狂宴〜接待させられる美少年〜

はる

文字の大きさ
上 下
138 / 436

愛欲

しおりを挟む


 手配した馬車にナディアと共に乗り込むと馬車は動き出した。向かいに座ったナディアに「エルサは私を嫌っている割に、自分から沢山話し掛けて来るのだけど……どうしてかしらね?」と訊ねてみた。


「えっと……多分セラティーナ様に構ってほしいのかと」
「正面から大嫌いって昔言われたわよ? 一応、気にしてエルサにも接触しないよう注意を払っているのだけど」
「エルサ様は素直ではありませんから……」


 素直ではない? とても素直だ。公爵家の娘として思った事をそのまま言葉にするのは頂けないが包み隠さずセラティーナへの敵意を隠さず、真正面からぶつけるエルサが何だかとても可愛い。悪意がないと言われると違うが、両親やセラティーナを馬鹿にする周囲と違って濃度が極端に薄い。悪者ぶっても完全に悪になれない。根が良い子なのだ、元から。

 馬車が街の広場に停車するとすぐさまセラティーナは降り、慌てて降りたナディアに微笑んだ。


「ナディアはオペラを買って来て」
「セラティーナ様は?」
「私は用事があるの。長引くかもしれないから、オペラを買ったら馬車で待っていて」
「いけません、私が代わりに」
「いいえ。私が行かないと駄目よ」


 ナディアが言葉を続ける前に令嬢らしからぬ速度でその場を離れたセラティーナ。お陰で目的地にはすぐに着いた。王国で最も大きな組合ギルド『グレーテル』。確か、初代マスターの名前がグレーテルだからと聞いた。中に入り、カウンターにいる受付嬢に声を掛けた。


「あの」
「どうされました? ご依頼は?」
「帝国の地理に詳しい方を紹介して頂きたいのですが」
「帝国の? 同行者をお探しで?」
「いえ。帝国に用があって、王都から帝都まで定期便があるのは知っていますが帝都の外となるとどう進んだらいいか分からないから……」
「でしたら、同行者を付けた方が宜しいのでは?」


 見るからに裕福な娘が訳アリの空気を醸し出している。組合に入る前、髪の色を茶色に変え、顔も少し魔法で変えたので仕方ないかもしれない。鞄から多目のお金を出して受付嬢の前に置いた。


「代金はきちんと払います」
「そういう問題ではなく……」


 困った。善意で言ってくれているのは承知しているがセラティーナからすると地理について教えてくれるだけでいい。どうしようかお互いに困り果てていると「どうしたー?」と男性の声が飛んで来た。


「ランスさん」


 坊主頭で額に斜め線の傷が入った大柄の男が興味深げに会話に入った。何処かで見たような、と既視感を覚えるも受付嬢を納得させるのが先だ。


「この方が帝国の外へ行く為に帝国の地理に詳しい方をと言われているのですが同行者希望ではないようで」
「そりゃあいけねえ。あんた、どんな事情があるか知らないが一人で行くのは危険だ」


 彼等が親切心から忠告しているのは解しているものの、正直に事情を明かせないのが辛い。


「ところで帝都の外なんてどこまで行くんだい?」
「えっと……帝都から北に二十キロ程離れた森へ行きたくて」
「確かそこは朝の妖精っていう、小さい妖精族が好む森だな。そこに何の用が?」


 ここまで来たら話さないと納得してくれなさそうだ。


「その森に住む魔法使いに会いたくて……」
「それは……ひょっとしてフェレス=カエルレウムか?」
「ご存知なのですか?」
「ああ。知り合いでな」


 フェレスに会いたいのは事実だ。会いたい理由を妖精族の魔力から作られると言われる妖精の粉が欲しいのだと言い、フェレスはやって来る依頼人は大抵受け入れると聞きどうしても会いに行きたいのだと話した。妖精の粉は主に魔力増幅の材料となり、また、非常に美しい代物で婚約者に贈りたいと理由を作った。


「妖精の粉を婚約者にか……立派だがあんた変装魔法を使ってるな?」
「ええ……」
「ってことは、貴族のお嬢さん辺りか」
「お金はきちんと払います。だから、どうか紹介して頂けないでしょうか」
「うーん。お嬢さん一人でっていうのがネックだなあ……」


 やはり、同行者同伴でないと駄目だろうか。腕を組んで悩むランスに受付嬢とセラティーナの視線が集中する。


「あ。でも確か」
「え」
「数日前だったか。フェレスから連絡が来たんだ。四日後に王都に来るって」
「王都に?」
「ああ。何でも王都にしかないものがあるらしくて、それを探しに来るんだと」


 フェレス程の魔法使いが欲する物が王都にある……? かれこれ十八年は王都に住むセラティーナだが見当がつかない。


「王都に来たら顔を出すって言っていたから、あいつが来たらお嬢さんに連絡を入れよう」
「本当ですか?」
「その代わり、あんたの身分を証明してくれ」
「分かりました」


 会いに行こうと思っていた前世の夫が王都に来る。その機会は逃せない。ランスに言われ、セラティーナは変装魔法を解除した。途端に変わる髪色や顔立ちに二人が息を呑む。


「こりゃあ驚いた……あんた、かなりの別嬪さんだな」
「ありがとうございます。私はセラティーナ=プラティーヌと申します」
「プラティーヌと言えば、超大金持ちの。だがプラティーヌ家は魔法が得意じゃない奴が殆どだろう?」
「ええ。でも、私は偶々魔法が得意な方みたいで」
「そうか」
「婚約者も魔法が得意な方なので妖精の粉が欲しくて」


 嘘ではないがシュヴァルツの為に妖精の粉を欲していない。ランスは受付嬢に向き、セラティーナの依頼は自分が受けると言い、受付嬢もそれを承諾。カウンターに置いてあるリストに何やら書き込みをしている。依頼は正式に受理された。


「フェレスが来たら、魔法で連絡を送ろう」
「ありがとうございます。助かります」


 これでフェレスに会える手段が整った。もしも、側に他に愛する女性がいたとしても、一目で良い、彼に会いたい。会ったら王国を去ろう。帝国に移住しても良い。流れ者でも魔法使いなら重宝してくれる。



しおりを挟む
BLサイトが多数登録されています!→B L ♂ U N I O N★BL♂鬼畜18禁RANK★
感想 58

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...