レモネードのように。

はる

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優しい目をしてるから

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「あ!リク、日焼け止め塗った?このビーチ日差し凄いから塗らないと大変な事になっちゃうよ。」

ルナは思い出したように言うと、そそくさとクリームを取り出した。ルナが背後に回ったことで勃起には気付かれずホッとした…のも束の間、ひんやりとした感触を背中に感じ思わずビクッとしてしまった。

「あ、ごめん、冷たかった?」

「い、いや!大丈夫だよ。ありがとう。」

ルナは鼻歌なんて歌いながら楽しそうに掌でクリームを伸ばしていく。やばい、それだけの事なのに興奮がおさまらない。

「リクって背中広いよね。」

「そう…かな?」

「うん、なんか男の人の背中って感じ。」

なんだよ、それ。ドキドキするじゃん。

「そういえば、ルナはさ、なんで俺にこんなに良くしてくれるんだ?俺なんて、異世界から来た得体の知れない存在な訳だしさ…」

今更、俺はそもそもの質問をしてみた。何となく聞きづらくて聞いていなかったけど、ずっと気になっていた。

「うーん、優しい目をしてるからかな。」

「優しい目?」

「うん。僕ね、昔…人を信じられなくて、人とどう接していいか分からない時期があったの。」

「え…」

信じられない。こんなに明朗快活なルナにそんな時期があったなんて。 おじいちゃんの『ルナの心の傷を癒して欲しい』という言葉がふと頭をよぎった。

「でもね、おじいちゃんが教えてくれたんだ。相手の目をじっと見てみろって。そうすると"心"がわかるからって。」

「あ、俺も昨日そんな感じのこと言われたよ。」

「そうなの?はは、おじいちゃん、色んな人に同じこと言ってるんだぁ。最初はそんな事言われたってわかんないよって思ってたんだけど、おじいちゃんと一緒にお店やるようになって、色んな人と知り合って、目を見るように努力したんだ。そしたら、不思議とわかってきた。瞳の輝きが人それぞれ違うんだよ。悪い人は目も曇ってるの。」

「そ、そうなのか…。俺には全然わからないや。」

「それは修行が足りないね。」

ルナは楽しそうに笑った。そして、こう続けた。

「リクはね、凄く優しい目をしてるんだよ。自分の事よりも人の事を優先しちゃうような。その結果、自分が傷付いても、相手が幸せならいいって、そういう心を持った人の目だよ。さっき"やっぱり"って言ったのは、目を見て改めてそう確信したからだったんだよ。」

驚いた。そんな風に見てもらえていたなんて。

確かに、自分で言うのもあれだけど、俺は自分の事よりも相手の事を考えてしまう事が多い。

だから、好きな男性にも気持ちを伝えたり出来なかった。

勿論、叶わない願いだって考えや、自分が傷つきたくないって想いもある。

けど、それ以上に、相手を困らせたくないっていう気持ちが一番強かった。

好きな人の困った顔なんて、見たくない。

「はい、終わったよ。前は自分で塗ってね。」

ルナは、背中に日焼け止めを塗り終えたことを教えてくれた。

「ありがとう、ルナ。」

「どういたしまして。」

「あ、いや、それもそうなんだけど…」

ルナは、日焼け止めを塗ったことに対するお礼だと思ったみたいだった。

本当はルナの言葉が嬉しかったから、それに対するお礼だったんだけど…まぁいいか。

「じゃあ今度は僕にも塗って。」

「あぁ…、え!?」

ルナは、俺の手に日焼け止めを握らせると、俺に背を向けてさっさと座り込んでしまった。

ルナ、俺がどんな状態か全然わかってないんだから…。ただでさえ、こんなアイドル級に可愛い子が目の前に海パン一丁でいるんだ。

それに、俺はゲイってことを隠して生きてきたから、男性の体に触る機会なんてなかった。つまり免疫がない。

おまけに、ルナに特別な気持ちを抱いてしまっているこの不安定な心情。

たかが日焼け止めを塗る作業であるとは言え、想い人の体に触れるなんて…

「ねぇ、リクぅ。まだぁ?」

俺が、頭の中を飛び交う様々な思念を一生懸命処理しようとしていると、俺の考えなんてつゆ知らずのルナに急かされた。

「ごめん、今塗るよ。」

こうなったらもう知らん!もう面倒くさいから、あれこれ考えるのはやめてやる。どうにでもなれ!

