レモネードのように。

はる

文字の大きさ
上 下
1 / 51

天使ですか?

しおりを挟む
学生時代、男子がバレンタインデーに「女子からチョコをもらえるだろうか?」とソワソワしている一方で、俺は男子からチョコレートをもらいたい、もしくはあげたいと思っていた。そんな事を何故だかふと思い出した。

振り返れば、味気ない人生だった。本当の事を隠して、小さな嘘を積み重ねて、他人を傷つけないように自分の気持ちを胸にしまって、平気なフリをして、自分を騙して…そうやって生きてきた。歯がゆさと苦しさが同居したような想いを常に抱えていた。

そして生涯の幕を閉じた。

ここは天国だろう?

青々とした空に、エメラルドグリーンの海。仰向けに横たわった俺の体にやわらかい風が吹き抜ける。俺は、目が覚めたらここにいた。 

天国ってハワイみたいな場所なんだな。常夏の『楽園』とはよく言ったもんだ。

二十七歳か…もう少しくらい長生きしたかった気もするなぁ…。

「何、一人でブツブツ言ってるの?」

「へ?」

真上から突然声をかけられ、俺は驚いて体を起こした。そこにはブロンドショートヘアの小柄で美しい少年がいた。

「天使か…?」

俺は思わず問いかけた。

「ぷっ、ははは…!」

天使は俺の一言を聞いて可愛らしく笑った。

「僕は天使じゃないよ。それにここは天国じゃない。だって僕は人間だし、ちゃんと生きているからね。」

天使は笑いを堪えながらそう言った。

俺は少しずつ冷静さを取り戻してきた。体を起こし、ぐるりとあたりを見渡した。

白い砂浜に青い空に美しい海。天国じゃないなら、ここはどこだ。沖縄か?てか暑っ。さっきまで冬じゃなかった?俺は着ていたパーカーをゆっくり脱ぎながらも、脳内では忙しく状況整理に奔走していた。

目の前にいる天使…もとい美少年の顔つきはヨーロッパ風だ。え、じゃあ外国?でもこの子に言葉通じているしな。

「ちょっと整理させてもらっていいかな。」

「どうぞ。」

俺の問いに、彼は時間はいくらでもありますからと言わんばかりに、そう答えた。

「えーと、俺は確か昨晩新宿で飲みすぎて酔い潰れて、そこから記憶がなくて…」

「シンジュクって何?」

美少年が覗き込むように聞いてきた。近くで見ると本当に可愛い顔をしていて、俺はドギマギしてしまう。

「知らない?新宿って。」

「うん、知らない。」

俺は少し考えてから、こう聞いた。

「ここって…日本…?」

「ニホンって何?」

俺はまだ夢の中にいるのかもしれない。随分鮮明な夢だな。とりあえずスマホを探そうと思ったが、見当たらない。しかも、飲みすぎたせいでちょっと頭が痛い。夢の中でも痛みって感じるもんなんだな…。

「また一人でブツブツ言ってるぅ。」

美少年は怪訝そうに俺を覗き込む。

「あ、ごめん。ちょっと色々と絶賛混乱中でさ…。」

そんな俺の様子を見た美少年がふとこんな事を言った。

「お兄さん、異世界から来たんじゃない?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

幽閉された美しきナズナ

不来方しい
BL
控えめで目立たない准教授と生徒が恋に落ちます。 連れ子として華道の家に入ったのは、大学生の藤裔なずな(ふじすえなずな)。慣れない生活の中、母と新しい父との間に子供ができ、ますます居場所を失っていく。 居場所を求めて始めたアルバイトは、狭い和室で自由恋愛を楽しむという、一風変わったアルバイトだった。 客人としてやってきたのは、挙動不審で恋愛が不慣れな男性。諏訪京介と名乗った。触れようとすれば逃げ、ろくに話もしなかったのに、また来ますと告げて消えた彼。二度と会わないだろうと思っていた矢先、新しく大学の研究グループに加わると紹介されたのは、なずなを買ったあの男性だった。  呆然とする諏訪京介を前に、なずなは知らないふりを貫き通す──。

処理中です...