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好きって何?(挿絵あり)
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「KPー!」
バイト後、シメサクは、いつもの大衆居酒屋でバンド仲間の鯨岡(くじらおか)とグラスを交わし、ビールを体内に注ぎ込んだ。
「あーうめぇ…!」
2人は、ほぼ同時に声高に言った。
鯨岡は、シメサクと同じバンドのドラマーだ。バンドメンバーの中でもシメサクは鯨岡(シメサクはクジと呼んでいる)と仲が良く、家も近いので、こうやって良く飲みに行く。
「すいませーん!ビールもう一杯!」
「クジ、ペース早くね?」
「そうか?うーん、そうかもしれないな。」
「何かあった?」
「まぁ、あれだ。彼女と別れた。」
「え!あの3年間付き合っていた年上彼女さん?」
「あぁ。まぁ色々あってな。嫌なことはビールに流そうと思ってさ。」
そう言うと、彼は程なく運ばれてきたビールを言葉通り体内に注ぎ込む。
「あんまり飲みすぎるなよ。」
「心配すんな。なぁ、シメサク。"好き"ってなんだと思う?」
既に酔い始めているのか、クジは少し目が据わっていた。
「なんだよ、藪から棒に。」
「シメサクって、見た目はそこそこイケメンだし、それなりに背も高くて、まぁまぁオシャレだから、恋愛経験も豊富そうだなと思って。」
「そんな事ねーよ。ていうか、『そこそこ』とか『それなり』とか『まぁまぁ』とか…地味に失礼だな。」
「はは。俺はさ、好きって"憧れ"に近いものだと思うんだよ。きっと俺は彼女の自由奔放なところに憧れて、自分に無いものを持っていて素敵だなぁと感じて、いつの間にか惹かれていたんだよ。」
クジは、投げかけた質問に自分で答えて、遠い目をした。
「"好き"が何か?なんて考えたことも無かったな…。」
シメサクは小さく呟いたが、おそらくクジには聞こえていなかった。
少しの沈黙のあと、「あ、そうそう。新しい曲作ったぞ。あとで送っておくからご査収願うよ。」とクジが話題を変えた。
「おぉ、ありがとう!聴いておくよ。次のライブでやる?」
「そうだな、歌詞が間に合えばだな。シメサク、歌詞任せていいか?」
「えっ、俺が…?歌詞書いたことねーんだけど。いつもクジが書くじゃん。」
「わり、今このメンタルじゃいい歌詞書けそうになくてさ。俺らの曲って失恋ソングってガラでもねーしさ。」
「マジかよ…。」
そう言われると何も言い返せず、シメサクは、渋々了承する事となった。
店を出る頃には、クジは千鳥足になっていた。
「お前、ふらっふらじゃん。」
「悪いな…普段のクールな俺のイメージが台無し…うぷ…」
「あーこらこら!路上で吐くな。家まで耐えろ。」
彼女と別れたのがよっぽど堪えたんだなとシメサクは思った。
シメサクもクジも最寄りがこの駅なので終電を気にする必要がない。それをいいことに時間を忘れて飲み明かしてしまい、気付けば深夜1時になっていた。
ふと、閑散とした駅前で座り込む小さな人影にシメサクが気付いた。少し離れていたからすぐには分からなかったが、よく目を凝らすと見た事のある容貌でハッとした。
「クジ、ごめん。ちょっと待っててくれ。」
「は?おい、シメサク!?」
シメサクはクジを放置すると、その人影に駆け寄った。
「何してるの?こんな時間に。」
シメサクが声を掛けると、その人影はゆっくりと顔を上げた。シメサクの顔を不思議そうに見て、少し考えてから、答え合わせをするように小さな声で言った。
「…コンビニのお兄さん…?」
人影は、あのカフェラテ少年だった。
バイト後、シメサクは、いつもの大衆居酒屋でバンド仲間の鯨岡(くじらおか)とグラスを交わし、ビールを体内に注ぎ込んだ。
「あーうめぇ…!」
2人は、ほぼ同時に声高に言った。
鯨岡は、シメサクと同じバンドのドラマーだ。バンドメンバーの中でもシメサクは鯨岡(シメサクはクジと呼んでいる)と仲が良く、家も近いので、こうやって良く飲みに行く。
「すいませーん!ビールもう一杯!」
「クジ、ペース早くね?」
「そうか?うーん、そうかもしれないな。」
「何かあった?」
「まぁ、あれだ。彼女と別れた。」
「え!あの3年間付き合っていた年上彼女さん?」
「あぁ。まぁ色々あってな。嫌なことはビールに流そうと思ってさ。」
そう言うと、彼は程なく運ばれてきたビールを言葉通り体内に注ぎ込む。
「あんまり飲みすぎるなよ。」
「心配すんな。なぁ、シメサク。"好き"ってなんだと思う?」
既に酔い始めているのか、クジは少し目が据わっていた。
「なんだよ、藪から棒に。」
「シメサクって、見た目はそこそこイケメンだし、それなりに背も高くて、まぁまぁオシャレだから、恋愛経験も豊富そうだなと思って。」
「そんな事ねーよ。ていうか、『そこそこ』とか『それなり』とか『まぁまぁ』とか…地味に失礼だな。」
「はは。俺はさ、好きって"憧れ"に近いものだと思うんだよ。きっと俺は彼女の自由奔放なところに憧れて、自分に無いものを持っていて素敵だなぁと感じて、いつの間にか惹かれていたんだよ。」
クジは、投げかけた質問に自分で答えて、遠い目をした。
「"好き"が何か?なんて考えたことも無かったな…。」
シメサクは小さく呟いたが、おそらくクジには聞こえていなかった。
少しの沈黙のあと、「あ、そうそう。新しい曲作ったぞ。あとで送っておくからご査収願うよ。」とクジが話題を変えた。
「おぉ、ありがとう!聴いておくよ。次のライブでやる?」
「そうだな、歌詞が間に合えばだな。シメサク、歌詞任せていいか?」
「えっ、俺が…?歌詞書いたことねーんだけど。いつもクジが書くじゃん。」
「わり、今このメンタルじゃいい歌詞書けそうになくてさ。俺らの曲って失恋ソングってガラでもねーしさ。」
「マジかよ…。」
そう言われると何も言い返せず、シメサクは、渋々了承する事となった。
店を出る頃には、クジは千鳥足になっていた。
「お前、ふらっふらじゃん。」
「悪いな…普段のクールな俺のイメージが台無し…うぷ…」
「あーこらこら!路上で吐くな。家まで耐えろ。」
彼女と別れたのがよっぽど堪えたんだなとシメサクは思った。
シメサクもクジも最寄りがこの駅なので終電を気にする必要がない。それをいいことに時間を忘れて飲み明かしてしまい、気付けば深夜1時になっていた。
ふと、閑散とした駅前で座り込む小さな人影にシメサクが気付いた。少し離れていたからすぐには分からなかったが、よく目を凝らすと見た事のある容貌でハッとした。
「クジ、ごめん。ちょっと待っててくれ。」
「は?おい、シメサク!?」
シメサクはクジを放置すると、その人影に駆け寄った。
「何してるの?こんな時間に。」
シメサクが声を掛けると、その人影はゆっくりと顔を上げた。シメサクの顔を不思議そうに見て、少し考えてから、答え合わせをするように小さな声で言った。
「…コンビニのお兄さん…?」
人影は、あのカフェラテ少年だった。
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