明日も君が笑顔でいるために。

はる

文字の大きさ
上 下
18 / 27

ひまわり

しおりを挟む
葵のバイトの面接日になった。

夕方、シメサクがコンビニの前で葵を待っていると、暫くして葵がやって来た。

「あ、制服なんだ。」

「そうだよ。学校帰りだから。」

シメサクは、葵の制服姿を期せずして見ることが出来、嬉しく感じた。

「制服、すっげぇ似合うじゃん。」

初夏の気候に合わせたワイシャツに薄手のパステルカラーのセーター、下はチェック柄のズボンだった。

オシャレで可愛らしいデザインの制服が、葵の雰囲気に合っているなぁとシメサクは感じた。

「え、そうかな…?ありがとう。」

葵は、照れたように顔を少し赤らめて答えた。

葵を連れて店内に入ると、店長が待っていた。

「店長。彼が葵くんです。」

と、シメサクは葵を紹介した。

「おう。じゃあこっちでやるから。」

そう言って、店長が葵を奥の部屋へ案内した。

「葵、面接頑張って。」とシメサクが葵に声をかけ  る               と、「シメサク、お前も中入れ。」と店長が言った。

「え、俺もですか?いいですけど、俺どういう立ち位置すか?」

「彼の付き添いだよ。ほら、緊張してるだろう。」

店長に言われて葵の方を見ると、確かに葵は緊張した面持ちだった。

店長と葵は、向かい合って座り、シメサクは保護者みたいに葵の隣に立っていた。

「店長、威圧しないでくださいよ?」

「してねーよ。」

「顔、怖いですよ。」

「いや真顔だぞ。失礼だな、お前。」

シメサクと店長がそんな掛け合いをした後、シメサクは葵に「店長、顔は怖いけど優しいから」と耳打ちした。

葵は、「う、うん…。」と緊張で少し声を震わせながら、小さく返した。

やっぱり怖がっているのでは、とシメサクは不安になった。

「じゃあ、早速始めるか。っていうか君、見た事あると思ったら、よくうちにカフェラテと肉まんを買いに来てくれる子だな!」

店長は、思い出したかのように陽気に言った。

シメサクは、あちゃーと思った。

葵は、案の定、顔を真っ赤にして「は、はい…」と応えると、俯いてしまった。

「シメサク、お前いつの間にか知り合ってたんだな。」

「あ、えーと。最近知り合って仲良くなったんです。」

シメサクは、詳しい話は割愛して答えた。

「なるほど。葵くん、シメサクから話は聞いているよ。真面目で気遣いができてしっかりしていて頭が良くて料理が上手と。」

葵は、もはや顔を完熟したトマトのようにして、シメサクに小声で「ハードルあげないでよぉ…」と小さく言った。

シメサクは、「ごめん」と小さく返しながらも、全部葵の凄いところなんだけどなぁと心の中で呟いた。

「葵くん、履歴書持ってきたかな?」

「あ、はい…!」

葵は、たどたどしく履歴書を鞄から取り出し、店長に手渡した。

シメサクは履歴書をチラっと見て字が綺麗だなと思い、そんなところにも劣等感を感じてしまっていた。

「向日(むかい) 葵くん。18歳だね。」

「はい。」

シメサクは葵の苗字を初めて知った。

そして、”向日葵”という字を見て、ハッとした。

「"ひまわり"じゃん!」

「え?」

シメサクがいきなり大きな声を出すので、葵は驚いたのと、意味不明なのとで、聞き返した。

「日向葵って漢字で書くと、"ひまわり"って読むじゃん。」

「あ…本当だ!気付かなかった。」

葵は、目から鱗が落ちたような顔をした。

「マジか。今まで気付かなかったのか?」

「うん。両親が離婚して苗字が変わったから"向日"歴は短いんだ。自分の名前に思いを馳せるような心の余裕は無かったし、"むかい あおい"って韻踏んでるのが嫌だなぁって思っていた程度だったよ。」

店長は、2人の雰囲気を把握するようにシメサクと葵のやりとりを聞いて、言った。

「シメサク、良くその難しい漢字読めたな。流石、教員を目指しているだけあるな。」

「いや、文系ですし、たまたま知ってただけっす。」

教員目指してるとか、恥ずかしいから改めて言わないでくれ。とシメサクは思った。

「じゃあ、ここでのあだ名は"ひまわり君"で決定だな!」

「え、それって合格って事ですか!?」

葵より先にシメサクが聞き返した。

「うん、合格。」

「いや速くないっすか!光の速度!」

「お前、さっきからうるせーよ。」

店長に突っ込まれ、シメサクは確かに…と思った。

「あの…いいんですか?」

葵が店長に恐る恐る聞いた。

「あぁ。君なら問題ないと思った。長年面接をしていると、目付きと振る舞いを見れば、自ずと人柄がわかるものだからな。ひまわり君、宜しく頼むよ。」

店長は、葵に笑顔を向けた。

「はい!宜しくお願いします!」

葵は、嬉しそうにそう答えた。嬉しそうな葵を見て、シメサクも嬉しくなった。

====================
BL小説大賞参加しています。
少しでも良いと思って頂けたら、是非投票をお願い致します🙇‍♂️
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...