美人の流儀【R18】

RiTa

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ハナさんの教えてくれたマンションの1室のドアの前、
想像とは違っていた

マンションは思っていたより古く、指定の部屋は、マンションの立地と構造上、おそらく半地下のようになっているのであろう

「ブスのババアでこんな場所に住んでるなんて惨めだねwwwきっと欲求不満だよ」

ボディチェックを終えた藍の鬱憤も下がる程だった

でもおかしい
ハナさんの雰囲気と、あの車に似つかわしくない
でもハナさんは言ってた『私の事何にも知らないでしょ』がこう言う意味だったのなら、敦の気持ちを軽く見積もっていたんだと思う
ここに住んでいるのだとしても、ハナさんへの気持ちは変わらない
今は只々ハナさんの身が心配だ

藍の方だが、敦への執着と怒りより、ハナさんへの怒りが優っているようだ

僅かに怒ってはいるけれど、今日、ハナさんを叩き潰して、敦との関係を取り戻す物語を描いているのだろう

予想よりも大人しい藍の振る舞いも、勝ちを確信しているからな気がする

敦は少しだけ期待を浮かべた
ブスのババアだと思っている藍の目の前にハナさんが現れたら…?

それでも藍は認めないだろう
僅かな期待は浮かんで消えた

恐る恐る、2人の出会いをなるべく遅らせたいと思いながら、そしてその時間が早く過ぎますようにと願いゆっくりとインターフォンを押し込んだ

ドア越しにインターフォンの音がなったのが聞こえた

「藍、わきまえろよ?」
「敦は藍に意見出来る立場じゃないから」

嫌な予感しかしない
それなのに、その暗い部屋のドアは内側から大きく開け放たれてしまった

「ふふっいらっしゃい」

「…………」

飛びかかるかもしれないと、背中から肩を押さえていたのに、藍は微動だにしなかった

「入らないの?」

あぁ…なんて美しいんだろう
こんな暗い場所なのに、ハナさんはいつもにも増して美しいオーラを放ちながら

敦達を誘うように部屋の中に消えていった

「どうする?藍」
「行く…行くに決まってんでしょ!」

ブスではなかったハナさんに1度は圧倒されたのだろうが、やっぱり認めないつもりだろう

「お邪魔します」

光を取り入れ難い部屋は薄暗く、昼間なのに電気がついている
狭い玄関の先にキッチンとダイニング
ちょっと古びたダイニングテーブルで優雅に紅茶を淹れているハナさんだけが、部屋から浮いている

「ふふっ。ここね、知り合いが貸してくれたの。
座って、お茶どうぞ」

どうりで、ハナさんとの違和感があり過ぎる訳だ
ハナさんは藍の感情を知ってか知らずか、ちょっと嬉しそうにも見える

「はぁ?のんびりお茶しに来たと思ってんの?」
「え?だって、私を見たら納得したでしょ?」

そうか!藍が納得したら、この討論は終わりだ
藍がハナさんをブスのババアだと認めたら、敦との浮気も無かったと証明される

でも、残念ながらハナさんは美しい
それ故、認めなければ、藍はハナさんが美しい女性だと認める事とイコールで
それは藍にとって恐らく屈辱でもあるはずだ

藍はハナさんを叩く理由を失って、握り拳を震わせている
きっと悔しいんだろう

「敦くんと私は浮気なんてしてないの、分かってもらえた?」
「うるさい!ババアが調子乗ってんなよっ!」
「藍!止めろっ!」
カシャーン!

藍はハナさんが淹れたお茶のカップを迷わずハナさんにぶつけようと投げつけた
だが、敦が持ち前の反射神経でカップを弾いたのだ

壁にぶつかって割れたカップ

「紅茶は温めにしておいたけど、敦くん大丈夫?」
こんな事は予想済みだとも取れる

「はい…」
ハナさんは大丈夫なのか確認したかったが、名前を言うのは躊躇われた

敦が取り押さえている藍はまだ怒りで震えている

「敦は…こんなババアが良いわけ?」
「ババアじゃないだろ」

「ふふっ いいの、敦くん。私はババアだよ」
「ほらっ!ババアじゃん!」
「藍っ!いい加減にしろって!」
「ううん。良いの。敦くん。言いたい事全部言ってもらおう」
「ババアが人の彼氏に色目使ってんじゃねーよ」
「色目かぁ…使ったのかなぁ…」
「藍。オレは色目なんて使われてない」
「うっさい!なんでこんなババアにっ!」
「綺麗だからだよっ!美しくて目が離せなかった!
藍なんかとは比べ物にならないくらい綺麗で……オレが勝手に好きになったんだ…
もう諦めろよ。藍だって分かってるんだろ?
ハナさんは綺麗で…藍は敵わないって…」

藍が怒りで震えている。もしかしたら屈辱でも震えているのかもしれない

「ババアのくせに…」
藍がハナさんを睨み続けている
何かするつもりなのか?
敦は藍の肩を握る手に力を込めた

「ふふふふっ」
「!」
意外にもハナさんの方が、おかしいとばかりにクスクス笑い出した
藍を煽っていると思われても仕方ない

「笑ってんじゃねぇババアッ!!」
「待てって!」
前に踏み出した藍を慌てて抱き抱えて止めた

なのにハナさんはその藍の息の荒い鼻先までゆっくり顔を寄せ


「そうだよ。ババアなの。
貴方達が思っているよりずっとババアだと思うわ
だって華のママだもの」
「!」
「!」



「藍ちゃん、可哀想ね。
彼氏がママと同じくらいのババアに夢中になるなんてねぇ、どんな気持ち?」


『私の事何にも知らないでしょ』


敦は本当にハナさんの事を何も知らなかったんだと実感させられていた


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