぶりです!」

名前の通り、太陽を浴びてキラキラと咲く花のような可愛い笑顔に、勝ち目なんてないことくらい分かる…。
春に咲く花のような、はたまた芽を出したばかりの青々とした若葉のような、そんなみずみずしさまで感じてしまうほどのピチピチ感だ。


「奏先輩も観に来てたんですね!」
「うん…、引退してしばらく観てなかったから…」
咄嗟の言い訳も何気ない会話も、今はただ苦しい。
早く、この場を立ち去りたかった。

「そっか、三年生はもう引退したんですよね」
「うん…」
何を話しても、辛くなるだけの時間。
陽菜の顔さえまともに直視出来ない…。


「陽菜」
会話を遮るように、陽菜を呼んだのは響だった。
陽菜は響に駆け寄り、一層ニコニコとした可愛らしい笑顔を見せる。
「響!お疲れ様!ね、この後さ、…」
「ごめん、この後ミーティングで学校戻んないといけないから」
「えー、そうなの?」

一緒に帰るつもりでいたのだろう。
残念そうな陽菜は、響のユニフォームの裾を掴んだまま離さない…


ラブラブじゃん。
なんだか、二人の仲を見せつけられているようだ。
彼女に不満があるようには見えない響に、結局あの愚痴ものろけだったのかと更に落ち込む。

こんなの見たくなかったよ…。


「奏先輩も、この後学校来ますよね?
三年生を送り出す会の試合のミーティングなんで。一緒にミーティングはしないけど、三年生も集まるんでしょ」
「あ、うん…」


彼女の前では、〝奏ちゃん〟って言わないんだ?
ずるいよ、それ。

期待しちゃいけないって分かってた。
それでも、もしかしたら…って心のどこかで思ってた自分に嫌気が差す。


千夏と学校に向かいながら、
「ホント、バカだな」と、秋の風に隠して一つため息を零した。





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