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5話 風邪①
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次の日の早朝、まだ起きる時間ではないのに、なんだか寝苦しくて目が覚めてしまった。
いつもより体が火照っている感じがしたが、衣服を緩めてから二度寝した。
意識が浮上し、起床時刻になったので目を開けようとするが、鋭い喉の痛みを感じ、瞼を開くことも起き上がることもできなかったので、いつもの時間に朝食を食べに行くことが出来なかった。
その為、母が心配そうに起こしに来てくれたのだが、体が言うことをきかず、立ち上がれなかった。
体をふらふらとさせていると母は体調が悪いことに気が付いたようで、ゆっくりとおでこに手を当ててきた。
「もうっ、エル。熱が出てるじゃないの。」
しかし、体温の熱さに驚いたのか手を跳ね上げて不安げに話し掛けられる。
「今日はお店のお手伝いは休みなさい。・・・安静に寝てること。」
起き上がろうとしたが、母に止められて寝かされてしまう。今日はお客さんがいっぱい来る日なので、出来ることがあれば何か手伝いたい。
「ゴホッ。」
喋りかけようと頑張るが、喉が痛くて咳しか出なかった。
「お医者さん呼んでくるからね。」
そう言って母は外へと出かけて行った。もうすぐお店の開店時間なのに、迷惑をかけてしまい申し訳ない気持ちで一杯になる。
お医者さん・・・この街には一人しか医師はいないので、誰を呼びに行ったのかはすぐに分かってしまう。
どうしよう、もしかしたら・・・
「やあ、久しぶりだね、エル君。いつもグレイがお世話になってるね。これから熱の状態を確認するけれど、横になっていて大丈夫だからね。」
「黙ってろ親父。」
や、やっぱり来た。グレイのお父さんは医師なので、もしかしたら一緒にグレイも着いて来ちゃうかもしれないと思っていたら、案の定ここに来てしまった。
どうしよう、昨日髪を乾かさずに寝たから風邪引いちゃったかもって・・・知られたら・・・黙っておこう、怒られそうだ。
掛け布団を被ってビクビクしていると、布団をめくってグレイが体を触ってきた。
くすぐったいと思っていたら、今度は体温を計られたり、口を開けろと言われた後、棒を使って中を覗かれたりした。
熱が高いからだろうか、触れるグレイの手がとても冷たく感じる。なんだか気持ちがいい。
「・・・症状からして急性扁桃腺炎だろ。薬の調合してくる。」
「おや、グレイが診察するなんて珍しいね。医師にはなりたくないんじゃなかったのかい?」
目を閉じながら聞こえてくる言葉に耳を傾ける。グレイ、昔はお父さんみたいなお医者さんになるんだって言ってたのに。夢、変わっちゃったのかな。
都心に行っている間に・・・何があったんだろう。
「うっせ。だから薬作ってくるっつってんだろ。」
「はは。そうだね。薬剤師さん、よろしく頼むよ。私は必要なかったみたいだけど、しっかり診させて「触るなクソ親父。菌が移るだろ。」
「おや、それは私が不顕性感染者だとでも?」
「そうだ、だからとっとと他の患者診てこい。」
急に親子喧嘩が始まってしまった。グレイの口の悪さ、どうにか直せないかな。友達とか、いたのかな。なんだか余計な心配しちゃうな。
「ああ、なんて親不孝な息子なんだ。後で母さんにみっちり話をしないとな。」
「は!?ふざけんな────」
喧嘩の声を聞いていると、段々と意識が薄れていった。
「飲めるか?」
グレイに話し掛けられる。どうやら少しだけ寝ていたみたいだ。水と薬を受け渡され、飲むように促された。
「う、んっ・・・ゴホッ、ケホッ。」
グレイに支えられながら起き上がり、粉状の薬を飲もうと頑張るが、咳き込んでしまった。
「飲めなさそうだな・・・。」
「コホッ・・・・ゴホッ、ゴホッ。」
上手く飲み下せない上、咳が酷くなってきたので水の入ったコップと薬を机に置いて横になる。
グレイはこっちを気にしながら持ってきていた鞄の中身を漁って何かを探していた。
そういえば、さっきからグレイのお父さんの姿が見えない。もしかして、他の患者さんの所に行っちゃったのかな。
グレイが何かを取り出して、机の上に置いた薬を回収したと思ったら、水気を含んだ音が部屋に響き出した。
ぼやけた視界では何をしようとしているのか分からない。
「え、あっ。」
何をしているんだろうと眺めていると、グレイのほころんだ顔がこちらへと動いて来た。
「飲ませてやるよ。」
彼はイタズラでも思い付いたような表情をしている。
こんな状況で、飲ませるって・・・。
ギィ。
ベッドの音が軋む。
顔が段々と近付いてくる。
このまま、まさか。
「んんっ!」
甘い味とほろ苦い味が口に広がる。
「どうだ?ゼリーと一緒なら飲み込めるだろ。」
グレイはスプーンを使って、ゼリーに入れた薬を飲ませようとしてくれたみたいだ。確かに、これなら飲めそうだ。
ゴクリ。とゆっくり嚥下する。
「ほんと、だ。・・・飲めた。」
口移しでもされるのかと身構えたけど、流石にそんなことしないか。
・・・熱のせいだろうか、薬の副作用のせいだろうか、なんだか眠くなってきた。
「ぐれい、ありが・・・・・・・・・・すき、だよ。」
「はあ゛!?んなこたァ分かってんだよ!!一々口に出さなくてもよォ!!だからオレはずっと────」
