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2話 おばあさんとお兄ちゃん

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おばあさんの家に辿り着き、ノックをして家の中に入る。中を覗くとおばあさんはゆらゆら動く椅子ロッキングチェアに腰かけて読書をしていた。

「こんにちは!」

「おやぁ、こんにちは。」

病気の時は水分補給が重要なので、まずは葡萄ぶどう酒を飲んでもらおうと、コップをバスケットから取り出して机の上に置く。

「おばあさん、どうぞ。」

「いつもありがとぉねぇ。赤ずきんちゃん。」

葡萄酒をコップに注いでおばあさんに渡すと、ゴクゴクと美味しそうに飲んでくれた。

ちなみに、この国では葡萄由来の飲み物を全て葡萄酒と呼んでいるが、おばあさんに飲ませたものは普通のぶどうジュースなので子供も飲める。

「赤ずきんちゃんって呼び方、あまり好きじゃないかな。」

「そうかい?可愛いと思うんだけどねぇ。」

「もー、やめてって・・・あ。」

幼馴染グレイに会った衝撃で、狼のことをすっかり忘れてた。

童話では、赤ずきんがおばあさんの家に着いた時にはもう、おばあさんは狼に食べられていて・・・。

もしかしておばあさんはもう狼に・・・!?

「おっ!おばあさん!狼────」

「大きな声が聞こえたが、エル、大丈夫か?」

「ひっ!お兄ちゃん!?その銃何!?」

兄であるルカリーシェ・アカミラが、散弾銃を構えて家の中に入ってきた。

兄は何故か狩人みたいな格好をしているが、職業は治安維持部隊所属の騎士・・・簡単に説明すると、前世の警察官である。

とてもいい兄ではあるが、彼は身内に超甘い・・・家族愛の強い人だ。

兄には可愛らしい妊娠中の奥さんがいるのだが、子供・・・それも娘が産まれたら大変そうだな。

ちなみに兄の奥さんとは昔からの知り合いだ。彼女も世話焼きな人物なので、お似合いのカップルだと思う。

って、それよりも兄を落ち着かせないと。

「狼でも仕留めるつもりなの?銃とか怖いからやめてよ。」

「狼・・・そうだ、エル。グレーシィがこの土地へ戻ってきたそうだ。彼奴に会ったら逃げるか隠れるかしろ。分かったか?」

「ええ、何で?」

「何でもだ。」

もう会って話をしちゃったんだけどな。機嫌悪いみたいだしグレイのことは言わない方が無難だろう。

兄は家の中を捜索し始め、異変がないことを確認してから散弾銃を降ろした。少し張り上げた声を出しただけなのに、心配し過ぎだ。

そうだ、兄が邪魔をして忘れていたけど、おばあさんは狼になっていないか確認しないと。

「どうしたのぉ?赤ずきんちゃんの手はいつも綺麗だねぇ。」

顔を触ってみたり反応を確かめたりするが、特に不自然な所は無く、本物のおばあさんだったみたいで安心する。





────おばあさんは6年前の誕生日プレゼントに赤い頭巾を作ってくれた母の友人であり、自分とおばあさんの間に血の繋がりはないが、実の祖母のように慕っている。

そういえば、おばあさんは昔、有名な魔法使いで活躍してたって言ってたっけ。

だけど、国にいいように扱われたり、横暴な上司からの嫌がらせを受けたり、そんな毎日に飽き飽きして、随分前から森の中でひっそり暮らすことにしたと教えてくれたっけ。





────この世界には、魔法を使える人とそうでない人がいる。そして、魔法も万能ではなく、大体の人は少し火が出せたり、水が出せたりするくらいしかできない。

稀に大きな魔法を使える人がいるが、本当に極わずかしかいないので、見つかってしまったら国の為に一生働かされることになる・・・昔のおばあさんのように。

「怖い顔は似合わないよぉ、赤ずきんちゃん。」

顔をしかめていると、おばあさんが優しく眉をほぐしてくれた。

穏やかで温かなおばあさんを見ていると、次第に心が和んでくる。お見舞いに来て良かったな。元気が姿が見れて一安心した。

「お母さんからおばあさんの体調が悪いって聞いたけど、もう平気?」

「ふふ、はははっ。体調なんか悪くないよぉ、私は死ぬ前に沢山赤ずきんちゃんに会いたいねぇって手紙をお母さんに書いたのよぉ。」

「えっ。そうだったんだ。」

病気じゃなかったことにホッとする。

お母さんは少し抜けているからおばあさんが病気になって余命宣告でもされたのだと勘違いしたのだろう。何にしても大事ないようで良かった。

「お兄ちゃんは何しにここへ?お仕事どうしたの?」

「あー、いや。その。たまたま森の見回りをしていてな、たまたまエルの大声が聞こえてな。」

「お義姉さんに告げ口しようかな・・・。」

「分かった!仕事に戻る!」

兄が急いで家から出ていく姿を、おばあさんと二人、微笑みながら見送った。

それからおばあさんと二人っきりになったので、最近あったことや幼馴染のグレイについて相談したり・・・楽しい時間を過ごした。





おばあさんは病気じゃなかったし、狼とは会わなかったし。まだ赤ずきんのストーリーは始まってないのかもしれない。
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