春の明日になりたい

はる

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fall②

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少しの間、沈黙が流れた。

ピチョンという水の音が妙に耳に響く。

「ところで君の名は?」

「それ重要?どうせ死ぬのに。」

「最期に会話を交わした相手の名前くらい知っておきたいじゃないか。」

「…ハル…」

「ハル、か。いい名前だ。」

「アンタは?」

「俺は、紅葉(クレハ)だよ。」

「へー。」

「まったく興味無さそうな反応だな。ところでさ、ハル。」

「なに?」

「ここから出られたら何をしたい?」

「え、なんだろ。…海を見たい…かな。」

「海?」

「海、見た事ねーからさ。」

「そうなんだ。じゃあ俺が連れて行ってあげるよ。」

「…別に…いいよ…」

そんな事を言われると思っていなかったハルは、つい素っ気ない返事をした。

そしてまた少し沈黙が流れた後、クレハが言った。

「ハルの髪の毛って、いい匂いするな。 」

「…そうか?」

「あぁ、甘い匂い。好きな香りだよ。」

「…クレハは、タバコの匂いがする…」

「おっと、それは失礼。結構ヘビーなもんで。服に染み付いてんだな。」

ハルは、何も言わずにクレハのタバコの匂いが染み付いた胸元に顔を埋めた。

特に理由があった訳ではなく、ただ何となくそうしたかった。 

「ハル…?どうした?」

「…どうもしない…」

その時、遠くの方から「…無事かー!?」「誰かいるかー!?」という声が聞こえた。

おそらく救助隊だ。

「ハル、今からクソデカい声を出す。耳を塞げないと思うから…すまんが我慢してくれ。」

ハルは、胸元に顔を埋めたまま無言で頷く。

クレハはすぅーっと息を大きく吸い込むと「おぉぉぉぉーい!!!」と大声をあげた。

その声量は、ハルの想像の数倍大きく、ハルは驚いた。

大声と言うより雄叫びに近く、ビリビリとした圧を感じた。

「声がした!こっちだ!」という声とともに数人の足音が近付いてくるのがわかった。

「…すげぇデカい声出るんだね。びっくりした。」

「すまん。耳、痛くないか?」

「大丈夫だよ。そんなヤワじゃない。」

「良かった。これで助かりそうだな。まぁもう少しこのままでもいいかなとも思ったけどな。」

「…僕は嫌だね…」

小声でそう言ったハルにクレハは小さく笑ったが、当然ながらそれはハルには見えなかった。
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