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旋律にのせて
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「おっ、やっときた!遅いぞ~!」
「ルナちゃん待ちくたびれたよ!」
客席は、既に準備満タン待機モードだった。
「遅くなってごめん!今日は、リクのピアノの演奏で新しい曲唄いまーす! 」
「ええ!リク君、ピアノ弾けるの!?」
お得意さんが俺に質問した。
「はい。趣味程度なので、あまり期待しないでくださいね。」
俺は答えた。やばい。緊張してきた。
俺はルナに目配せをすると、深呼吸をして、鍵盤に指を乗せ、ゆっくりとピアノを弾き始める。
俺の演奏にルナの歌声が乗る。 歌詞を聴くのは初めてだった。
『生まれて初めての感情。
君が教えてくれた。
"好き"ってこういう気持ちなんだね。
とても優しい目をした君。
すぐに謝る癖。
見つめると照れて逸らす横顔。
全部が愛おしく感じるよ。
君が僕の心の闇を消してくれた。
君が僕に幸せをくれた。
やっとわかったよ、僕は君と出会うために生きてきたんだね。』
演奏しながら聴こえてくるルナの歌声と素敵な歌詞。前に聴いた曲のように切ない歌詞ではなかった。
すぐにわかった。
俺の事、歌詞にしてくれたんだ。
この世界に来てから涙腺が緩みまくっている俺は、涙が滲み出そうになるのをぐっと堪えた。ピアノを弾いているから涙を拭うことは出来ないし、泣けば鍵盤も見えなくなってしまう。何より、ルナが一度も泣いていないのに、年上の俺が泣くわけにいかないじゃないか。
溢れそうな涙を想いに変えて旋律に乗せた。
心を込めて、ルナを想って、ピアノを弾いた。
演奏を終えると、まさかのスタンディングオベーションを頂いた。俺も自分なりに満足のいく演奏ができたと思う。おじいちゃんはカウンターの方から嬉しそうな顔をしながら、ウイスキーを嗜んでいた。
「リク、最後に挨拶する?」
ルナに小声で聞かれた。
「あぁ、そっか。そうだね。」
俺は、ルナからマイクを借りた。
「皆さん、俺は今日がスノースマイルでの最後の勤務になります。」
「ええ!そうなの!?」
俺の一言で客席が騒然とした。
「はい。ちょっと事情があって…。短い間でしたけど、お世話になりました。俺にとって、この二週間は何にも変えられない大切な日々でした。皆さんの事が大好きです。」
みんなが拍手喝采をしてくれた。胸がいっぱいだった。
このスノースマイルには、同性同士のカップルがよく訪れた。仲睦まじく、ご飯を食べて、お酒を飲んで、語らい合う。そんな彼等、彼女等を見ている事が本当に幸せだった。性別の垣根なく愛し合えるこの世界が、俺は本当に大好きだ。
「ルナちゃん待ちくたびれたよ!」
客席は、既に準備満タン待機モードだった。
「遅くなってごめん!今日は、リクのピアノの演奏で新しい曲唄いまーす! 」
「ええ!リク君、ピアノ弾けるの!?」
お得意さんが俺に質問した。
「はい。趣味程度なので、あまり期待しないでくださいね。」
俺は答えた。やばい。緊張してきた。
俺はルナに目配せをすると、深呼吸をして、鍵盤に指を乗せ、ゆっくりとピアノを弾き始める。
俺の演奏にルナの歌声が乗る。 歌詞を聴くのは初めてだった。
『生まれて初めての感情。
君が教えてくれた。
"好き"ってこういう気持ちなんだね。
とても優しい目をした君。
すぐに謝る癖。
見つめると照れて逸らす横顔。
全部が愛おしく感じるよ。
君が僕の心の闇を消してくれた。
君が僕に幸せをくれた。
やっとわかったよ、僕は君と出会うために生きてきたんだね。』
演奏しながら聴こえてくるルナの歌声と素敵な歌詞。前に聴いた曲のように切ない歌詞ではなかった。
すぐにわかった。
俺の事、歌詞にしてくれたんだ。
この世界に来てから涙腺が緩みまくっている俺は、涙が滲み出そうになるのをぐっと堪えた。ピアノを弾いているから涙を拭うことは出来ないし、泣けば鍵盤も見えなくなってしまう。何より、ルナが一度も泣いていないのに、年上の俺が泣くわけにいかないじゃないか。
溢れそうな涙を想いに変えて旋律に乗せた。
心を込めて、ルナを想って、ピアノを弾いた。
演奏を終えると、まさかのスタンディングオベーションを頂いた。俺も自分なりに満足のいく演奏ができたと思う。おじいちゃんはカウンターの方から嬉しそうな顔をしながら、ウイスキーを嗜んでいた。
「リク、最後に挨拶する?」
ルナに小声で聞かれた。
「あぁ、そっか。そうだね。」
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「皆さん、俺は今日がスノースマイルでの最後の勤務になります。」
「ええ!そうなの!?」
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