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ひまわり
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葵のバイトの面接日になった。
夕方、シメサクがコンビニの前で葵を待っていると、暫くして葵がやって来た。
「あ、制服なんだ。」
「そうだよ。学校帰りだから。」
シメサクは、葵の制服姿を期せずして見ることが出来、嬉しく感じた。
「制服、すっげぇ似合うじゃん。」
初夏の気候に合わせたワイシャツに薄手のパステルカラーのセーター、下はチェック柄のズボンだった。
オシャレで可愛らしいデザインの制服が、葵の雰囲気に合っているなぁとシメサクは感じた。
「え、そうかな…?ありがとう。」
葵は、照れたように顔を少し赤らめて答えた。
葵を連れて店内に入ると、店長が待っていた。
「店長。彼が葵くんです。」
と、シメサクは葵を紹介した。
「おう。じゃあこっちでやるから。」
そう言って、店長が葵を奥の部屋へ案内した。
「葵、面接頑張って。」とシメサクが葵に声をかけ る と、「シメサク、お前も中入れ。」と店長が言った。
「え、俺もですか?いいですけど、俺どういう立ち位置すか?」
「彼の付き添いだよ。ほら、緊張してるだろう。」
店長に言われて葵の方を見ると、確かに葵は緊張した面持ちだった。
店長と葵は、向かい合って座り、シメサクは保護者みたいに葵の隣に立っていた。
「店長、威圧しないでくださいよ?」
「してねーよ。」
「顔、怖いですよ。」
「いや真顔だぞ。失礼だな、お前。」
シメサクと店長がそんな掛け合いをした後、シメサクは葵に「店長、顔は怖いけど優しいから」と耳打ちした。
葵は、「う、うん…。」と緊張で少し声を震わせながら、小さく返した。
やっぱり怖がっているのでは、とシメサクは不安になった。
「じゃあ、早速始めるか。っていうか君、見た事あると思ったら、よくうちにカフェラテと肉まんを買いに来てくれる子だな!」
店長は、思い出したかのように陽気に言った。
シメサクは、あちゃーと思った。
葵は、案の定、顔を真っ赤にして「は、はい…」と応えると、俯いてしまった。
「シメサク、お前いつの間にか知り合ってたんだな。」
「あ、えーと。最近知り合って仲良くなったんです。」
シメサクは、詳しい話は割愛して答えた。
「なるほど。葵くん、シメサクから話は聞いているよ。真面目で気遣いができてしっかりしていて頭が良くて料理が上手と。」
葵は、もはや顔を完熟したトマトのようにして、シメサクに小声で「ハードルあげないでよぉ…」と小さく言った。
シメサクは、「ごめん」と小さく返しながらも、全部葵の凄いところなんだけどなぁと心の中で呟いた。
「葵くん、履歴書持ってきたかな?」
「あ、はい…!」
葵は、たどたどしく履歴書を鞄から取り出し、店長に手渡した。
シメサクは履歴書をチラっと見て字が綺麗だなと思い、そんなところにも劣等感を感じてしまっていた。
「向日(むかい) 葵くん。18歳だね。」
「はい。」
シメサクは葵の苗字を初めて知った。
そして、”向日葵”という字を見て、ハッとした。
「"ひまわり"じゃん!」
「え?」
シメサクがいきなり大きな声を出すので、葵は驚いたのと、意味不明なのとで、聞き返した。
「日向葵って漢字で書くと、"ひまわり"って読むじゃん。」
「あ…本当だ!気付かなかった。」
葵は、目から鱗が落ちたような顔をした。
「マジか。今まで気付かなかったのか?」
「うん。両親が離婚して苗字が変わったから"向日"歴は短いんだ。自分の名前に思いを馳せるような心の余裕は無かったし、"むかい あおい"って韻踏んでるのが嫌だなぁって思っていた程度だったよ。」
店長は、2人の雰囲気を把握するようにシメサクと葵のやりとりを聞いて、言った。
「シメサク、良くその難しい漢字読めたな。流石、教員を目指しているだけあるな。」
「いや、文系ですし、たまたま知ってただけっす。」
教員目指してるとか、恥ずかしいから改めて言わないでくれ。とシメサクは思った。
「じゃあ、ここでのあだ名は"ひまわり君"で決定だな!」
「え、それって合格って事ですか!?」
葵より先にシメサクが聞き返した。
「うん、合格。」
「いや速くないっすか!光の速度!」
「お前、さっきからうるせーよ。」
店長に突っ込まれ、シメサクは確かに…と思った。
「あの…いいんですか?」
葵が店長に恐る恐る聞いた。
「あぁ。君なら問題ないと思った。長年面接をしていると、目付きと振る舞いを見れば、自ずと人柄がわかるものだからな。ひまわり君、宜しく頼むよ。」
店長は、葵に笑顔を向けた。
「はい!宜しくお願いします!」
