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第4章〜不死〜
40話
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ガルムは器用に半分に折った骨の割れ口を咥えると、旨味のある髄液をズズズと啜る。
唇に貼り付いたテラテラと光る獣脂をペロリと舐めとり、皿の上に空になった骨を捨てた。
「その前に、なんで笛でアンデットが出やがるのか・・・その解明結果を教えんぞ」
「それは魔力に惹かれてじゃなかった?」
事の始まりはまさにそれだったと言いたげにサエラが言う。
そう、大地の魔力を吸収した笛はその封入している生命エネルギーの高さから、魂を失った肉体をゾンビとして呼び起こす。
故に二次災害という形でアンデットが出現してしまうのである。
そのことを指摘されたガルムは、考え込むようにもう片方ある骨をゆらゆら揺らした。
「んー、あー、そうなんだけどよ。なんつーの?アンデットが出る数にも段階があってさ」
「やつがれが説明しよう!」
言葉を甘やかすガルムの隣にバッ!と、マントを広げて赤毛の少女が箒に乗ってやってきた。
大きな声と、着用している暗めの服装とは正反対の明るい髪の色がより彼女の注目を集めた。
騎乗していた箒から蹴り飛び、宙を回転しながら軽い放物線をえがくと・・・机の上に着地した。
「行儀悪いっつの」
宿の中を超低空飛行してやってきた魔女メアリーの尻をガルムは容赦なく叩いた。
パチンと大きめの音が鳴るほどで、受けた魔女は体を揺らして涙目になる。
「あひっ!た、叩かないでよぉっ!」
文句を言いつつも素直に机から降りた。
突然の登場に驚いたが、魔女はリメットでアンデットの調査のためゴードンの宿屋に身を置いていた。
単純な戦力と人手の広さが売りのガルムだが、魔女はその手の専門家だ。彼よりうまく説明できる自負から名乗り出たのだろう。
あるいは惚れた男の前で良い格好をしたいのかもしれない。この魔女は見栄っ張りであるからな。
「・・・セクハラっすね」
尻を叩いたガルムにシオンが白い目を向けた。大人が15の乙女の尻を触るのは確かに変態の所業である。
だがそんな視線もなんのその。ガルムはいつものように不敵に口元を釣り上げた。
「はん、俺は良いんだよ。んで、メアリー先生よ?説明頼むぜ」
「う、うむ。任せたまえよ」
ガルムに叩かれた尻をさすりながら、魔女は顔を赤くしてガルムの隣に座った。
満更でもないらしい。
「こほん、それでは説明しよう。笛によるアンデットの呼び寄せの効果だが、実は二パターンあるのだ」
「二種類?」
確かめるようにサエラが言葉を繰り返すと、魔女は深く頷く。
「そうだ。汝らも見ただろう?メイズに現れた少数のアンデット、リメット中を覆い尽くすほどの大量のアンデット」
「でも、どちらも笛のせいなんですよね?」
「その通り。どちらの事例も笛の魔力による引き寄せのせいだ。だが同じ笛なのにこうも出現数が変わるとはおかしく思わないか?」
ふぅむ、確かに。リメットを埋め尽くす数が現れたのは間違いなく笛のせいだが、要はあの笛に入っている魔力量がそれぐらいの死者の群れを呼び寄せることが可能ということだ。
しかしメイズで見たのは十数匹。その時も笛は莫大な量の魔力を宿していたと魔女が言っていた。
疑問の答えを知っている魔女は、得意げに背筋を伸ばす。
「この出現量の違い・・・つまり笛の使用後か未使用かどうかなのだ」
魔女の話はこうだった。何万という途方も無いアンデットが現れるのは、笛の魔力を使用し、一瞬その全てを解き放ってしまう故に起きてしまう事象なのだという。
魔力を笛の中に封入しているだけでなら数匹で済むが、いざ貯蔵してある魔力を解き放つと、釣りをする時に池へ餌をばらまくようになってしまう。魚がわらわらと集まってくるのだ。
「つまり、あの日は笛を使った後だった?」
「その通りだサエラ」
「でもそれがどうしてバンパイアロードをおびき寄せることに繋がるんですか?」
シオンが頭に疑問符を浮かべて尋ねた。魔女は顎を人差し指と親指で挟むと、一呼吸置いてから口を動かした。
「魔法陣や魔道具を使う時、魔力を消費するだろう?しかし魔力を注ぎ終えたらすぐ使ってしまう。二人はそのことについて考えたことはあるか?」
「・・・ないです」
「ない」
魔女の尋ねに姉妹は首を横に振った。魔法とは一度魔力を変換してしまえば何秒後に発動するまで止めておくとか、そういうことは出来ないのである。
魔力は使う時に消費して使う。それが当たり前で、わざわざ疑問を持つこともないだろう。
我もあまり考えなかった。そうか、逆に言えば魔力を貯めることができないのか。
「一度魔力を使い、それを未発動にすると徐々に魔力が空気に溶けてしまうのだ。だから皆、使えば即発動させる」
ほほぅ。それは興味深い。確かに魔法陣や魔道具など、常日頃から魔力を消費して維持しているのではない。ゴーレムも含まれるが、いざ使う時に起動させ、使わないときはスリープモードにさせるのだ。
どうやら未使用の状態でもエネルギーがあると、次第に抜けていってしまうらしい。
「風船みたいだな」
「イメージはそれで正しい」
魔女が肯定の意味で頷いた。
「かのバンパイアロードは笛の魔力をあの陣に注いでいた。しかし、いまや陣は我らの手元にある。そして今もなお、魔力を少しずつ失っているのだ。当然、完全に魔力が失われる前に計画がある吸血鬼はこれを取り戻そうと躍起になるはず」