俺はクリームを手のひらに乗せて、ルナの白い背中に塗り伸ばしていく。

「やば…」

思わず声に出てしまった。ルナの白い肌は、本当にキメ細やかで、手に吸い付いてくるようだった。

「"やば"ってなに?」

「あ、いや何でもない。」

こっちの言葉、たまに通じない事があるけど、今回は助かった。

背中から腰のあたりまでくるとルナが少し体を捩らせた。

「ルナ、どうしたの?」

「ごめん、ちょっと擽ったくって。」

ルナって擽ったがりなのかな。そんなところも可愛くて仕方なかった。

ルナの背中は小さくて、すぐに塗り終えてしまった。

塗る前はあんなに戸惑っていたのに、終わるととてつもなく名残惜しく感じてしまう。

「リク、ありがとね。前は自分でやるから日焼け止め貸して?」

「ルナ、前も俺がやろうか?」

…って、俺はまた何を言ってんだ。

「え…」

「あっ、ごめん!今の忘れていいから!」

   俺は、慌てて自分のセクハラ的発言を取り消した。

「…お願いしようかな。」

「えっ」

ルナの思わぬ一言に驚き、今度は俺が聞き返してしまった。

「塗ってくれるんでしょ?」

ルナは、少し照れたような顔をしながらも、真っ直ぐ立ち上がり、俺の方を向いた。

「あ、あぁ…」

俺は、クリームを掌に馴染ませ、吸い込まれるようにルナの上半身に手を伸ばした。

日焼け止めを塗ってもらった筈の背中が、太陽の日差しをジリジリと感じた。

ルナの細い肩、鎖骨、薄い胸へと掌を伸ばしていく。お互い向かい合った状態で無言。

ルナは恥ずかしいのか下を向いている。

日焼け止めを塗る、ただそれだけの事なのに、俺の胸は緊張で高鳴る。

それでいて、ルナのような美しい少年の体に触れているという現状に、別の意味での高鳴りを感じてしまう。

吸い付くような肌。

いつまでも触っていたい。

俺はいつの間にか夢中になってしまっていた。

誓ってわざとじゃないが、俺の手がルナの乳首を掠めてしまった。

「あん…ッ」

ルナが小さく声を上げた。

「あ、ごめ…っ」

俺は慌てて手を離した。

「や、やっぱりもう塗らなくていいや!あとは自分でやるから大丈夫!」

ルナは慌てたように俺の手からクリームをひったくると、ささっと自分の体に塗り込んでしまった。そして、チラッと俺の方を見て少し唇を尖らせながらこう言った。

「リクって、やっぱりえっちだよね。」

「え、あっ…」

俺の海水パンツの前がしっかり膨らんでいるのを、ルナに見られてしまった。

昨日の温泉の時と今回とで2回目。

焦ったけど、もう今更どうしようもないから、素直に「ごめん」と言った。

「はは、謝らなくていいよ。早く海に行こうよ!」

そう言うと海の方へ向かうルナ。てっきり引かれるかと思ったのに。

まぁ、考えるだけ無駄なのかもしれない。

っていうか、もうこれで変態認定されちゃったから開き直るしかないと思った。

そもそもルナのような美少年を前にして平静を装っていられるわけが無いだろう!!

開き直った俺の結論。

"せっかくなんだから、今を楽しもう。"

「うん、行こう!」

俺は、ルナの後を追いかけて海へ向かった。
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