ポケットに隠した約束

Mari

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第七章

祖父母への報告

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ピンポーン…

んん?
誰…?こんな朝っぱらから…

ピンポーン…

休みなんだからもう少し寝かせてよぅ…


ピンポーン…ピンポンピンポンピンポーン…

うあぁぁー…
もう!

「はいはい…」

玄関の覗き穴から外を見ると、柚希の姿。
なんだよぅ、寝かせてくれよ…

ガチャ…

「柚希、今日休みなんだけど…」
「知ってる。だから来たの」
「どうしたの…?」
「いいからいいから、早く準備して」
「え?準備って何?」
「出掛ける準備!」
「…は?」

あれよあれよと、柚希に急かされるままに私は出掛ける準備をした。
時刻はまだ朝の七時半。
まじか…
柚ぽん、休みの日にそりゃないぜ…。


柚希に引っ張られ電車に乗り込み、途中花屋に寄り、辿り着いた先は…
相澤家の祖父母が眠る墓地だった。

「久しぶりに来た…」
「そうでしょう?お姉ちゃん、お盆もここ数年忙しくて来れてないもんね」

柚希は、お花を供え線香に火をつける。

「おじいちゃんとおばあちゃんに、結婚の報告をしたかったの」
そう言って柚希は微笑んだ。


祖父母への報告を終え、墓地の近くの公園に向かう。

「柚希、私さ福岡行き断ったよ」
「そっか」
「晃平のことはね、関係ないの。ただ単純にもっとプランナーで居たかったの」
柚希は、一度私の顔を見ると〝ふーん〟と言って笑った。


「ねぇ、お姉ちゃんさ、覚えてる?」
「うん?」
「おじいちゃんとおばあちゃんがまだ生きてる時さ、お姉ちゃんと私とおじいちゃんたちとで、旅行に行ったじゃん?」
「うん、温泉旅行ね!」
懐かしさが胸に広がる。
大好きだったおじいちゃんとおばあちゃん。
私と柚希とで、四人での温泉旅行をプレゼントしたんだっけ。

「あの時おばあちゃんが言った言葉、覚えてる?」
「おばあちゃんが言った言葉?」

ちょうど近くで花火大会をしてて、温泉旅館の部屋から花火を見ていた時だと言う。
おぼろげに記憶を辿り、頭を捻った。


「〝いつか、心から好きな人が出来た時、どんなに辛い状況であっても自分の素直な気持ちだけは伝えなさい〟って、おばあちゃん言ったんだよ」

あ…、覚えてる。
後悔だけはしないようにと、おばあちゃんは微笑んでた。
その後、おばあちゃんもう一ついいこと言ってたな、なんだっけ…

「お姉ちゃんはさ、今のままで本当に後悔しない?」
「…柚希…」
「人ってさ、明日も自分は生きてますなんて誰も言えないじゃない」
「…そうだね」
「好きな人に好きって伝えられないまま、事故に遭って死んじゃったら、絶対後悔するよね」
「…うん」
「伝えてダメだったとしてもさ、ちゃんと前を向ける気がしない?」

柚希の言う通りかもしれない。
今の私では、後悔が残らないわけがなかった。
…私、晃平が日本に帰ってきてからまだ〝おかえり〟も、〝待ってた〟も、〝好き〟も何も伝えてない。

「おばあちゃんが言ってたじゃん。〝人は本当の意味で前を向いた時、その後に必ずいいことが待ってるから諦めるな〟って」

あ、そうだ、その言葉でワクワクしたんだっけ。
その言葉を信じたいと思ったんだよね…


「お姉ちゃんもさ、おじいちゃんとおばあちゃんに恥ずかしくない報告が出来るように頑張りなよ」
柚希はそう言ってニカッと笑った。

「…言ってくれるね」
横目で柚希を見ると、
柚希が何かを思い出したように言う。
「そういえば、晃平さんも同じセリフ言ってたな…」
「え?晃平と会ったの?」
「うん、ちょっと前に偶然カフェでね」

〝あーあ、バカみたい〟と言いながら柚希は空を仰ぎ見た。

「晃平さんもお姉ちゃんも似た者同士、いい加減素直になりなよー」
柚希の言葉に苦笑する。


柚希が今日、祖父母の墓参りに私を連れてきてくれたのは、おばあちゃんの言葉を思い出させたかったのかもしれないな。

おかげで、少しだけ勇気が湧いてきたような気がした。
左のコートのポケットに手を入れる。
触れた手袋…。
晃平との叶わなかった約束をポケットに隠したまま、冬の空に白い息を吐き出して、一つ笑顔を溢した。






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