明日も君が笑顔でいるために。

はる

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「泣きそうな顔をさせるなんて許せない」

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雨の中を駆け回ったせいか、翌日にシメサクは風邪を引いてしまい、2日間バイトも休んで寝込んでいた。

ようやく体調が回復したシメサクは、葵も風邪を引いていないか気がかりだったが、連絡先を聞くのをすっかり忘れており、歯がゆさを募らせていた。

「あーもう。ラインくらい交換しとけよな、俺。」

シメサクは声に出して後悔の念を呟いた。 

深夜0時半頃、シメサクはずっと寝ていたせいで寝られず、散歩がてらコンビニに行く事にした。

シメサクは、歩きながら、葵がまた駅前でうずくまっていたりしないよな、なんて考えていた。

結局、あの日は何故あんな時間に駅前にいたのかわからないままだった。

シメサクは、熱に浮かされている間もなぜか葵の事ばかりを考えていた。

何故こんなに考えてしまうのかシメサク自身も分からず、熱のせいにして自分を誤魔化していたが、熱が下がった今も結局、葵の事を考えている。

明日、バイト先のコンビニにまたカフェラテと肉まん買いに来てくれるかな、などと考えながら閑散とした夜の街をブラブラと闊歩する。

その時、突然背後から声がした。

「離して下さい…!」

人影のない深夜の街に響く、少し高めの少年らしい声。

すぐにわかった。葵の声だ。

シメサクは、すぐさま声のする方を見た。

葵の腕を掴んだ少し太った年配の見知らぬ男と、それを必死に引き剥がそうとしている葵が見えた。

「いいだろ?幾らでも出すから。金が欲しいんだろ?」

そう言って、男は葵の細い手を強く掴んだまま無理矢理引き寄せようとしていた。 

「や、やだ…!もう嫌です…!」

葵の震えた声が聴こえた時には、シメサクはもう走り出していた。

「葵!」

シメサクが自分でも驚く程の大声を上げると、2人は同時にシメサクの方を見た。男が怯んだ隙に、シメサクは葵の肩を掴んで引き剥がした。

「…サク…?」

葵は、驚いた顔をしたが、次に泣き出しそうな顔をした。その顔を見た瞬間、シメサクの怒りは頂点に達した。

「な、なんなんだ、いきなり何なんだよ!」

男は狼狽えた様子で言った。

「あんたこそなんだ!こんな時間に未成年の腕掴んで、何してんだよ!嫌がってんだろ!事情は知らないけど明らかにおかしいだろ。駅前に交番あるから、一緒に来てもらうからな!」

シメサクは怒りに任せて叫んだ。

心の中では、『葵は笑顔が素敵なんだ。泣きそうな顔をさせるなんて許せない。』と叫んだ。

曲がりなりにもバンドでボーカルをやっているシメサクの声は大きく、相手を威嚇するには効果的だった様だ。また、"交番"というキーワードにまずいと思ったらしく、男はただ恨めしそうな顔をして「く、くそぉ!」と言い残して逃げていった。

「葵、大丈夫か?」

シメサクは葵に向き直った。葵は小さな肩を小刻みに震わせながらコクコクと頷いた。
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