グレイ、ありがとう、薬剤師とか凄すぎだよ。
って、褒めたんだけど、ちゃんと言えたかな。本当に・・・凄いや。
いつもより体が火照っている感じがしたが、衣服を緩めてから二度寝した。
意識が浮上し、起床時刻になったので目を開けようとするが、鋭い喉の痛みを感じ、瞼を開くことも起き上がることもできなかったので、いつもの時間に朝食を食べに行くことが出来なかった。
その為、母が心配そうに起こしに来てくれたのだが、体が言うことをきかず、立ち上がれなかった。
体をふらふらとさせていると母は体調が悪いことに気が付いたようで、ゆっくりとおでこに手を当ててきた。
「もうっ、エル。熱が出てるじゃないの。」
しかし、体温の熱さに驚いたのか手を跳ね上げて不安げに話し掛けられる。
「今日はお店のお手伝いは休みなさい。・・・安静に寝てること。」
起き上がろうとしたが、母に止められて寝かされてしまう。今日はお客さんがいっぱい来る日なので、出来ることがあれば何か手伝いたい。
「ゴホッ。」
喋りかけようと頑張るが、喉が痛くて咳しか出なかった。
「お医者さん呼んでくるからね。」
そう言って母は外へと出かけて行った。もうすぐお店の開店時間なのに、迷惑をかけてしまい申し訳ない気持ちで一杯になる。
お医者さん・・・この街には一人しか医師はいないので、誰を呼びに行ったのかはすぐに分かってしまう。
どうしよう、もしかしたら・・・
「やあ、久しぶりだね、エル君。いつもグレイがお世話になってるね。これから熱の状態を確認するけれど、横になっていて大丈夫だからね。」
「黙ってろ親父。」
や、やっぱり来た。グレイのお父さんは医師なので、もしかしたら一緒にグレイも着いて来ちゃうかもしれないと思っていたら、案の定ここに来てしまった。
どうしよう、昨日髪を乾かさずに寝たから風邪引いちゃったかもって・・・知られたら・・・黙っておこう、怒られそうだ。
掛け布団を被ってビクビクしていると、布団をめくってグレイが体を触ってきた。
くすぐったいと思っていたら、今度は体温を計られたり、口を開けろと言われた後、棒を使って中を覗かれたりした。
熱が高いからだろうか、触れるグレイの手がとても冷たく感じる。なんだか気持ちがいい。
「・・・症状からして急性扁桃腺炎だろ。薬の調合してくる。」
「おや、グレイが診察するなんて珍しいね。医師にはなりたくないんじゃなかったのかい?」
目を閉じながら聞こえてくる言葉に耳を傾ける。グレイ、昔はお父さんみたいなお医者さんになるんだって言ってたのに。夢、変わっちゃったのかな。
都心に行っている間に・・・何があったんだろう。
「うっせ。だから薬作ってくるっつってんだろ。」
「はは。そうだね。薬剤師さん、よろしく頼むよ。私は必要なかったみたいだけど、しっかり診させて「触るなクソ親父。菌が移るだろ。」
「おや、それは私が不顕性感染者だとでも?」
「そうだ、だからとっとと他の患者診てこい。」
急に親子喧嘩が始まってしまった。グレイの口の悪さ、どうにか直せないかな。友達とか、いたのかな。なんだか余計な心配しちゃうな。
「ああ、なんて親不孝な息子なんだ。後で母さんにみっちり話をしないとな。」
「は!?ふざけんな────」
喧嘩の声を聞いていると、段々と意識が薄れていった。
「飲めるか?」
グレイに話し掛けられる。どうやら少しだけ寝ていたみたいだ。水と薬を受け渡され、飲むように促された。
「う、んっ・・・ゴホッ、ケホッ。」
グレイに支えられながら起き上がり、粉状の薬を飲もうと頑張るが、咳き込んでしまった。
「飲めなさそうだな・・・。」
「コホッ・・・・ゴホッ、ゴホッ。」
上手く飲み下せない上、咳が酷くなってきたので水の入ったコップと薬を机に置いて横になる。
グレイはこっちを気にしながら持ってきていた鞄の中身を漁って何かを探していた。
そういえば、さっきからグレイのお父さんの姿が見えない。もしかして、他の患者さんの所に行っちゃったのかな。
グレイが何かを取り出して、机の上に置いた薬を回収したと思ったら、水気を含んだ音が部屋に響き出した。
ぼやけた視界では何をしようとしているのか分からない。
「え、あっ。」
何をしているんだろうと眺めていると、グレイのほころんだ顔がこちらへと動いて来た。
「飲ませてやるよ。」
彼はイタズラでも思い付いたような表情をしている。
こんな状況で、飲ませるって・・・。
ギィ。
ベッドの音が軋む。
顔が段々と近付いてくる。
このまま、まさか。
「んんっ!」
甘い味とほろ苦い味が口に広がる。
「どうだ?ゼリーと一緒なら飲み込めるだろ。」
グレイはスプーンを使って、ゼリーに入れた薬を飲ませようとしてくれたみたいだ。確かに、これなら飲めそうだ。
ゴクリ。とゆっくり嚥下する。
「ほんと、だ。・・・飲めた。」
口移しでもされるのかと身構えたけど、流石にそんなことしないか。
・・・熱のせいだろうか、薬の副作用のせいだろうか、なんだか眠くなってきた。
「ぐれい、ありが・・・・・・・・・・すき、だよ。」
「はあ゛!?んなこたァ分かってんだよ!!一々口に出さなくてもよォ!!だからオレはずっと────」
グレイ、ありがとう、薬剤師とか凄すぎだよ。
って、褒めたんだけど、ちゃんと言えたかな。本当に・・・凄いや。
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