ポケットに隠した約束

Mari

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第七章

最後の望み

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雪乃はトボトボと歩きながら、イルミネーションがキラキラと輝く街を抜ける。
気が付けば夜景が一望出来る高台の公園まで来ていた。

先程、将太から聞いた話を思い出す。
〝高台にある公園でプロポーズを考えてた〟
その言葉が浮かび、きっとこんな場所なんだろうなと辺りを見渡した。

晃平と出逢った日のことや、二人で過ごした日々が脳裏に蘇る。
一目惚れで、晃平の優しさを利用して始まった恋。
〝ごめんね…〟罪悪感と共に、〝好きだよ…〟そんな愛しさも同じように雪乃の心に溢れ出した。

雪乃は思わず膝を抱えてうずくまる。

こんなに好きなのに…
そんな気持ちがまた涙に変わり、止まることのない涙は冷たい風に吹かれて雪乃の心までもを凍らせるようだった。

声を聞きたい。
今はただそれだけだった。


雪乃はおもむろに携帯を取り出し、晃平に電話をかける。

Trururu…trururu…

電話をかけながら、電話に出てくれるのだろうかと不安な想いでいっぱいになった。
〝別れよう〟と言われたあの日以来なのだから。

『はい…』
「…っ、もしもし、晃平…」
『…うん』
「…」
声を聞いただけで胸がいっぱいだった。
晃平への想いが溢れてくる。

「ごめん…なさい。…晃平の気持ちも、考えずに…私、晃平を苦しめてた…」
泣きながら、なんとか口にした言葉。
『俺も…ごめん』
返ってくる晃平の優しささえも辛かった。

「…会いたい、晃平…別れたくない…」
『…雪乃…』
「別れたくないよ…」
『…ごめん、もう気持ちに嘘はつけない』

最後の望みも届かない。
雪乃にとっては精一杯の素直な気持ちだった。



ピンポーン…

「はーい」
玄関のドアがすぐに開かれる。
雪乃は晃平との電話の後、咲良のマンションへと向かっていた。

「お姉…ちゃん…」
「ひとしきり泣いてきましたって顔ね…」

涙と鼻水で、鼻や目を真っ赤にした雪乃を見て、咲良は困ったように微笑むと雪乃の肩に触れて部屋へ促した。

「ほら、コーヒー飲んで暖まって」
「…ありがと」

冷えきった身体をブランケットで包み込み、温かいコーヒーの匂いが心を落ち着かせる。

「別れ話でもしてきた?」
咲良は唐突に雪乃へ問い掛けた。
「…別れたくないって言ってみたけど、見事玉砕…」
「雪乃がここに来る前にね、晃平くんから電話があったのよ」
「…え?」
雪乃は顔を上げ、咲良を見る。

「…〝雪乃を、宜しくお願いします〟って」
「っ…」
どこまで優しいんだろう。
こんな状況でも気遣ってくれる晃平の優しさに、雪乃は自分自身の不甲斐なさを強く感じた。

「〝雪乃のこと、幸せに出来なくてすみません〟って、晃平くん言ってたよ。いい男、好きになったね、雪乃」
咲良の言葉に止まっていた涙が再び溢れる。
「私、晃平のこと…、本当に好きだったの…」
「うん」
「だけど、晃平の気持ちも考えずに、自分の幸せだけを考えてた…」
「…うん」

咲良は雪乃の隣に座り直した。
雪乃の気持ちが痛いほど伝わってくる。

「今度はちゃんと最初から好きな人と向き合って、好きになってもらって、いい恋しようね、雪乃…」
「…うん」

咲良は雪乃の頭を優しく撫でた。
今度こそ幸せになって…そう願いながら。




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