ポケットに隠した約束

Mari

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最終章

三年越しのプロポーズ

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恋人たちで賑わう街を縫うようにして、白い息を吐きながら私は夢中で走った。
イルミネーションで彩られた並木道を抜け、夜景が一望出来る高台の公園までやってくる。

三年前の今日、晃平と一緒に来るはずだった場所。

夜景を眺めることの出来るベンチに一歩一歩近付いた。
高鳴る鼓動は、一向に鳴り止まない。
しかし、辺りを見回しても晃平の姿はなかった。

私はコートのポケットに左手を入れると、おもむろに片方だけの手袋を取り出す。
この三年間、ポケットに隠し続けてきたものだ。
何でもないふりをして、平気なふりをして、晃平を忘れたふりをして…、過ごした日々。
本当はずっと、ずっと晃平だけを想い続けてきた。

「…居るわけ、ないか…」
風に乗って消えてしまいそうな言葉に、なんだか笑えてくる。
十数年ぶりに全速力で走って来たということもあり、一気に力が抜けた私はベンチに腰を下ろした。
目の前に広がる街の灯りは、まるで宝石箱のようで、釘付けになる。
「…キレイ」
ひんやりとした空気がコートまでもを冷たくしたその時…


「瑞希…?」
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、街灯に照らされた晃平の姿。

「晃…平…」
「さっき、電話したのに出ないから、まだ仕事中なのかと思ってた…」
「えっ…」
そうだ…、フェアの間マナーモードにしていた携帯…、走ってたから気付かなかったんだ。

「電話、くれたの?」
「…どうしても、今日会いたくて…」
おさまってきてたはずの鼓動が、どうしようもなく、またうるさく聞こえてくる。


「瑞希、三年前の今日をやり直しさせてくれる?」
「…クリスマスデート?」
キョトンとする私に晃平は柔らかく笑った。
「いや、〝ここから〟って言えばいいのかな」
少しずつ、晃平が距離を詰める。
そして、右のポケットから小箱を取り出すと、小箱のリボンをほどきながら話を続けた。
「三年前の今日、俺はここでお前に大事な話をするつもりだった。転勤でニューヨークに行っても、瑞希への気持ちは変わらなかったよ」
一つ一つ丁寧に小箱を開けていく晃平の指と、優しくて低い声…
「俺の気持ちは瑞希以外に無い」
小箱の中のケースから、ピンクゴールドのキレイな指輪が取り出される。

「俺と、結婚して下さい」
「…晃平」
涙で晃平の顔がまともに見えない。
「俺の奥さんは、瑞希がいい…」
待って、待って、待ち焦がれた瞬間だった。
精一杯の気持ちを込めて、
「はい」
そう言葉を押し出す。
溢れ出した涙で、声は震えていた。

左手の薬指にぴったりハマった指輪がキラキラと輝く。
勢いよく抱きしめられると、もう二度と離さないつもりで抱きしめ返した。
「私の旦那さんは、晃平がいい」
晃平の腕の力がグッと増す。
「…苦しい」
照れくささに思わずそんな言葉を言って笑うと、晃平も「じゃあもっと」と言ってわざと力を込めて笑った。

一度身体を離した晃平は、ポケットから缶コーヒーを二つ取り出すと、私の両頬に押し付けた。
まだほんのり温かい缶コーヒー。

「瑞希のコートも手も、超冷てぇ」
そう言って笑う。
「…晃平こそ」と、私が眉を下げて首を傾げると、
「そりゃあな。何時間もここで待たされればな」
なんて晃平は皮肉を言って、寒すぎて缶コーヒーを買いに行ってたと教えてくれた。


「幸せにする」
不意に告げられた言葉に、
「是非」
それだけ返す。


三年前のクリスマス、私たちの時間は一度止まってしまった。
だけどお互いの想いはずっと繋がったままこの時を待ち望み、そしてもう一度三年越しのクリスマスに時間は動き出す。


ポケットに隠した、思い出の手袋とプロポーズのための指輪。
それがあったからこそ、いつだってお互いを忘れることはなかった。
〝いつかきっと〟…そんな二人の強い想いが、三年前の約束を本物にしたのかもしれない。
何度だってやり直そう。
この想いがある限り。




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