明日も君が笑顔でいるために。

はる

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好きだよ

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ライブが終わり、シメサクは葵の所に急いだ。

葵と店長は会場の外におり、シメサクが駆け寄ると「お疲れさん!」と店長がシメサクの肩を叩いた。

「じゃあ、俺はそろそろ店戻るから、2人ともまたバイトでな。」

「はい。」

店長が言うと、シメサクと葵は同時に返事をした。店長は去り際、「シメサク、ひまわり君の手を離すなよ。」とシメサクに耳打ちし、シメサクは「うっす」と小さく応えた。

「ライブかっこよかったよ。」  

葵が言った。

「お、おう。ありがとう。」

シメサクは、少し照れながら応えた。

静かで心地よい沈黙が流れる。

急いで走ってきたものの、何から話せばいいか分からず「えーっと」とシメサクが言っていると、葵がぽつりと言った。

「染みる。」

「え?」

シメサクが聞き返すと、葵は小さな手を自分の胸に当てて言った。

「サクと一緒にいると心に優しさが染みる。染みるけど痛くない。むしろ、心地良さとか安らぎとか、そういうのが混じりあう感じ。なんていうのかな…。あ、そうだ。冬の日のカフェラテみたい。とても暖かくて、優しくて、もっと欲しくなるし、もっと僕の心を満たして欲しいって思う。」

葵は、シメサクを見つめた。

「やっと気付いたんだ。僕の心の中には、いつもサクがいるって。」

「葵…」

「サクの心の中にも僕の居場所があったらいいなって思う。そう思うと、今度は心が急に苦しくなったり切なくなったりするんだ。」

葵は、少し顔を赤らめながらもまっすぐにシメサクを見つめたまま、続けた。

「僕ね、初めて自分よりも誰かを大切にしたいと思っているんだ。だから、大きな声を出すのは恥ずかしかったけど、サクに届けたくてアンコールって言い続けたよ。こんな気持ち初めて。困っている時、辛い時、おばあちゃんが死んじゃって凄く寂しかった時、サクはまるでヒーローみたいに、いつも助けてくれた。心の中の分厚い雲を吹き飛ばして、まばゆい光の下に連れ出してくれた。ううん、サクが僕を照らしてくれたんだ。」

そして、葵は笑顔を作って言った。

「好きって言ってくれてありがとう。僕もサクの事が好き。」

「葵、本当に?こんな俺なんかで…」

「"俺なんか"なんて言わないで。僕はサクがいいんだから。太陽みたいに眩しい笑顔や、いつも優しいところにキュンとしちゃうんだよ。困っている人を放っておけないところも難しい漢字が読めちゃうところも素敵。ちょっと抜けてたり、部屋の片づけが苦手なところも可愛いなって思う。人の気持ちがわかるところや、色んな人と仲良くなれるところなんて凄すぎて言葉が出ないよ。全部サクのいいところ。『自分には何も無い』って言っていたけど、サクは僕に無いものを沢山持っているよ。いつも僕を笑顔にしてくれてありがとう。サクと一緒にいたら明日の僕もきっと笑顔でいられるよ。」

シメサクは頬を伝うものに暖かさを感じ、自分が涙を流している事に気付く。

「葵、ありがとう。本当に嬉しいよ。俺の人生の中でこんなに嬉しい瞬間があるなんて思わなかった。俺もさ、こんな気持ち初めてだよ。」

シメサクは葵を強く抱きしめて言った。

「葵の事を大切にしたい。葵に笑顔でいて欲しい。明日も明後日も、これからもずっと。大好きだよ。」

「うん、僕も大好き。ずっと大好き。」

葵もシメサクに答えるように、シメサクを強く抱きしめた。
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