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最終話
しおりを挟むハナさんはさっき淹れたティーカップを片付け、お湯を沸かしながら新たに2つのカップを用意した
「いやぁぁぁぁ」
たまに聞こえる藍の悲鳴は、その存在を消してしまおうと敦に思わせる
そうでなければ、この悲鳴は聞いていられない
ハナさんはさっきと同じように優雅にお茶を入れ
「はい。どうぞ」
「…いただき…ます」
ハナさんが両手でカップを持ちコクリと紅茶を飲む
敦はカップが置かれた向かいの席に座った
「敦くんごめんなさい…」
「いえ…こちらこそ、華の事知らなくて…」
「うん。敦くんがいる時は平和だったんだって。応援に来てくれたり、練習を見に来てくれたりしたんでしょ?」
「……」
「でも次の日は最悪だったって…ふふっ分かりやすいね?」
「華に会わせてはもらえませんか?」
「華にとっては、敦くんも嫌な記憶になっちゃったの…残念だけど…」
「気付かなくてごめんって…伝えてもらえますか?」
「ありがとう」
2人同時にお茶を一口コクリと飲み込む
敦は聞きたい事があったのだが、今聞いて良いものか
ハナさんの表情をチラッと伺ってみる
落ち着いて、元のハナさんに戻っているように見える脳が、華のママとして認識を書き換えたからなのか、敦の下心は消えていた
もちろん美しいのだが、母親としてのハナさんのインパクトが強すぎたのだろう
無言の時間も気まずくなって敦は口を開いた
「ハナさんが大学で待ってたのって…」
「ふふっ。そうだよ。敦くんに会いに行ったの」
敦はまんまとハナさんの思惑通りにハナさんに声をかけたのだ
そうだったのか…
敦が勝手に嫉妬していた相手は自分だった
これが目的だったにしろ、まるで恋人を待っているように敦を待っていたハナさん
それだけで敦は今までの事を流せる気がした
もう気が澄んだと言う事なのかもしれない
「お茶を飲んだら帰ろう。後はあの2人がやってくれるから」
「………」
藍はどうなるんだろう
「ふふっ藍ちゃんが心配?
本当はね、敦くんに藍ちゃんをママにしてもらって終わりだったんだけど…」
「!」
藍がこうなってるのは、断った敦のせいでもあるような気がして来た
「でも、敦くんには知らないにしろ協力してもらったし、華の気持ちを分かってくれた
何より華の身体を気づかってくれたから、最後は敦くんの気持ちを尊重したつもり…」
助かったんだ…
もし選択を間違えていたら…と思ったら、身体が震える
「藍ちゃんは…多分変わらない
またきっと誰かを傷つけて生きていくと思う
でも、彼女のプライドには少し傷をつけられたかな
ただこの先はあの2人が決める事だから…」
あの2人が藍の行く末を決める?
あの2人はいったい何なんだ
敦がその答えを聞かくなても、ハナさんは話し続けた
「私は優しい華と違って、自分に降りかかる火の粉は、もう2度と張り合いたいと思えないくらいにお返ししてきた
あの2人もね、藍ちゃんと敦くんみたいだったんだから…ふふっ」
「!」
女の方は、藍が華に向けた感情と同じ物をハナさんに向けたのだろう
そして男の方は…
「だから、彼女の望み通り、ずっと2人で居られるようにしてあげたの。これのお返しにね?」
「!」
ハナさんが大きく捲り上げたスカートから
大胆に見えた真っ白で綺麗な肉付きをした太腿には、不釣り合いな古くて大きめの火傷の跡があった
「当時は、そうすれば納得するもんだと本気で思ってた
彼女が本当に欲しい物を手に入れれば、幸せになってもう誰の事も傷つけないだろうって…」
今回もそうするつもりだったという事だろうか
「でもなんだかそうじゃなかったみたい
結局何でこんな傷つける程彼女に嫌われてたのかって考えたんだけど…
そうしないと生きて行けない病気みたいな物として認識するのが、1番シックリ来たかな
だって今回の件を頼んだら、彼女、久しぶりに生き生きしてたの
誰かが泣いて悲しむ姿を見るのが生きがいなんだよ…きっと」
ハナさんはちょっと寂しそうな顔で遠くを見ていた
その姿は、藍がどうなるのかを知っているようには見えなかった
仮にハナさんが敦が断る事も、藍が華を認めない事も分かっていてあの2人に頼んでいたとしたら…?
「!」
そうなって初めて藍は華の気持ちを知る事になるのだ
醜い者が満足したいだけの為に傷つけられるのが、どんなに理不尽で苦しい事なのかを
「嫉妬で人を傷つける人達の気持ちは未だにわからないけど
復讐する気持ちに似てるのかもね…
こうするって決めてから、少し身体を絞ったんだけど
まさか華を産む前の体型にまで戻せるなんて…」
おそらく、藍が太刀打ち出来ない完璧な姿で藍と闘うと決めて、自分を追い込んだんだ
ハナさんが言ってた、納得出来る自分に近づくチャンスって事に近いのかもしれない
ただ相手にダメージを与えるだけではなく、その為に自分でも努力して更に美しさに磨きをかけたのなら
単に相手を傷つけて良い気になってた藍とは大違いだ
それがハナさんが美しい理由でもあるんだろう
「でも、終わったはずなのに全然嬉しくもない。
やっぱり醜いもの…」
ぽつりとつぶやいて立ち上がり
「それじゃ、帰ろう」
控えめな笑顔で別れたハナさんの花香と言う名前も本当だったのか分からない
連絡先もSNSも無くなってた
藍もその後どうなったのか分からない
と言うか、知りたくなかった敦は、藍とのつながりを全てブロック&消去した
あんなに狂った復讐を見せられたのに
敦の中でハナさんは美しいままでいる
【心までも美しい華が幸せでありますように】
それがハナさんの願いなんだろう
その境界を脅かす者が現れたら、きっと再びハナさんは彼女の流儀で鉄鎚を下すに違いない
己の美しさを武器にも犠牲にもして
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