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8月は夢花火
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Side レイちゃん
「あれ、たーくん?家入らねーの?」
たーくんは、マンションの上の階にどんどん登っていくので、不思議に思って聞いた。
「実はさ、今日誘おうかどうしようか迷ってたんだ。」
「え?何に?」
「この間の…その…キスの事もあったから、なんか変に意識しちゃって。今日学校でせっかく偶然会えたから誘おうと思ったんだけど、なかなか言い出せなくて。」
「…たーくん…?」
たーくんが何を言っているのかわからず、俺は首を傾げる。
「着いたよ。管理人さんに頼んで今日だけ開放してもらったんだ。」
と言って、着いたのは屋上だった。
たーくんは、ゆっくり扉を開けた。
「屋上!初めて来た。でも、なんで…?」
「そろそろかな。レイちゃん、向こうの方、見てて。」
たーくんの指差す方角に目を向けた瞬間、ドーンという音と共にパッと空が明るくなった。
「花火…!!」
美しく夏の夜空に咲く花びらを見て驚いた。
「今日、花火大会なんだよ。ここの屋上、見晴らしが良くてさ。一緒に見たいって思っていたんだ。」
レイちゃんとね、とたーくんが小さく付け加えた。
「すげぇ…めちゃくちゃ綺麗。たーくん、ありがとう。」
ちゃんと見たこと無かったけど、花火ってこんなに綺麗なんだ。
8月の空を彩る花火。
まるで夜が華やかな服に着替えたようで、あまりに美しくて、俺は目を奪われた。
「ねぇ、レイちゃん。」
たーくんは、花火の方角に目を向けながら、俺の名を呼んだ。
「ん?何?たーくん。」
「ひとつ約束して。本当の自分を隠さないで。無理に男らしく振る舞う必要なんてない。俺は、可愛いものが好きでちょっぴり泣き虫で、自分のことを"俺"じゃなくて"僕"って言うレイちゃんが好きだよ。大丈夫じゃないのに強がって無理するところを見ると切なくなるんだ。」
「たーくん…?」
何の脈絡もなく始まった話に驚き、俺はたーくんの方を見た。
そしてもっと驚いた。
たーくんは、泣いていたんだ。
「レイちゃん、前も言ったけどさ、俺の前では大丈夫じゃないときは大丈夫じゃないって言って欲しい。作り笑顔をしないで、泣きたい時には泣いてほしい。この間、脚を挫いた時も、クラスメイトに体触られた時も、今日だって…。それに、あの日。レイちゃんのお父さんがいなくなった日も。いつもいつも"大丈夫"って。大丈夫じゃないでしょ?ねぇ…レイちゃん…ッ」
嗚咽混じりのたーくんの声。
俺も俯いたら涙が零れそうになった。
「でも…でもさ…ッ、大丈夫じゃないって言うとみんな困った顔をするじゃん…!俺、それが嫌で…」
「俺はしないよ。レイちゃんと悩みを分かち合いたいし大丈夫になる方法をいっしょに考えたいんだよ。」
あぁ、ダメだ。俯かなくても涙が零れる。
「ずっと見てきたんだよ。レイちゃんの事、小さい頃からずっとずっと。レイちゃんが好きなんだ。夏が暑いように、花火が美しいように、それくらい当たり前にレイちゃんが好き。レイちゃん以上の人はいないよ。好き。」
"好き"という言葉が夏の風に乗って俺の心に届く。
美しく煌めいた8月の花火。
夏の匂い。
こんなにも切ない気持ち。
涙に濡れたたーくんの顔は滲んで見えた。
誰もいない屋上は、まるで2人だけの世界のようで
キラキラと輝いて美しくて、この日はきっと俺の大切な宝物になる。
「あれ、たーくん?家入らねーの?」
たーくんは、マンションの上の階にどんどん登っていくので、不思議に思って聞いた。
「実はさ、今日誘おうかどうしようか迷ってたんだ。」
「え?何に?」
「この間の…その…キスの事もあったから、なんか変に意識しちゃって。今日学校でせっかく偶然会えたから誘おうと思ったんだけど、なかなか言い出せなくて。」
「…たーくん…?」
たーくんが何を言っているのかわからず、俺は首を傾げる。
「着いたよ。管理人さんに頼んで今日だけ開放してもらったんだ。」
と言って、着いたのは屋上だった。
たーくんは、ゆっくり扉を開けた。
「屋上!初めて来た。でも、なんで…?」
「そろそろかな。レイちゃん、向こうの方、見てて。」
たーくんの指差す方角に目を向けた瞬間、ドーンという音と共にパッと空が明るくなった。
「花火…!!」
美しく夏の夜空に咲く花びらを見て驚いた。
「今日、花火大会なんだよ。ここの屋上、見晴らしが良くてさ。一緒に見たいって思っていたんだ。」
レイちゃんとね、とたーくんが小さく付け加えた。
「すげぇ…めちゃくちゃ綺麗。たーくん、ありがとう。」
ちゃんと見たこと無かったけど、花火ってこんなに綺麗なんだ。
8月の空を彩る花火。
まるで夜が華やかな服に着替えたようで、あまりに美しくて、俺は目を奪われた。
「ねぇ、レイちゃん。」
たーくんは、花火の方角に目を向けながら、俺の名を呼んだ。
「ん?何?たーくん。」
「ひとつ約束して。本当の自分を隠さないで。無理に男らしく振る舞う必要なんてない。俺は、可愛いものが好きでちょっぴり泣き虫で、自分のことを"俺"じゃなくて"僕"って言うレイちゃんが好きだよ。大丈夫じゃないのに強がって無理するところを見ると切なくなるんだ。」
「たーくん…?」
何の脈絡もなく始まった話に驚き、俺はたーくんの方を見た。
そしてもっと驚いた。
たーくんは、泣いていたんだ。
「レイちゃん、前も言ったけどさ、俺の前では大丈夫じゃないときは大丈夫じゃないって言って欲しい。作り笑顔をしないで、泣きたい時には泣いてほしい。この間、脚を挫いた時も、クラスメイトに体触られた時も、今日だって…。それに、あの日。レイちゃんのお父さんがいなくなった日も。いつもいつも"大丈夫"って。大丈夫じゃないでしょ?ねぇ…レイちゃん…ッ」
嗚咽混じりのたーくんの声。
俺も俯いたら涙が零れそうになった。
「でも…でもさ…ッ、大丈夫じゃないって言うとみんな困った顔をするじゃん…!俺、それが嫌で…」
「俺はしないよ。レイちゃんと悩みを分かち合いたいし大丈夫になる方法をいっしょに考えたいんだよ。」
あぁ、ダメだ。俯かなくても涙が零れる。
「ずっと見てきたんだよ。レイちゃんの事、小さい頃からずっとずっと。レイちゃんが好きなんだ。夏が暑いように、花火が美しいように、それくらい当たり前にレイちゃんが好き。レイちゃん以上の人はいないよ。好き。」
"好き"という言葉が夏の風に乗って俺の心に届く。
美しく煌めいた8月の花火。
夏の匂い。
こんなにも切ない気持ち。
涙に濡れたたーくんの顔は滲んで見えた。
誰もいない屋上は、まるで2人だけの世界のようで
キラキラと輝いて美しくて、この日はきっと俺の大切な宝物になる。
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