明日も君が笑顔でいるために。

はる

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自分の痛みは自分にしか分からない

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テスト期間は終わっている筈なのに、あまりにシフトが重ならないのでおかしいとシメサクは思った。

梅雨が上がって初めての雨の日。バイト先の出勤表を見てシメサクは驚いた。

葵の出勤日がなかったのだ。

「店長!葵、どうしたんですか?全然バイト入ってないじゃないすか。」

シメサクは、店長に連絡して聞いた。

「お前、聞いてないのか?」

店長が妙に神妙な声で聞き返してきた。

「何をですか?」

「ひまわり君のおばあ様、亡くなられたらしいんだよ。」

「え…?」

「持病が急に悪化したらしいんだ。学校から帰ってきたひまわり君が、部屋で倒れているおばあ様を見つけたらしい。バイトは、葬儀の関係もあって暫く休む事になったんだ。」

シメサクは絶句した。

つい先月会ったばかりなのに、信じられなかった。

茫然自失として言葉を失ったシメサクに対して、店長が一言、「シメサク、行ってやれ。」と言った。
 

シメサクは、バイト後すぐに葵の家に向かった。駅から葵の家まで走ったシメサクは、肩で息をしながらインターホンを鳴らした。

暫くして、ゆっくりとドアが開いた。

「サク…?」

目を赤く腫らした葵が顔を覗かせた。

「葵…心配したよ…。」

シメサクの言葉に葵は目に涙を浮かべた。

「ごめんね、連絡もしなくて。スマホも電源切ってて…。」

絞りだすように葵が答えた。

「俺、頼りないかもしれないけど話聞くくらいなら出来るから、辛い時は連絡してよ。」

シメサクは優しくそう言った。

「サクはいつも優しいね。ありがとう。ごめんね、自分の痛みは自分にしか分からないから、言っても分からないと思って連絡出来なかった。」

「葵、言っても分からないことなんて、言わなきゃもっと分からないよ。」

シメサクはそう言うと、玄関先で立っている葵に近づき抱き締めた。

「さ、サク…?」

葵は驚いて名前を呼んだ。

「すぐに1人で抱え込もうとするの、葵の悪い癖だよ。辛い時はちゃんと俺に言ってよ。頼むよ。葵の悲しむ顔、もう見たくない。」

葵はシメサクの胸に顔を埋める形になり、頭上から聞こえるシメサクの声が震えていることに気付く。

「…サク…ッ、ごめん…サクぅ…!」

葵は堪えきれず、嗚咽を漏らして、シメサクのシャツを握りしめて、シメサクの胸で涙を流した。シメサクは流れそうになる涙をぐっと堪えて葵を強く抱きしめた。

ようやく落ち着いた葵は、シメサクを家の中に入れた。シメサクは、おばあちゃんにお線香をあげた。

「葵、辛かったな。」

シメサクは、葵の方に向き直って言った。

「うん…。悲しくて悲しくて、何も手につかなかった。僕が学校からもっと早く帰っていればとか、もっと優しくしていればとか、沢山後悔もした。学校やバイトも行く気になれなくて…。ごめんね、連絡もせず、ずっとバイトも休んじゃってて。」

「いや、いいんだよ。碧さん、凄く素敵な人だったよな。聞いた時、俺もめちゃくちゃ悲しかった。」

「うん。ありがとうね。サクが来てくれたお陰で安心したよ。」

「本当に?」

「本当だよ。本当はサクに会いたかった。サクの言う通り、1人で抱え込んじゃうの悪い癖だね。サクの言葉、嬉しかった。救われる気がしたよ。」

「よかった。なんか勢いで抱きしめちゃってごめんな。」

「ううん…。」

会話が途切れると、シメサクと葵は互いに急に意識してしまい、沈黙が生まれた。

「あ、あのさ、こんな事があった後だから誘おうか迷ったんだけど…。」

シメサクはとあるチケットを手渡した。

「これは?」

「俺らのライブのチケットだよ。」

「え?サク、ライブするの?」

「うん。バンドやってるって、前に話したよね?たまにライブハウスでライブやったりするんだ。今回のは前座だけど、見に来てくれたら、家に閉じ篭ってるよりはいい気晴らしになるかなって思ってさ、どうかな?」

葵は、少し考えてから答えた。

「ありがとう。行きたい。」

「よかった!じゃあ明日、17時に待ち合わせしよう。終わったら一緒に帰ろうぜ。」

「うん、ありがとう。」

「こちらこそだよ。」

少し照れたようにはにかむ葵の顔を見て、シメサクも自然とにこやかな表情を向けた。
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