葵は、嬉しそうにそう答えた。嬉しそうな葵を見て、シメサクも嬉しくなった。
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夕方、シメサクがコンビニの前で葵を待っていると、暫くして葵がやって来た。
「あ、制服なんだ。」
「そうだよ。学校帰りだから。」
シメサクは、葵の制服姿を期せずして見ることが出来、嬉しく感じた。
「制服、すっげぇ似合うじゃん。」
初夏の気候に合わせたワイシャツに薄手のパステルカラーのセーター、下はチェック柄のズボンだった。
オシャレで可愛らしいデザインの制服が、葵の雰囲気に合っているなぁとシメサクは感じた。
「え、そうかな…?ありがとう。」
葵は、照れたように顔を少し赤らめて答えた。
葵を連れて店内に入ると、店長が待っていた。
「店長。彼が葵くんです。」
と、シメサクは葵を紹介した。
「おう。じゃあこっちでやるから。」
そう言って、店長が葵を奥の部屋へ案内した。
「葵、面接頑張って。」とシメサクが葵に声をかけ る と、「シメサク、お前も中入れ。」と店長が言った。
「え、俺もですか?いいですけど、俺どういう立ち位置すか?」
「彼の付き添いだよ。ほら、緊張してるだろう。」
店長に言われて葵の方を見ると、確かに葵は緊張した面持ちだった。
店長と葵は、向かい合って座り、シメサクは保護者みたいに葵の隣に立っていた。
「店長、威圧しないでくださいよ?」
「してねーよ。」
「顔、怖いですよ。」
「いや真顔だぞ。失礼だな、お前。」
シメサクと店長がそんな掛け合いをした後、シメサクは葵に「店長、顔は怖いけど優しいから」と耳打ちした。
葵は、「う、うん…。」と緊張で少し声を震わせながら、小さく返した。
やっぱり怖がっているのでは、とシメサクは不安になった。
「じゃあ、早速始めるか。っていうか君、見た事あると思ったら、よくうちにカフェラテと肉まんを買いに来てくれる子だな!」
店長は、思い出したかのように陽気に言った。
シメサクは、あちゃーと思った。
葵は、案の定、顔を真っ赤にして「は、はい…」と応えると、俯いてしまった。
「シメサク、お前いつの間にか知り合ってたんだな。」
「あ、えーと。最近知り合って仲良くなったんです。」
シメサクは、詳しい話は割愛して答えた。
「なるほど。葵くん、シメサクから話は聞いているよ。真面目で気遣いができてしっかりしていて頭が良くて料理が上手と。」
葵は、もはや顔を完熟したトマトのようにして、シメサクに小声で「ハードルあげないでよぉ…」と小さく言った。
シメサクは、「ごめん」と小さく返しながらも、全部葵の凄いところなんだけどなぁと心の中で呟いた。
「葵くん、履歴書持ってきたかな?」
「あ、はい…!」
葵は、たどたどしく履歴書を鞄から取り出し、店長に手渡した。
シメサクは履歴書をチラっと見て字が綺麗だなと思い、そんなところにも劣等感を感じてしまっていた。
「向日(むかい) 葵くん。18歳だね。」
「はい。」
シメサクは葵の苗字を初めて知った。
そして、”向日葵”という字を見て、ハッとした。
「"ひまわり"じゃん!」
「え?」
シメサクがいきなり大きな声を出すので、葵は驚いたのと、意味不明なのとで、聞き返した。
「日向葵って漢字で書くと、"ひまわり"って読むじゃん。」
「あ…本当だ!気付かなかった。」
葵は、目から鱗が落ちたような顔をした。
「マジか。今まで気付かなかったのか?」
「うん。両親が離婚して苗字が変わったから"向日"歴は短いんだ。自分の名前に思いを馳せるような心の余裕は無かったし、"むかい あおい"って韻踏んでるのが嫌だなぁって思っていた程度だったよ。」
店長は、2人の雰囲気を把握するようにシメサクと葵のやりとりを聞いて、言った。
「シメサク、良くその難しい漢字読めたな。流石、教員を目指しているだけあるな。」
「いや、文系ですし、たまたま知ってただけっす。」
教員目指してるとか、恥ずかしいから改めて言わないでくれ。とシメサクは思った。
「じゃあ、ここでのあだ名は"ひまわり君"で決定だな!」
「え、それって合格って事ですか!?」
葵より先にシメサクが聞き返した。
「うん、合格。」
「いや速くないっすか!光の速度!」
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「あの…いいんですか?」
葵が店長に恐る恐る聞いた。
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店長は、葵に笑顔を向けた。
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