1 / 29
第一章
放課後の習慣
しおりを挟む
10月の優しい風に、夕暮れのオレンジ色の光。
穏やかな時間が過ぎていく。
体育館から聞こえてくる音、好きだな…。
バレーボールを打つ音、バスケットボールのドリブルの音、体育館シューズで走る音、笛の音、掛け声…。
そんな放課後の音に耳を傾けながら、一階の教室で中庭を眺めながら読書をするのが、私、菅原奏(すがわら かなで)の習慣になっていた。
「ここで本読むくらいなら、体育館で部活見てくれたらいいのに」
そう言って、私の目の前でもみじの葉をクルクルと回しながら、窓際からひょっこり現れたのは一つ下の後輩、高橋響(たかはし ひびき)。
いつもこうやって、何かとひょっこり現れる。
「…またサボりに来たの?」
「サボってないし。休憩時間だし」
高校3年になって引退するまで、私は男子バレー部のマネージャーだった。
彼は、バレー部の後輩。
中学も一緒で、その頃から何かと接点がある。
もう6年もの腐れ縁だ。
「奏ちゃんさ、暇なの?」
「先輩に〝ちゃん〟付けしないよね、普通」
「暇なの?」
聞いてないし…
いつもそう。
少し強引で、人の心の中にズカズカ入ってくる。
だけどそれがちょっと心地いいなんて思っている私は、既に響に心を〝侵食〟され始めているのだろうか。
「もう帰るよ」
私は手元の本にまた視線を落として、そう答えた。
「なーんだ、まだ居るなら一緒に帰ろうと思ってたのに」
そんなことをさらっと言ってしまう彼に、ため息が出る。
「あのさ、そういうこと簡単に言わない方がいいんじゃない?」
「なんで?」
キョトンとした表情で私を見つめる響…
「なんでって…」
その真っ直ぐな目に射ぬかれたように胸がトクントクンとうるさく鳴った。
まるで私の気持ちが、響に試されてるような感覚に陥る。
「俺、奏ちゃんにしか言わないし」
「だから、…っ」
「あげる」
目の前に差し出された、もみじの葉…
まだ黄みが残る優しい色の赤い葉。
思わず勢いに押されて受け取ろうと手を伸ばしかけた時、バレー部からの集合が掛かかった。
「やべ、奏ちゃんじゃあね、気を付けて帰ってよ?」
そう言って、彼は走って体育館へ戻っていく。
机の上に置かれたもみじ…
そっと手に乗せて、
「バカだな、私…」
なんて一人呟いてみた。
四ヶ月前から続く、響との放課後の会話…
これもまた私の毎日の習慣。
会話の最後には必ず「気を付けて帰ってよ」って、響は優しく告げる。
最初は、他のクラスの友達を待ってるだけの時間だった。
だけどあの日、たまたま教室の前を通り掛かった響と、ここでこうやって話して、それ以来いつの間にか、彼が来るのを待っている自分が居る。
これを、恋と呼ぶことは、もうとっくに気付いているのに…。
気持ちが知られてしまえば、こんな風に普通に話せなくなるかもしれないとか、そんな不安が素直な気持ちを抑え込むのだ。
先輩と後輩、その中でも一番気の合う関係で居られるのなら、それでもいい。
想いを伝えられないもどかしさと情けなさに、自分でも笑ってしまう。
だけど、そうやって気持ちにブレーキを掛けることしか、今の私には出来なかった。
穏やかな時間が過ぎていく。
体育館から聞こえてくる音、好きだな…。
バレーボールを打つ音、バスケットボールのドリブルの音、体育館シューズで走る音、笛の音、掛け声…。
そんな放課後の音に耳を傾けながら、一階の教室で中庭を眺めながら読書をするのが、私、菅原奏(すがわら かなで)の習慣になっていた。
「ここで本読むくらいなら、体育館で部活見てくれたらいいのに」
そう言って、私の目の前でもみじの葉をクルクルと回しながら、窓際からひょっこり現れたのは一つ下の後輩、高橋響(たかはし ひびき)。
いつもこうやって、何かとひょっこり現れる。
「…またサボりに来たの?」
「サボってないし。休憩時間だし」
高校3年になって引退するまで、私は男子バレー部のマネージャーだった。
彼は、バレー部の後輩。
中学も一緒で、その頃から何かと接点がある。
もう6年もの腐れ縁だ。
「奏ちゃんさ、暇なの?」
「先輩に〝ちゃん〟付けしないよね、普通」
「暇なの?」
聞いてないし…
いつもそう。
少し強引で、人の心の中にズカズカ入ってくる。
だけどそれがちょっと心地いいなんて思っている私は、既に響に心を〝侵食〟され始めているのだろうか。
「もう帰るよ」
私は手元の本にまた視線を落として、そう答えた。
「なーんだ、まだ居るなら一緒に帰ろうと思ってたのに」
そんなことをさらっと言ってしまう彼に、ため息が出る。
「あのさ、そういうこと簡単に言わない方がいいんじゃない?」
「なんで?」
キョトンとした表情で私を見つめる響…
「なんでって…」
その真っ直ぐな目に射ぬかれたように胸がトクントクンとうるさく鳴った。
まるで私の気持ちが、響に試されてるような感覚に陥る。
「俺、奏ちゃんにしか言わないし」
「だから、…っ」
「あげる」
目の前に差し出された、もみじの葉…
まだ黄みが残る優しい色の赤い葉。
思わず勢いに押されて受け取ろうと手を伸ばしかけた時、バレー部からの集合が掛かかった。
「やべ、奏ちゃんじゃあね、気を付けて帰ってよ?」
そう言って、彼は走って体育館へ戻っていく。
机の上に置かれたもみじ…
そっと手に乗せて、
「バカだな、私…」
なんて一人呟いてみた。
四ヶ月前から続く、響との放課後の会話…
これもまた私の毎日の習慣。
会話の最後には必ず「気を付けて帰ってよ」って、響は優しく告げる。
最初は、他のクラスの友達を待ってるだけの時間だった。
だけどあの日、たまたま教室の前を通り掛かった響と、ここでこうやって話して、それ以来いつの間にか、彼が来るのを待っている自分が居る。
これを、恋と呼ぶことは、もうとっくに気付いているのに…。
気持ちが知られてしまえば、こんな風に普通に話せなくなるかもしれないとか、そんな不安が素直な気持ちを抑え込むのだ。
先輩と後輩、その中でも一番気の合う関係で居られるのなら、それでもいい。
想いを伝えられないもどかしさと情けなさに、自分でも笑ってしまう。
だけど、そうやって気持ちにブレーキを掛けることしか、今の私には出来なかった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ポケットに隠した約束
Mari
恋愛
ウェディングプランナーの瑞希は、ある日ニューヨークに転勤していた元カレの晃平と再会。
日本に帰ってきた時お互いに相手が居なければ結婚しようという晃平との約束を期待していたが、晃平が口にした言葉は「結婚するんだ」という衝撃の事実だった。
その上、結婚式の担当まですることとなり…。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる