レモネードのように。

はる

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残りの時間

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おじいちゃんが部屋を出て、俺とルナが残された。

「ルナは、砂時計のこと知っていたの?」

「おじいちゃんからそういう話は聞いていたよ。でも、話半分だったし、信じてはいなかった。本当だったなんて思わなかった…。」

「そっか…。」

部屋に残された俺とルナは、一言ずつ会話を交わしては黙り込む。それを繰り返していた。

「でもさ、リクには帰る場所があるんだから。"旅が終わって家に帰る"  それだけの事なんだよ、きっと。」

ルナはそう言うと、また俺の頬を両手の平でむぎゅっとした。

「悲しそうな顔しないで。残りの時間を楽しもうよ。」

悲しそうな顔してるのは、どっちだよ。確かに元の世界のことは気になる。帰りたいというより、帰らないといけない。

でも、でも…。

離れたくない。

片時も離れず、ルナの側にいたい。

俺はルナを抱き寄せて、キスをした。突然だったから、ルナは少し驚いたような顔をしていたけど、すぐに応えてくれた。

「いっぱい甘えさせてよ、リク。」

「当たり前だよ。」

俺とルナは抱き合った。


「明日ね、新しい曲でライブしようと思う。リクの演奏で唄いたい。」

ルナのその一言で、俺達はピアノの前に移動し、明日の夜に向けた音合わせをする事にした。

「ルナ、さっきから『るるるー』としか唄わないけど、歌詞出来てないの?」

「出来てるよ。明日のお楽しみにしておこうかなって。」

ふふ、とルナは笑った。その間も砂時計は一定の速度で流れていた。おじいちゃんの言う通り、この速度だとだいたいあさっての朝くらいで砂は落ち切るだろうと思った。

俺は、ただただ、この時間を大切にしたかった。砂のように流れるこの時間を。

ルナの顔を目に焼き付けたなった。

ルナへの想いを心に焼き付けたかった。そう思えば思うほど、時の流れは早くて、いつの間にか翌朝になっていた。

それは、ルナと過ごす最後の一日だった。
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