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初恋の音がした。

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Side 匠(たーくん)

レイちゃんと初めて出会ったのは、幼稚園の初日。

彼は、一人でブランコにいた。

それが寂しそうに見えて、勇気を振り絞って声を掛けた事を覚えている。

それ以来、俺達は仲良くなった。

レイちゃんとは、性格は全く違うのに妙に気が合った。

2人とも、あんこはこしあん派だし、きのこよりたけのこ派だし、目玉焼きは醤油よりケチャップ派。

意見が合うたびに「また真似っ子したー」などと言いながらはしゃいでいた。

それに、お互いの家が近かったから、よくうちに遊びに来てくれて、家族ぐるみで仲良くしていた。

レイちゃんは女の子みたいに可愛くて、自然と「レイちゃん」と呼んでいた。

レイちゃんは、俺の事を「たーくん」と呼んでくれた。

あだ名で呼ばれた事が初めてで、嬉しいような、妙にむず痒いような、そんな感覚を覚えている。

そのまま同じ小学校にあがり、毎日のように一緒に登校した。

レイちゃんは、優しくて、明るくて、奔放としていて、可愛くて、いつも周りに沢山の友達がいた。

レイちゃんが楽しそうにしていると、俺もうれしい気持ちになった。

可愛いものが好きで、ちょっぴり泣き虫。

そんなところも可愛かった。

そんなある日。小6の時だったと思う。

レイちゃんの両親が離婚した。

母子家庭となったレイちゃんのお母さんはいつも忙しそうにしていた。

レイちゃんは放課後もうちにいる事が増えた。

おそらく、親同士が話し合ったのだと思う。

学校でのレイちゃんは何事もなかったかのように、いつものように笑顔で過ごしていた。

でも、俺と2人だけの時、たまに寂しそうな顔をするようになった。

それはきっと、俺だけに見せてくれるレイちゃんの素の表情だったのだと思う。

そんなレイちゃんの顔を見ると胸が締め付けられた。

父親がいなくなって、母親が忙しくなって、寂しくない筈がない。

それなのに、レイちゃんは、周りに気を遣わせないように「大丈夫」と言って笑顔でいようと努めていたんだ。

泣き虫なレイちゃんは、あの日から泣かなくなった。

あの頃の事を思い出すと、今も目頭が熱くなる。

まだ小学6年生だ。

どれだけの悲しみを、その小さな体の中に抱えていたというのだろう。

俺が初めてレイちゃんの前でピアノを弾いたのはこの時だった。

レイちゃんが作り笑顔ではなく、本当の笑顔で日々を過ごせるようにしてあげたい。

そんな気持ちでいっぱいだった。

でも、不器用な自分には言葉でそれを伝える事が出来ず、ピアノで伝えようと思った。

レイちゃんの前で弾くのは恥ずかしかったけど、俺にはこれしか無かったし、レイちゃんに元気になって欲しい。ただその一心だった。

恥ずかしくてレイちゃんの方を見る事が出来なかったから、レイちゃんがその時どんな顔をしていたのかは俺には分からない。

でも、それ以来、俺達は一緒の時間がさらに増え、より一層仲が深まったと思う。

そして…いつからだろう。

一緒の時間が増えれば増えるほど、お別れの時間をもの凄く寂しく感じるようになった。

楽しそうなレイちゃんの笑顔をずっと見ていたいと思うようになった。

寂しそうなレイちゃんを抱きしめたいと思うようになった。

友達と楽しそうにするレイちゃんを見て悲しい気持ちになった。

四六時中、レイちゃんと一緒にいたいと思うようになった。

どこにいてもレイちゃんの姿が目に浮かぶようになった。

恋を…知った。
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