なるほど。魔法陣を発動させるために、奴はまだ魔力を魔法陣に注がなければならないからな。
唇に貼り付いたテラテラと光る獣脂をペロリと舐めとり、皿の上に空になった骨を捨てた。
「その前に、なんで笛でアンデットが出やがるのか・・・その解明結果を教えんぞ」
「それは魔力に惹かれてじゃなかった?」
事の始まりはまさにそれだったと言いたげにサエラが言う。
そう、大地の魔力を吸収した笛はその封入している生命エネルギーの高さから、魂を失った肉体をゾンビとして呼び起こす。
故に二次災害という形でアンデットが出現してしまうのである。
そのことを指摘されたガルムは、考え込むようにもう片方ある骨をゆらゆら揺らした。
「んー、あー、そうなんだけどよ。なんつーの?アンデットが出る数にも段階があってさ」
「やつがれが説明しよう!」
言葉を甘やかすガルムの隣にバッ!と、マントを広げて赤毛の少女が箒に乗ってやってきた。
大きな声と、着用している暗めの服装とは正反対の明るい髪の色がより彼女の注目を集めた。
騎乗していた箒から蹴り飛び、宙を回転しながら軽い放物線をえがくと・・・机の上に着地した。
「行儀悪いっつの」
宿の中を超低空飛行してやってきた魔女メアリーの尻をガルムは容赦なく叩いた。
パチンと大きめの音が鳴るほどで、受けた魔女は体を揺らして涙目になる。
「あひっ!た、叩かないでよぉっ!」
文句を言いつつも素直に机から降りた。
突然の登場に驚いたが、魔女はリメットでアンデットの調査のためゴードンの宿屋に身を置いていた。
単純な戦力と人手の広さが売りのガルムだが、魔女はその手の専門家だ。彼よりうまく説明できる自負から名乗り出たのだろう。
あるいは惚れた男の前で良い格好をしたいのかもしれない。この魔女は見栄っ張りであるからな。
「・・・セクハラっすね」
尻を叩いたガルムにシオンが白い目を向けた。大人が15の乙女の尻を触るのは確かに変態の所業である。
だがそんな視線もなんのその。ガルムはいつものように不敵に口元を釣り上げた。
「はん、俺は良いんだよ。んで、メアリー先生よ?説明頼むぜ」
「う、うむ。任せたまえよ」
ガルムに叩かれた尻をさすりながら、魔女は顔を赤くしてガルムの隣に座った。
満更でもないらしい。
「こほん、それでは説明しよう。笛によるアンデットの呼び寄せの効果だが、実は二パターンあるのだ」
「二種類?」
確かめるようにサエラが言葉を繰り返すと、魔女は深く頷く。
「そうだ。汝らも見ただろう?メイズに現れた少数のアンデット、リメット中を覆い尽くすほどの大量のアンデット」
「でも、どちらも笛のせいなんですよね?」
「その通り。どちらの事例も笛の魔力による引き寄せのせいだ。だが同じ笛なのにこうも出現数が変わるとはおかしく思わないか?」
ふぅむ、確かに。リメットを埋め尽くす数が現れたのは間違いなく笛のせいだが、要はあの笛に入っている魔力量がそれぐらいの死者の群れを呼び寄せることが可能ということだ。
しかしメイズで見たのは十数匹。その時も笛は莫大な量の魔力を宿していたと魔女が言っていた。
疑問の答えを知っている魔女は、得意げに背筋を伸ばす。
「この出現量の違い・・・つまり笛の使用後か未使用かどうかなのだ」
魔女の話はこうだった。何万という途方も無いアンデットが現れるのは、笛の魔力を使用し、一瞬その全てを解き放ってしまう故に起きてしまう事象なのだという。
魔力を笛の中に封入しているだけでなら数匹で済むが、いざ貯蔵してある魔力を解き放つと、釣りをする時に池へ餌をばらまくようになってしまう。魚がわらわらと集まってくるのだ。
「つまり、あの日は笛を使った後だった?」
「その通りだサエラ」
「でもそれがどうしてバンパイアロードをおびき寄せることに繋がるんですか?」
シオンが頭に疑問符を浮かべて尋ねた。魔女は顎を人差し指と親指で挟むと、一呼吸置いてから口を動かした。
「魔法陣や魔道具を使う時、魔力を消費するだろう?しかし魔力を注ぎ終えたらすぐ使ってしまう。二人はそのことについて考えたことはあるか?」
「・・・ないです」
「ない」
魔女の尋ねに姉妹は首を横に振った。魔法とは一度魔力を変換してしまえば何秒後に発動するまで止めておくとか、そういうことは出来ないのである。
魔力は使う時に消費して使う。それが当たり前で、わざわざ疑問を持つこともないだろう。
我もあまり考えなかった。そうか、逆に言えば魔力を貯めることができないのか。
「一度魔力を使い、それを未発動にすると徐々に魔力が空気に溶けてしまうのだ。だから皆、使えば即発動させる」
ほほぅ。それは興味深い。確かに魔法陣や魔道具など、常日頃から魔力を消費して維持しているのではない。ゴーレムも含まれるが、いざ使う時に起動させ、使わないときはスリープモードにさせるのだ。
どうやら未使用の状態でもエネルギーがあると、次第に抜けていってしまうらしい。
「風船みたいだな」
「イメージはそれで正しい」
魔女が肯定の意味で頷いた。
「かのバンパイアロードは笛の魔力をあの陣に注いでいた。しかし、いまや陣は我らの手元にある。そして今もなお、魔力を少しずつ失っているのだ。当然、完全に魔力が失われる前に計画がある吸血鬼はこれを取り戻そうと躍起になるはず」
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