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8話 城下町での遭遇④出られない部屋

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目を覚ましたら、俺はノアディアの腕の中にいた。
どうかしたのか、泣きそうな顔をしてこちらを注視していた。

「ん。あれ、今何時?」

見渡してみると、どうやらここは裏道ではなく誰かの家の中であった。
暫く放心状態でいると、ノアディアが話しかけてきた。

「今は17時ですよ。ライ、身体の調子に問題はありませんか?具合が悪かったりはしませんか?」

「特に支障は無いから・・・離して欲しいんだけど。」

「分かりました。」

体を起こして少し動き、問題がないことを確かめる。
それにしても17時か・・・早く帰らないとまずいな。最近日が暮れる速度が早くなったし、夜道を歩くことになるのはゴメンだ。

「大丈夫だよ、ライお兄ちゃん、寝て起きた後みたいな感じしかしないはずだから!どうだった?楽しかった?」

「・・・。」

「おいおい、じょうちゃん、そんなに睨むんじゃないぞ、失敗したけどマチは頑張ったんだからなぁ。」

そう言って少女の頭を撫でている酔っ払いの老人は、すっかりお酒臭さが無くなっていた。
今更変えて欲しいとは言わないが、じょうちゃん呼びはまだ顕在のようだ。

「分かってるけど、あんな空間に閉じ込められるなんて・・・しかも脱出方法が・・・。」

はぁ。と溜息をつき、顔を手で覆う。
思い出しただけで居た堪れない気持ちになり、叫びたくなる衝動をどうにか抑える。

「少し疑問があるのですが・・・魔法陣について質問をしても宜しいでしょうか?」

ノアディアは冷静な声でそう尋ねる。俺みたいに照れないことから、恐らくああいったことキスすることは慣れているんだろう。実に遺憾だ。
お前と違って俺はかなり勇気をだしてやったんだぞ!?

「おぉ、いいぞあんちゃん、何でも聞きなぁ。」

「ありがとうございます。魔法陣を作っていた様ですが、失敗した理由を知りたいのです。」

「あぁ、そりゃあなぁ、重量オーバーだったんさね。お前さん、かなり重い剣を持ってるだろう?しかもその剣、魔力付与量が半端じゃねえなぁ。それに加えてお前さんの体力だったり魔力量だったり、色んな重さが影響して空間が歪んじまったのさ。」

「わたしの魔法陣はせんさい?なの!」

そう二人は説明する。魔法陣に重量オーバーとかってあるのか・・・。エレベーターみたいな仕組みにでもなっているのだろうか?不思議な世界だな。実に興味深い。

「なるほど。つまり、私が急に割り込んでしまった影響で、私とライは別々の空間へ閉じ込められてしまったと。そのせいで魂と肉体が離れ離れになった状態になっていたのですね。それであんなに歪な、本来の魔法とは異なる魔法モノになってしまったと。」

「そういう事さね。」

「うーん、多分せいかい!」

ノアディアは無事疑問が解決したという雰囲気を醸し出しているが、俺だけは納得いっていない。むしろ疑念が産まれてしまった。・・・お前魔法陣が発動した後はずっと寝てたんじゃなかったのか?仕方ない、聞いてみるか。

「ちょっと待て。別々の空間に閉じ込められていたってどういうことだ?俺のいた場所ではノアディアはずっと寝ていたんだけど。ずっと一緒にいたよな?」

「私の所も同じでしたよ。ライは眠りについていて起きる気配がありませんでした。」

「もしかして、眠っていたノアディアとかそっちにいた俺は偽物だったってことか?」

「いいえ、あの部屋で眠りについていたライの体は本物でした。恐らくですが、魔法陣によって魂と肉体が分裂して、二つの空間にそれぞれ行ってしまったのでしょう。」

「やけにややこしい状況だな。」

ん?待てよ、となると、この口振りから察するに・・・もしかして、眠っていたノアディアはキスした後目を覚ましていないのか。

つまり、俺がキスした事は知らなかったってことでいいのか!?

