レモネードのように。

はる

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ルナの歌

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「ハァハァ…久しぶりにこんなに走った…。ルナ、足早いんだね。」

「そう?リクがおじさんなんじゃない?」

引っ張られるままに疾走し、気づけばルナの家近くの海辺に辿り着いていた。肩で息をする俺をルナは面白そうに眺める。

「ルナだって息切らしてるじゃん。」

「だって、僕体力ないもん。」

じゃあなんであんな全力疾走したのって言いそうになったけど楽しかったから何も言わなかった。

ふと、海と空の方に目を向けて、驚いた。

「綺麗だな…。」

降るような星空に、一際大きく輝く満月。

その月明かりが水面に反射し、凪いだ海が宝石のようにキラキラと輝く。

まるで絵画のよう。あまりの美しさに息を飲んだ。

「今日は満月だから特に綺麗だね。」

ルナはそう言うと、海辺の方にゆっくり進んだ。

そして、静かに歌を口ずさむ。

それは、男の子にしては少し高めで、とても透き通った歌声。思わず聴き入ってしまう。

知らない歌だったが、スローテンポで優しい音色だ。

輝く海をステージに、月明かりを照明に、ルナの歌声はこの大きな砂浜を包み込むようで、俺の心に染み込んでいった。

歌い終えると、ルナは少し照れたように「ご清聴ありがとうございました。」と可愛らしく頭をぺこりと下げた。そして、月を見てこう言った。

「ねぇリク。月が綺麗なのは、手の届かないところにあるからだと思うんだ。」

ルナはそう言ってまたニコッと笑う。

キラキラと輝く海と白い月明かり。

その中に立つ、今日会ったばかりの一人の少年。

俺は彼を見つめていた。

瞬きもせずに見つめていた。

この珠玉の光景を生涯忘れないだろう。

何故なら、これがルナに恋をした瞬間だったのだから。
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