推しの裸が美しすぎてしんどいっ!

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「…六条…」

後ろから、ゆきの小さな声が聞こえて、俺は振り向いた。

「ゆき…!?」

体操着に着替えたゆきは、目に涙を溜めて俺を見ていた。

「だ、大丈夫か!?どこか痛い…のか?」

「ううん…ごめん。さっきすごく恥ずかしくて…でも六条が助けてくれたから安心しちゃって…。」

ゆきの目から涙がポロポロと零れ落ちる。

俺の体は、またしても考えるより先に動いた。

ゆきの小さな体を抱きしめていた。

「…六条!?」

ゆきの驚いたような声が胸元から聞こえた。

「ゆき、助けに行くのが遅くなってごめん。もっと早く間に入れば良かった。」

ゆきを困らせるような行為をするクラスメイトを許せなかった。

一方で、ゆきの体に魅了されていた自分も所詮はクラスメイト達と思考は同じで、自分を棚に上げる事など出来ないと考えていた。

でも、ゆきの困っている顔を見て、ごちゃごちゃとした考えはどうでも良くなる程、いても立ってもいられなくなったんだ。

すると、ゆきが俺の胸から顔を離し、俺を見上げて言った。

「ううん。僕、六条が助けに来てくれて嬉しかった。ありがとう。」

あの日以来、久しぶりに間近で見たゆきの顔。

なぜだろう。

胸がドキドキとうるさい。

その高鳴りはまさか、俺は恋をしているのか。

ゆきはあくまで「推し」であった筈なのに…

俺は「推し」に恋をしてしまっているのだろうか。

「ゆき、俺がゆきのことを守るから。何かあったらいつでも駆けつけるし、困ったことは相談して。席替えして離れても、俺はゆきの味方だから。」

「…六条ってホントに優しいね。あーあ、泣いてるとこ見られちゃったなぁ。」

「あ、ハンカチとか持ってなくてすまん…」

「手で拭ったから平気だよ。」

少しの沈黙が流れた。

体育の時間が始まるチャイムが鳴っていたが、俺もゆきも何故かその場を動けずにいた。

「泣いてるとこ、六条にだけは見られたくなかった。」

「…どうして…?」

「だって……なんでもないっ」

そう言って、少し赤らんだ目でゆきは笑った。

今日はすこぶる快晴で、陽の光が2人だけの教室を明るく照らしていた。

そのキラキラとした眩さの中に可愛らしい笑顔を浮かべたゆきがいた。

この瞬間、俺は自分の気持ちを完全に自覚した。

「好きだ。」

俺は小さく言った。

「…え?」

ゆきが驚いた顔で聞き返した。

「好きだ。」

今度は大きな声で言った。

大切なことを言う時は、しっかり相手の顔を見るべきだから、ゆきの方をまっすぐ見て言った。

「好き…って…僕の事…?」

「そう。ゆきの事が好きだ。今ハッキリ自覚した。そして勢いで言ってしまった。」

俺は、今の心情を簡潔に述べた。

だんだんと冷静になると、ゆきを困らせてしまっていることに気付いた。

慌てて取り消そうとすると、ゆきがゆっくりと口を動かした。

「僕も。」

「え…?」

「好き。」

「好き…って…俺の事…?」

「うん、六条のこと。ずっと前から好きでした。」

頬を赤らめたゆきの一言に俺は驚いた。

硬直している俺に向かって、ゆきは続けた。

「六条の事、ずっと見ていたんだよ。生徒会長をして、人の前に立って皆を纏めて人望もあって。僕は、内気で恥ずかしがり屋で人前に出るのが苦手だから、そんな自分のコンプレックスを変えたくて。六条みたいになりたかった。六条は僕の『推し』だったんだよ。それが気付かないうちに好きに変わってたんだ。」

ゆきは、また少しだけ目をうるませた。

そんなゆきの顔が滲んで見えたから、多分俺の目にも涙が浮かんでいたのだと思う。

「ゆき、そんな風に思っていてくれたなんて…気付けなくてごめん。とても嬉しいよ。俺は、ゆきと隣の席で話をしている時間が凄く好きだった。今日、クラスメイト達のノリに困っているゆきを守りたいと思った。ゆきは、明るくて優しくて可愛くてクラスメイトからも慕われている。何かをコンプレックスに感じる必要なんてないと思うんだ。俺も昔はコンプレックスだらけだったから、気持ちはよくわかるよ。」

俺は、息をしっかり吸って言った。

「俺はゆきが好きだよ。こんな素敵な気持ちを教えてくれて、ありがとう。」

俺とゆきはお互いに涙目で、顔を見合せて少し笑った。

「ねぇ、六条。」

「ん?」

「これから、"直也"って呼んでいいかな?ホントは名前で呼びたかったんだけど、なかなか言えなくて。」

「もちろん、嬉しいよ!俺は変わらず"ゆき"で!」

「うん!」

想いが通じ合うってこんなに嬉しいことなんだな。

それと同時に、ひとつ謝らないといけない事を思い出した。

「あのさ、ゆき。俺ひとつゆきに白状しないといけない事があって…」

「え、なに?」

「あの…ごめん!実は、ゆきの体育の時の着替えを見て、その…あまりに綺麗だったから見惚れていた。そのあともゆきの体が見たいと思ってしまって…」

せっかく想いが通じ合ったのに嫌われてしまうかもしれない。

でも、好きな人には隠し事をしてはいけないから、ちゃんと伝えるべきだと思った。

ゆきは、少し顔を赤らめながら言った。

「着替えの時よく目が合ったから何だろうとは思っていたんだ。」

「そ…うなのか…?」

「うん。僕、よく直也の事を見ていたから。普段よりも着替えの時だけよく目が合ったからさ。」

「そっか…ごめんな。嫌だったよな…。」

「ううん。恥ずかしいけど、生徒会長さんの意外な一面が知れて嬉しいよ?」

ゆきは笑顔を浮かべて言ってくれた。

「ありがとう、ゆき。」

俺も精一杯の笑顔を浮かべて言った。

「僕の裸…見たいの…?」

ゆきが顔を赤らめながら小さな声で言った。

「えっ、まぁ…」

「すっごく恥ずかしいんだけど…」

そう言うと、ゆきが自分のシャツを捲り上げながら「直也になら…いいよ?」と言った。

眼前に現れた真っ白くて美しい肌。

「ブフォッ」

「直也!?!?」

小さな恋人の体にもたれかかる俺。

校庭から「体育始まってるぞー!」という誰かの声が聞こえた。



END
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