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オレンジ

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レイちゃんの足は捻挫だった。

保健室で処置をしてもらい、その後の授業は普通に出席していた。

放課後、俺はレイちゃんを自転車の後ろに乗せて帰る事にした。

俺達は2人とも自転車通学だけど、レイちゃんはこの足では自転車を漕げない。

「たーくん、俺のせいで色々…」

「何回も謝らなくていいよ、レイちゃん。」

「まだ謝ってねーよ?」

「謝ろうとしたでしょ?」

「う…、だって俺迷惑かけっぱなしじゃん。今だってわざわざ自転車乗せてくれて…。」

「レイちゃんは軽いから大変じゃないし、家だって俺の通学路の途中なんだから、何も問題はないよ。」

それに、そもそももっと謝るべきなのは俺の方だし。

レイちゃんは少し鼻を啜って、俺の後ろに乗った。

俺は自転車を漕ぎ始め、夕日でオレンジに染まる街中をゆっくり進んだ。

「たーくん、安全運転だな。」

レイちゃんの声が後ろから聞こえた。

「まぁ、生徒会長だから。」

「それ関係なくね?」

そう言って笑った。

また背中越しなのが悔やまれた。

「レイちゃん。」と俺は前を向いたまま声をかけた。

「なに?」

「我慢しちゃダメだよ。」

「我慢って?」

「大丈夫じゃないときは大丈夫じゃないって言って。痛いときはちゃんと痛そうな顔をして。無理に笑ったりしないで。俺、分かってるから。一人で抱えたりしないで。俺の前だけでもいいから、自分の気持ちを素直に表に出してよ。」

饒舌な自分に自分で驚いた。

「たーくん、ありがとう。たーくんは、いつも優しいね。本当に優しい。ありがとう。」

レイちゃんは2回"ありがとう"と言った。

少し沈黙が流れた後、レイちゃんがゆっくりと口を開いた。

「たーくん、もう少し時間をくれる?」

「時間?」

何の話か分からずに聞き返した。

「うん、昨日の事。」

ドキっとして俺は口ごもった。

レイちゃんは話を続けた。

「たーくんは、忘れてくれって言ってたけど、忘れられないよ。俺、びっくりしたけど、嬉しかったしさ。でも今日一日考えていても答えが出せなかったんだ。だから、もう少し時間が欲しい。」

「レイちゃん、でも…」

「たーくん!俺の家通り過ぎちゃうよ!」

「あ!」

レイちゃんの話に集中しすぎて、ついレイちゃんの家を通り過ぎそうになった。

慌てて自転車を止めると、片足を庇いながらレイちゃんが降りた。

「たーくん、今日は本当にありがとう。」

今日何度目か分からないありがとうを言ったレイちゃんの顔が赤らんで見えたのは、夕日に照らされていたせいだろうか。

「じゃあ、また…!」

「うん、またね。お大事に。」

そう言って俺達は手を振った。
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