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3を書くもとになった押韻定型詩
しおりを挟む昔の職場の、かなり年上の先輩Mさんは、ずっと詩を書いていました。いやもっと総合的な、文化人という感じでしたね。元はニコンにお勤めだったのでカメラにお詳しいし、文芸同人誌も作っていたし、音楽もやっていた。鍵盤も弾けるので作曲もして。人脈も広かった。文化的なものと社会的なものが重なる時代を経てきた方なので、私とは違う感覚、フィールドで活動されているなと思っていました。
いま思うと、私たちの世代は割とそのように上の世代の方と向かい合うことが多いように思いますけれど、どうでしょう。
それでも、私は何も知らない若輩ですから、違う世界を学ばせていただくつもりで、いろいろ関わらせていただきました。ええ、本当にぐいぐいこじ開けられるような状態で。
とはいえ、自分のバックグラウンドもありますから、いったん丸ごと飲み込んで取捨選択するようにしてきました。
私はといえば、大学の頃からなにげに詩を書いていましたが、ティーンエイジャーが手すさびにするような感じで人前に出す気はまったくなかったです。でもMさんはそのようなことをまったく知らないのに、「何でもいいから出せ」と言って下さったのでした。創作をしろということですね。
Mさんはその頃、詩人の飯島耕一さんや梅本健三さんと、「押韻定型詩」を再評価しようということで、同人誌を立ち上げようとされていました。その立ち上げのきっかけになった座談会のテープ起こしを頼まれたのですが、分からない単語がいっぱい出てきました。岩野泡鳴とか九鬼周造の名前がポンポンと出ていたのを覚えています。あとは、とにかく皆さん知識が広くて深いのみならず、西洋も東洋も縦横無尽に行き来する。その引っ張りかたの自由さに感嘆しました。座談会は3時間ぐらいでしたが、倍ぐらいは喋れたのではないでしょうか。
Mさんは私に関わらせようとして、テープ起こしを頼んだのだと思います。確信犯ですね。許しましょう。いえ、感謝しています。
そのおぼろげな記憶を参考に少し説明します。
もともと、日本語の詩は和歌や俳句、川柳、短歌など音数に決まりのある「定型」詩でした。日本人に多大な影響を与えた中国の漢詩も決まりがありました。ついでに言えば、外国語の詩にもソネットやバラッドなどの形があります。
明治、大正期になって言文一致が新しい表記方法として躍り出て、詩の分野でも定型ではない自由詩が現れて主流になっていきました。それが、言い方はどうかと思いますが、定型詩を旧態としてアーカイブに放り込もうとしているーーということで、もうちょっと見直してみたらという方もいらしゃったんですね。それが、マチネ・ポエティック(昼下がりの詩)という活動になりました。ウィキペディアで検索すると、以下のようなことです。
ーーマチネ・ポエティクとは、太平洋戦争中の1942年に、日本語によるソネットなどの定型押韻詩を試みるために始まった文学運動。加藤周一、中村真一郎、福永武彦、窪田啓作、原條あき子らが中心となった。ーー
Mさんと飯島さんがやろうとしていたのは、このマチネ・ポエティックの平成版でした。Mさんは音楽もやられていたので、歌詞の文字数とかリズム、韻などに興味を持っていました。飯島さんは詩人というだけではなく、シュルレアリズムを日本に紹介した方の一人で、フランス文学者です。マチネの福永武彦さんもフランス文学者でしたが、フランス詩の音の美しさなどを十分に知った方が日本語でもそのようにできないのかと思われたのだと想像します。
そのような視点から実作を発表する場として、『中庭』という同人誌が立ち上がりました。
それに参加のお呼びがかかったというわけです。
今日の詩はそこに載せるために書いた詩で押韻をしています。「ままかり」は岡山でよく食べられる魚です。小豆島か児島に行ったときに、遊覧船のガイドの方が話していました。よく獲れるし、ご飯を借りてきたくなるほど美味しい(なので、ままかり)ということを聞いたので、それを魚になって書いてみました。のちに金子みすゞさんの詩のフレーズ、『魚のとむらいするだろな』を見て、ああ感じかたが同じだと感激しました。
奇しくも飯島さんは岡山のご出身ですので、バックアップになったのでしょうか。なっていないか……。
押韻詩も自由詩もそれぞれいい点がありますので、どちらがいいという風には考えていませんが、試みとしてはとても面白いと思いました。
言葉の力を最大限に引き出そう、という意味ではどちらも目指すところは同じです。
♭『中庭詩集』(思潮社)というアンソロジーに私の詩も出ていたかもしれません。もう絶版では?
ISBN978-4783705802
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