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人間編【赤い糸と真っ赤な嘘】
第4話 人生剪定
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―― 二週間後。
再度同じ廃墟。
そしてどんよりとした天気の中。
畳をひいて、炬燵を用意して、お茶とミカンを置いて。
野良猫は残念ながらいませんが。
雨よりは冷えてはいないけれど手を擦りたくなる空気の中。
山羊様と炬燵の中で膝を向き合わせている。
「こちらが調査結果になります」
「ありがとうございます」
今日も仕事終わりなのか、おふぃすかじゅあるらしき洋服だ。
けれど今日はぱんつすたいるで綺麗さに合わせてかっこよさもある。
髪ははーふあっぷにまとめている。
女性は服と髪型で印象が大きく変わると言うが、山羊様も例にもれず色々な雰囲気をお持ちのようだ。
カバンの中から眼鏡を取り出した。
紫色の透かし模様が入った縁の眼鏡をかけ、真剣に資料を読まれている。
「……よかった。怪しい人じゃなかったんですね」
「はい。清廉潔白に限りなく近いお人と思われます。ただご家庭に入ってからでしかわからないお人もいると思いますので、あくまで参考にしてください」
「そうですね。人は見かけによらない、ということもありますし。まずは同棲から提案してみようかしら」
「それもよろしいかと思います。一緒に住んでみると、結婚後のイメージも湧きやすいと言います。けれどそのままなあなあになってしまって、結婚を先延ばしにしてしまうこともあると聞きます。なので、期限を決められてはいかがでしょう」
「そうですね……同棲が受け入れてもらえたら、少なくとも一緒に住む場所の更新時期のたびに確認、とか」
「よろしいかと思います。生活リズムの違いがあるのか。生活態度はどうか。家事についての協力、許容について。体調を崩した時。ご実家との関係性など。色々とわかることもあるかと思います」
「はい。彼のことが知れて、気持ちがより前向きになりました。同棲を断られたらと不安にもなりますが、でも、何か行動に移さないと今のまま変われないし。……私、実は婚約破棄されたことがあるんです。だから怖いけど……けど、それでも私は前に進みたい。けれど彼が進まないなら……それぞれの道も考えないと……」
ぱっと明るくなったと思ったら、どんよりとした影が射した。
一緒にいたいと思う人と、必ずしも歩めるわけではない。
意見が合わないならば話し合うしかない。
話し合ってお互いに納得する結論がつくなら良し。
話し合えないならば。
話し合って結論が納得しあえないならば。
我慢するか、別に生きるしかない。
人は一人では生きていけないとしても、片方に頼り切っても生きてはいけない。
その人らしさが死んでしまう。
自分の幸せ、自分らしさを考えるのならば、切ることも必要。
「ありがとうございます。頑張ってみようと思います」
「あまり意気込みしすぎずに。疲れてしまいますからね。気持ちに余裕があった方が考えも増えます」
「そ、う、ですね。うん。気楽に。気楽に」
「その意気です。もし息抜きがしたければ、この廃墟などいかがでしょう」
「……! すごく素敵なところ! どこですか!?」
「少し遠いのですが、あまり知られていない場所の様です。その写真は差し上げます。住所は――」
私が読み上げる住所を、写真の裏に書き込んだ。
これで、好転しても暗転しても、ここに山羊様が訪れる可能性ができた。
連絡を取らずとも状況を確認することができる。
そうしてから連絡をとることとしましょう。
……今回は小説のネタにはならなそうですね。
――そして、一週間後。
再度同じ廃墟。
そしてどんよりとした天気の中。
畳をひいて、炬燵を用意して、お茶とミカンを置いて。
野良猫は残念ながらいませんが。
雨よりは冷えてはいないけれど手を擦りたくなる空気の中。
山羊様と炬燵の中で膝を向き合わせている。
「こちらが調査結果になります」
「ありがとうございます」
今日も仕事終わりなのか、おふぃすかじゅあるらしき洋服だ。
けれど今日はぱんつすたいるで綺麗さに合わせてかっこよさもある。
髪ははーふあっぷにまとめている。
女性は服と髪型で印象が大きく変わると言うが、山羊様も例にもれず色々な雰囲気をお持ちのようだ。
カバンの中から眼鏡を取り出した。
紫色の透かし模様が入った縁の眼鏡をかけ、真剣に資料を読まれている。
「……よかった。怪しい人じゃなかったんですね」
「はい。清廉潔白に限りなく近いお人と思われます。ただご家庭に入ってからでしかわからないお人もいると思いますので、あくまで参考にしてください」
「そうですね。人は見かけによらない、ということもありますし。まずは同棲から提案してみようかしら」
「それもよろしいかと思います。一緒に住んでみると、結婚後のイメージも湧きやすいと言います。けれどそのままなあなあになってしまって、結婚を先延ばしにしてしまうこともあると聞きます。なので、期限を決められてはいかがでしょう」
「そうですね……同棲が受け入れてもらえたら、少なくとも一緒に住む場所の更新時期のたびに確認、とか」
「よろしいかと思います。生活リズムの違いがあるのか。生活態度はどうか。家事についての協力、許容について。体調を崩した時。ご実家との関係性など。色々とわかることもあるかと思います」
「はい。彼のことが知れて、気持ちがより前向きになりました。同棲を断られたらと不安にもなりますが、でも、何か行動に移さないと今のまま変われないし。……私、実は婚約破棄されたことがあるんです。だから怖いけど……けど、それでも私は前に進みたい。けれど彼が進まないなら……それぞれの道も考えないと……」
ぱっと明るくなったと思ったら、どんよりとした影が射した。
一緒にいたいと思う人と、必ずしも歩めるわけではない。
意見が合わないならば話し合うしかない。
話し合ってお互いに納得する結論がつくなら良し。
話し合えないならば。
話し合って結論が納得しあえないならば。
我慢するか、別に生きるしかない。
人は一人では生きていけないとしても、片方に頼り切っても生きてはいけない。
その人らしさが死んでしまう。
自分の幸せ、自分らしさを考えるのならば、切ることも必要。
「ありがとうございます。頑張ってみようと思います」
「あまり意気込みしすぎずに。疲れてしまいますからね。気持ちに余裕があった方が考えも増えます」
「そ、う、ですね。うん。気楽に。気楽に」
「その意気です。もし息抜きがしたければ、この廃墟などいかがでしょう」
「……! すごく素敵なところ! どこですか!?」
「少し遠いのですが、あまり知られていない場所の様です。その写真は差し上げます。住所は――」
私が読み上げる住所を、写真の裏に書き込んだ。
これで、好転しても暗転しても、ここに山羊様が訪れる可能性ができた。
連絡を取らずとも状況を確認することができる。
そうしてから連絡をとることとしましょう。
……今回は小説のネタにはならなそうですね。
――そして、一週間後。
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