白雪姫の最後はキスによって目覚めた後、結婚してハッピーエンドという展開を知っていたからか、てっきりあの後ノアディアは起きたものだと思い込んでしまった。

だとするとずっと冷静な態度を取っているのは自然な事だ。

取り敢えず、俺がキス・・・したのはノアディアの肉体に対してのみで、ノアディア自身はその記憶は無いって解釈でいいのか。うん、それならまだ許せるな。





「その、ライもあれをことで、あの空間から脱出を?」

安堵していた所に、一番触れられたくなかった話題を急に振ってきた。

「・・・。」

聞き方的にコイツ・・・ノアディアもやっぱりそうキスして脱出したのだろうな。ならば恥ずかしがることは無いな。お互い様だ。うん。

「し、したよ。」

「やっぱり、したんですね・・・。」

「空間解除の魔法を。」「キスを。」

「ライ!?今なんと!?」

「はあっ!?なんだその魔法!?」

お互いが別の理由で驚駭きょうがいした。ま、まさか、今俺は物凄い事を暴露してしまったのではなかろうか。いや、事実、口を滑らせすさまじいことを言ってしまった。せめて相手の喋った後に発言すれば良かったと物凄く後悔している。

ダメだ、さっき言ったことは忘却しなくては!咄嗟とっさに魔法を繰り出す。

「オブリビオン!」

「させませんよ!」

腕を構えて魔力を解き放とうとしたが、呆気なく捕まり、魔法を掛け損ねた。

「キスしたと、そう言いましたね?」

「・・・言い間違いだし。」

「いいえ、ちゃんと聞こえましたよ。ライ、説明してくれますか?分かりやすいように、お願い致しますね?」

「うぐ・・・。」

言い逃れ出来なさそうだったので、しょうがなく起きた事を順を追って説明した。ついでに白雪姫についても話す事にしたが、最後のキスをしたくだりで急にノアディアは興味深げに相槌あいづちを打ちながら、メモを取り始めた。

勘弁してくれ・・・。

一通り説明をした後、一番に反応したのはマチだった。

「白雪姫っておはなし、初めて知ったけどすてきね!」

「ああ、素敵だよな。」

俺の精神力は底を尽きそうになったが、無垢な笑顔を向ける少女のおかげでなんとか持ち堪えた。

「ねえ、ライお兄ちゃん。また遊びにきてよ。」

無邪気にそう言う少女は、なんだか最初会った時よりも大人びて見えた。

「魔法陣には興味があるからな、暇な時に来るよ。でも今回みたいなことは勘弁な。」

「うん!」

「世話になったな。またな、じいさん、マチちゃん。」

メモを取ることをやめようとしないノアディアを引っ張って玄関まで連れて行き、家のドアを開ける。

「あぁ、またなぁ、博識なる者よじょうちゃん。武運を祈る。」











不思議な体験をした為か、帰り道の途中で疲れがどっと出てきた。

「ライはファーストキスでしたよね。」

早く帰って寝たい気分だったが、ノアディアは急に配慮に欠けた質問して来やがった。

これはきっとバカにしているのだろう。癪に障る言い方だ。

「悪いかよ!」

「ええ、とても悪いですよ・・・本当に、運が無いです・・・せめて肉体と魂が繋がってさえいればこんな惜しい事には・・・。」

そんなに嫌だったのかよ、流石の俺も結構傷付いたぞ、今の。
涙目になってしまうのを隠そうとしたがすぐに気付かれてしまった。

「ライ??」

「何だよ。」

下を向いたまま歩き始めたが、心配そうなノアディアは

「どうして・・・泣いているのですか?」

と無遠慮に聞いてきた。
こっちだってやりたくてやったキスした訳じゃないし、ノアディアも俺にキスされるなんて嫌だっただろうしと考えると虚しくなってしまった。この感情をどう伝えるべきか迷い、涙を拭い

「ほら、泣いていないし。今日の事は別に気にしてないし。じゃあまたな!」

と言い残し、逃げ帰った。


















「あーあ。ライお兄ちゃん、の食べ物食べてくれなかった。」

「そうさね。マチのいい遊び相手になると思ったんだけどなぁ。」

「怒られるかな?」

「ワシらの仕事は失敗したが、まぁ、これが一番ええ結末になりそうだぁ。」

「謝らないとね。マチと一緒にごめんなさいしに行こう?」

「そうさね。優しいあの人の事だ。謝れば許してくれるだろうなぁ。」

暗闇に呑まれる彼らの跡を追うものはいない。
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