風信子ノ詩集 Hyacinth Poems

１を書くもとになった風景

　二〇世紀に書いた詩と、それにまつわる話を引っ張り出します。プリズムを少し傾けたいと思いました。

　詩を書くのは今世紀に入って何となく、ほぼ止めたままですが、それを出すのは『棚卸し』のような作業でした。なぜか昔の詩を出すことを恥ずかしいとは欠片も感じませんでした（若気の至りですが）。振り返ってみて肩の力が抜けましたし、現在地や向かっていく方向をまっすぐ見るようになりました。

　前のめりなものもありますが、二〇代の頃に書いていた詩は今の私には書けないですし、今書いているお話（小説）は二〇代の私には書けないという、シンプルなことだと考えています。

　さて、『葦』は広島県福山市の草戸千軒町辺りに行ったときの風景をもとに書きました。こちらには芦田川という川があります。

　ここで江戸時代に大洪水が起こって、一帯をのみ込んでしまいました。お稲荷さまのある賑やかな門前町だったそうです。何しろ、「千軒」町というぐらいですから。それがまるごと飲み込まれてしまったのです。今でも発掘作業が続けられているようです。どれほどすさまじいものだったのか、想像に難くありません。

「こんなにお日さまがぽかぽかと当たるところで、そんなことが起こったんだ……」と思いました。

　でも、川辺にある葦というのは細いけれど、くじけないのだなとも思いました。
　同じようなことはそのあともたくさん起こっています。
　私たちも限りのある小さな存在ですが、まっすぐ立つ葦に学ぶことも多いのではないでしょうか。