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ff(フォルティッシモ)

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また変な沈黙が流れそうになるのを回避する為に、立てかけられた楽譜の中のたまたま目に入ったfがふたつ並んだ記号を指さして聞いた。

「これってどういう意味?」

「あぁ、フォルティッシモだよ。とても強く弾いて下さいという意味。強弱記号のひとつだよ。」

「へー。じゃあこれは?」と言ってpがふたつ並んだ記号を指さした。

「ピアニッシモ。とても弱くという意味。フォルティッシモの逆だね。」

「へー!へー!すげぇ!じゃあこれは?」

知らない事を知れるのが嬉しくて少しテンションが上がった俺は、今度は鍵盤のひとつを指さした。

「これは、ファだよ。」

「じゃあこっちの黒いのは?」

「黒い鍵盤は、半音上げたり下げたりするんだ。ほら、例えばこの和音。」と、たーくんは、白いみっつの鍵盤に細い指を置いて和音を奏でた。

「それに比べて、ひとつを黒い鍵盤にしてみる。すると、こんな感じ。」と、今度は、黒い鍵盤を混ぜた和音を弾いた。

「あ、なんだか少し悲しげに聴こえる。」

「でしょ。黒い鍵盤の音を混ぜると、こうやって聴こえ方が変わってくるんだよ。」

「すげぇ!今のもう1回やってよ。」

「うん、じゃあレイちゃん手貸して。」

たーくんは、俺の手を優しく鍵盤に導いた。

俺の手のひらの上にたーくんの手のひらが重なった。

ピアノが控えめな音が奏でた。

また沈黙が流れたけど、それは、さっきまでの少し気まずさの入り交じった沈黙ではなかった。

俺とたーくんは見つめ合った。

そして、キスをした。

幼なじみとの初めてキス。

チュッという軽いキス。

とても控えめなキス。

それでいて、"とても強い"気持ちが伝わるキス。

優しくて恥ずかしくて嬉しくて少し切なくて、

ほんの一瞬のようで

永遠のようで

呼吸が止まったような気がした。
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