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レイちゃんとたーくん

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たーくん(匠のことをそう呼んでる)がピアノの演奏を止めて、こっちを見て言った。

「レイちゃん、何かあったでしょ。」

レイちゃんとは俺の事。玲亜だからレイちゃん。

ちゃん付けは嫌だって言ったんだけど、「可愛いレイちゃんにはちゃんがいいから」って昔から言うんだ。可愛くなんかねーのに。

「たーくん、何でわかるんだよー。」

「わかるよ。レイちゃん分かりやすいから。」

「え、ま?不名誉なんだが。」

自分では生粋のポーカーフェイスだと思ってんだけど。

「何があったの?俺で良ければ話してみてよ。」

そう言うと、俺が座っていたベッドの隣にたーくんも座った。

「いやいいよ。たーくん、ピアノ練習中なのにわりぃし。」

「今日のノルマ分は終わったから大丈夫。それにせっかく来てくれているんだし。」

アポなしで家に突撃した俺に対して「来てくれている」なんて言ってくれる。たーくんは、マジでいつも優しい。

「ありがとう。」

「うん。まぁ話したくない事なら無理に話さなくてもいいけど。」

「いや、全然話せるんだけど、面白い話でもねーし…。」

「レイちゃんいつもそう言うけど、なんだかんだ話すよね。」

たーくんは、細い目をさらに細めて、したり顔をした。

指摘された俺は顔が赤くなるのを感じて、慌てて下を向いて言った。

「う、確かに。えっと、一言で言うと…別れた。」

「あー……え?」

「別れた。」

「わ、別れたって…あのクリなんとかっていう年上のちょっとチャラそうな彼氏さん?」

「クリスな。岡本クリストファー宗介。」

別に芸名とかじゃない。

俺の彼氏…もとい元カレはフランス人のハーフなんだ。

「…そうなんだ…理由は…?」

「また浮気された。他の人とえっちしてたんだ。その相手が俺の友達の友達でさ、それ聞いて問い詰めたら秒で白状した。せめて誤魔化せよって一瞬思ったけどさ。もうこれで4回目だから、もういいやって思ったんだ。」

なんだかんだで話を聞いてもらいたかった俺は、堰を切ったように続けた。

「今までもたーくんに相談乗ってもらってたじゃん?その度に『また繰り返すだけだから別れた方がいい』って言ってくれてただろ?その通りだなぁって今更ながら思ったよ。期待してバカみたいだったなーって…あれ、たーくん?どしたん?」

ふと、たーくんのほうを見ると、なぜかあんぐり顔を開けている。

あれ、こんなアホ面なたーくん、見た事ないけど…。

「ガチでどうしたの!?具合でも悪い??」

慌てる俺を見て我に返ったみたい。

「あ、ご、ごめん。少々頭の中が混乱していた。そうか、別れたんだ…。もうきっぱり?」

「うん。LINEもTwitterもインスタも全部ブロックした。」

「…て言う事は、レイちゃんは今もうフリーって事だよね?」

「フリー?うん、フリーだな。言われてみればなんか自由って感じ!はは!フリーダムぅ!」

付き合い始めた頃は、初めての恋人って事もあって、好きで好きで沼って病んで、それでも好きで。

恋に悩んでは落ち込んで、西〇カナを聴いて、たーくんに話を聞いて貰ってたな。

「そ…うなんだ…良かった。うん、良かったよ。未練とかはないの?」

「ないない!3回目の浮気をされたあたりでもう大分気持ち冷めてたんだと思うし!なんか謎の開放感!」

振り返ると悩まされてばっかりで、優しくないしチャラいし、あんまりイイ彼氏じゃなかったな。その証拠に別れてスッキリしてる。

「なんか、別れたのにテンション高いね。」

「うん、スッキリしてるからな。スッキりすぅ~!って感じ!」

「スッキりす…レイちゃんってりすっぽいよね。」

「え、そう?そうかな?リス…?あ、ていうか、ごめん。なんか1人で盛り上がっちゃってて。たーくんには色々話聞いてもらってたよな。本当ありがとう。」

「うん、それは全然構わないけど。うん…うん…うー…ん」

なんか、たーくんの様子がおかしい。

難しい顔をして腕を組んで考え込んでいる。

「たーくん?なんかさっきから変だよ?」

「今色々考えてるから少し待って…!」

たーくんが急に大きめの声を出すから、びっくりして思わず「は、はい!」と答えた。

しばし沈黙が流れる。

スマホでもいじろうかなと思ったら、たーくんが口を開いた。

「レイちゃんは、暫く恋愛はしないの?」

「え?うーん。それはわからない。別れたばっかだし、そこまで考えてなかった。」

「そっか。…あのさ、レイちゃんに話したいことがあるんだけど。」

「何?急に改まって。珍しいな、たーくんが俺に話したい事があるなんて。いつも俺が…」

「俺、ずっと前からレイちゃんのことが好きだったんだ。」

たーくんの食い気味に放った言葉が部屋中にコダマした。
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