レモネードのように。

はる

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リクのレモネード

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この日は、前日と打って変わって晴天だった。俺とルナはいつも通り「おはよう」と言い、一緒に顔を洗って、一緒に歯を磨く。

「今日さ、おじいちゃんが仕事しなくていいって。二人で遊んでおいでって言ってくれたよ。夜のライブの時間には戻っておいでって。」

「そうなんだ。でも、午前中だけでも働かせてもらおうかな。ルナと一緒に働くの楽しいし、俺が作った渾身のレモネード、飲んで欲しい。」

「可愛い後輩のお願いなら聞くしかありませんね。」

「出た、ルナの謎の先輩風!」

「謎ってなにさー!」

俺とルナは笑いあった。言葉を尽くして、沢山話をした。仕事中もずっと話していたから、「働くならちゃんと働け!」とおじいちゃんに叱られた。

いつも通りの日常。

俺とルナの大切な一日。

「あ、おいしい。」

俺が作ったレモネードを飲んで、ルナが言った。

「本当?」

「うん!すごいよ、リク。」

「ルナの教え方が上手いんだと思うよ。」

「まぁね。」

ルナはちっとも謙遜せずニコッと笑った。

ルナの笑顔が好きだ。

笑うと出来る小さなえくぼが好きだ。

ルナが…好きだ。

俺が作ったレモネードは、外から差し込む日差しを反射して、海のようにキラキラと輝いていた。

スノースマイルでの最後の勤務を終えると、おじいちゃんが「少ないが受け取ってくれ」と給料を渡してくれた。

「居候させて頂いていたのに、給料なんて受け取れませんよ。それに俺、明日の朝には…」

「この金でルナに何か買ってやってくれ。」

そう言われ、俺は少し悩んだが、有難く受け取る事にした。

午後、ルナと街へ出かけた。街へ出るのは、初日に一緒に出かけたとき以来で、恋人同士になってからは、初めてだ。

午後一番の温かく優しい風が頬を切る。夏草の香るストリートをルナと並んで歩く。

少し違う歩幅。俺は、ルナに合わせてゆっくり歩く。

「あ、ねぇリク。僕帽子見たい!」

「おー、いいね。」

通りかかった帽子屋さんに入った。

「ルナ、どんな帽子が欲しいの?」

「なんか可愛いキャップが欲しい!」

「あ、これは?」

帽子のツバがチェックになっているオレンジ色の少し派手目なキャップを手に取った。ルナには明るい色が似合いそうだと思ったんだ。俺は、その帽子をルナの頭に被せた。

「わ、大きい…」

帽子がずり落ちそうなるのを、ルナが抑えながら言った。

「ルナの頭が小さいんだよ。」

俺は、笑いながらサイズを調整した。

「…どう?」

少し照れくさそうにルナは俺に聞く。

「うん、すごく似合う。可愛いよ、ルナ。ほら。」

俺は、ルナの後ろから両肩に手を乗せて、鏡の方を向かせた。

「あ、いい感じかも。」

ルナも気に入ってくれたみたいだ。俺は、その帽子をレジに持っていった。店員に「可愛い彼氏さんですね。」と言われた。

「はい、自慢の恋人です。」

と俺は答えた。嬉しかった。

恋人とデートをして、恋人を褒めてもらえて、恋人の為に何かをしてあげられる事が。

その後は、二人で街を散策し、オシャレなお店のテラス席でご飯を食べて、ルナのオススメのお店でジェラートを食べた。

街は、男性同士、女性同士で手を繋ぐカップルが沢山いた。

俺は、この世界が本当に好きだ。

「ルナ、手を繋ごう。」

「うん。」

俺達は、手を繋いで街を歩いた。これが最後のデートだということ、口には出さなかった。俺達は、今この瞬間だけを、ただ精一杯楽しみたかった。
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