もれなく双子の姉が憑いてきます

Mari

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第一章

入れ替わり

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「マジで最悪だ……」

Wデートを前日に控えたその夜、私は三十九度を越える高熱を出した。

〝詩乃…あんた、とことん運の無い子ね……〟

「絶対治す!明日までに絶対熱下げるっ」
布団を頭から被り半泣き状態の私に、梨乃はため息をつく。

〝どうやって治すって言うのよ。例え熱が下がったとしても、海なんて行けるわけないでしょっ〟

「梨乃は風邪引くこともないから、そんな簡単に言えるんだよ!」
とんだ八つ当たりだ。

私は無理矢理にでも熱を下げようと、冷えピタや解熱剤、替えの部屋着やポカリスエットなど、あらゆる策を練る。

夜中に目が覚め、熱を計ってみるが……。

「……三十九・五度……有り得ない、上がってる……」
私は高熱とショックで、そのまま倒れ込むように寝入ってしまった。



翌朝、目が覚めると天井がやけに間近にある。

〝うわぁっ、な、何っ?天井近っ!……え?待って……どういうこと?〟
夢でも見ているのだろうか。

目の前には私の身体がベッドに横たわっている。

私は自分の手をまじまじと見つめた。
〝透け、てる……〟
これは、幽体離脱?
こんなことが本当にあるの?
なんとか気持ちを抑えようとしても、怪奇な出来事に混乱を隠せない。
すると目の前で寝ていた私の身体が、むくりと起き上がる。

「んん……おはよ、詩乃」

〝……え、梨乃?〟

「……え?……詩乃?」


二人、顔を見合わせて目を見開く。

「何これ!?」

〝私が聞きたいよー……〟

「私と詩乃の魂が、入れ替わっちゃったってこと?」

〝そうみたい……、どうしよう……〟
ドクドクと鼓動が激しく音を鳴らした。

「あ…」
梨乃は何かに気付いたように、おもむろに熱を計り始める。
「三十六度……」
あれだけの高熱が下がってピンピンしているのは、もしかして風邪を引いていない梨乃が身体に入ったからだろうか。

〝梨乃、これ……どうやったら戻るの?〟

「えーっと……私にも分かんない」

〝そんなぁ……〟
Wデートの時間は刻々と迫っていた。
為す術もなく、ただ呆然としていると、梨乃が思い立ったように口を開く。

「よし、私が詩乃のふりしてデート行く」

〝えぇっ!〟

「どうせ元に戻る方法も分かんないんだし、ドタキャンするよりいいでしょ」

待って、ちょっと待って。
そうかもしれない、そうかもしれないけど……。
混乱した頭で必死に考える私をしり目に、梨乃は早速出かける準備を始めた。
私は依然として、この奇妙な出来事に頭がついていかない。



「お母さん!友達と海に行ってくるね」

「はいはい、帰りは遅くならないようにしなさいよ」

「はぁーい!」
当たり前のことだが、母親さえも私たちの入れ替わりに気付かなかった。


「うっわぁ、私、歩いてる!風を感じるー!」
待ち合わせの駅まで、嬉しそうに歩く梨乃。
私は複雑でしかない。

〝梨乃……これ、ずっとこのままじゃないよね?〟

「んー、どうなんだろ?なんせ初めての経験だし」

〝ひどい……〟


初めてのWデート。
雄大との初めてのお出掛け。
楽しみにしてたのに……。

待ち合わせ場所に着いてしばらくすると、歩美や涼太、雄大も到着した。
楽しそうに並んで歩く四人を見て、寂しさは増していく。

〝あ……、梨乃もいつもこんな気持ちだったのかな〟
不意に呟くと、梨乃が「ん?」と振り返った。

〝ううん、なんでもない…〟

知らなかった……。
存在は知られていても、輪に入れない寂しさや触れられないもどかしさが、こんなに孤独だなんて。

「詩乃、今日はやけにはしゃいでるね」
そう言って歩美が笑うと、私の身体を借りた梨乃も嬉しそうに笑う。
そんな梨乃を見て、私は何も言えなくなってしまった。

梨乃はこんな想いを、物心ついた頃から感じてたというの?
そんな複雑な気持ちが私の中で渦巻いていた。
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