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第4章〜不死〜
37話
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読んでいくうちに日記の間に大きな間が空いていることがわかった。日付が数ヶ月ほど飛び、雲行きの怪しい文章が次第に増えてきたのである。
最初はしっかりとその日の月と日を綴っていたのだが、それも面倒なのかそこだけ空白というページだらけになる。
~月~日
魂を蘇らせる儀式を知ることができた。ただアンデットとして蘇らせるには自我を残した状態ではないと意味がない。彼女の肉人形がほしいんじゃないんだ。帰ってきてほしいだけだ。
氷で彼女の原型を留めておくには限界がある。時間がない。
~月~日
時間に猶予が生まれた。バンバイアの魔法陣をユーリに施すことで肉体を半吸血鬼の状態にすることができた。これで彼女の体が腐ることはない。成功だ。
ただ彼女を部屋から連れ出すことができなくなってしまった。空っぽの体に有象無象の魂が入り込んではかなわない。その器に入れるのはユーリだけだ。お前らじゃない。
~月~日
ポズマンズとハルエイが寝ぐらにやってきた。貸したものを返せだって?冗談じゃない。あれは僕が対価を支払って手に入れたものだ。今更お前らの手に渡すわけにはいかない。
あいつらはどこで手に入れたのかドラゴンの武器で襲ってきた。そこだけはさすが闇商人だった。吸血鬼を殺せる武器を手にしているとは驚きだ。
だが彼らが強いわけじゃない。ハルエイの心臓をちぎって、あとは放置してやった。後ろからポズマンズの泣き叫ぶ声とハルエイだった肉の塊の咀嚼音が聞こえてきたが関係ない。
蘇生の儀式にあいつらの血を使おうとは思わなかった。
~月~日
ついに手に入れることができた。大地から魔力を吸い取って命の結晶を作る魔道具。人一人蘇らせるにはリメット全域からすべて抜き取らなければならないが、吸血鬼である僕なら何年かけても実行することができる。
もう少しだ。もう少し。
日記はここまでだった。なんというか・・・あれだな、あれである。
「「「ビンゴ」ですね」である」
まさか本当にここがバンパイアロードと関連性のある場所だとは思わなかった。期待していたが、まさかの大収穫である。
読み終えたシオンはパタンと日記を閉じると、口をきゅっとすぼめて我とサエラを交互に見てくる。そんな捨てられた子犬みたいにするのはやめろ。
「こんなあっさり見つかるなんて思いませんでした・・・吸血鬼ですよね?これ吸血鬼ですよね?書いてあるし・・・」
偶然見つけた魔法陣と日記が、本当に手がかりにつながることに驚いているシオンは反応に困っている。
「う、うむ・・・とにかくガルムに報告だ」
ガルムは領主ともコネがあり、様々な人材との知人も多い。専門的な技術を有する者たちが調査すれば大きな手がかりになることは間違い無いだろう。
ここでの発見は大きい。瓦礫と落ちた時は運が無いと思っていたが、今思えば我が落ちなければここを発見できなかったと考えることができる。複雑な気持ちである。
すでに痛みの失せた後頭部をさすると、サエラが悲しそうに瞼を下がらせていた。
「最初は普通の人だったのに・・・」
それは最初の方のページのことを差しているのだろう。
当初は初恋という初めての感情に戸惑いを覚えていた青年らしい文章だった。だが後半になると残酷な描写や、ユーリという女性以外の存在はどうでも良いような邪悪に満ちた思考に変貌していた。
空白の時間の間に、二人に何かが起きたのは間違いない。
「それが吸血鬼化の恐ろしいところだ」
シオンがいるのでそれだけに止める。どんなに他人を思いやれる人物でも、吸血鬼になってしまえばアンデットとなり、他者の生体エネルギーを求める亡者になってしまう。
所詮動く屍。脳が新鮮かどうかの違いでしかない。
「うむむ。マジで笑い事じゃないですねこれ」
当の本人はこんな様子である。ただ冷や汗を流しているところを見ると、ある程度の危機感は覚えてくれたらしい。
さすがに周りに危害を加えることはシオンも嫌なのだろう。
「てっきり精神はそのままで吸血鬼になれると思ってたんですが・・・」
「馬鹿者。そんなうまい話があったら人類皆吸血鬼になるわ」
活動時間は夜だが、寿命や老いを克服して食べ物もネズミ一匹程の血を吸えばいい。なおかつ魔法も使えるようになるのだ。能力だけで見れば竜と精霊の下位互換だが、上位の存在になれるのは間違いない。
問題は、思考が文字通り怪物になってしまうという点だ。
「そりゃそうですよね」
シオンが納得した様子でふむふむと頷く。
「それじゃ戻ろ?ここ臭いしいい加減出たい」
くいくいと我の尻尾を引っ張りながらサエラが言う。そういえばサエラは感覚が鋭くなる能力を持っていたな。多分我と同じように臭いを我慢しているに違いない。
我らは無言で頷き、通路を目指して歩き出す。日記はシオンの持つかばんの中に入れておいた。さぁて脱出である。
と、その時であった。
「・・・っ!」
サエラが無言で振り返ると素早く弓を構え、暗闇の先へ矢を放ったのだ。そして数秒遅れて何かが床に倒れた音が聞こえてくる。
「え?サエラどうしたんです?」
感知系のスキルを持たないシオンが首を傾げた。
我は警告を飛ばす。
「シオン!下がっておれ、何か来るぞ!」
「あ、はーいバリア張ってまーす」
手馴れた手つきで陣を描き、強固なシールドを張ったシオン。ダンジョンで後方待機やヒールを飛ばす役割を担っているのでこうゆう事態に慌てず対処できるのだ。
危機感は薄れているのはどうにかしたいのだが・・・まあいいか。
最初はしっかりとその日の月と日を綴っていたのだが、それも面倒なのかそこだけ空白というページだらけになる。
~月~日
魂を蘇らせる儀式を知ることができた。ただアンデットとして蘇らせるには自我を残した状態ではないと意味がない。彼女の肉人形がほしいんじゃないんだ。帰ってきてほしいだけだ。
氷で彼女の原型を留めておくには限界がある。時間がない。
~月~日
時間に猶予が生まれた。バンバイアの魔法陣をユーリに施すことで肉体を半吸血鬼の状態にすることができた。これで彼女の体が腐ることはない。成功だ。
ただ彼女を部屋から連れ出すことができなくなってしまった。空っぽの体に有象無象の魂が入り込んではかなわない。その器に入れるのはユーリだけだ。お前らじゃない。
~月~日
ポズマンズとハルエイが寝ぐらにやってきた。貸したものを返せだって?冗談じゃない。あれは僕が対価を支払って手に入れたものだ。今更お前らの手に渡すわけにはいかない。
あいつらはどこで手に入れたのかドラゴンの武器で襲ってきた。そこだけはさすが闇商人だった。吸血鬼を殺せる武器を手にしているとは驚きだ。
だが彼らが強いわけじゃない。ハルエイの心臓をちぎって、あとは放置してやった。後ろからポズマンズの泣き叫ぶ声とハルエイだった肉の塊の咀嚼音が聞こえてきたが関係ない。
蘇生の儀式にあいつらの血を使おうとは思わなかった。
~月~日
ついに手に入れることができた。大地から魔力を吸い取って命の結晶を作る魔道具。人一人蘇らせるにはリメット全域からすべて抜き取らなければならないが、吸血鬼である僕なら何年かけても実行することができる。
もう少しだ。もう少し。
日記はここまでだった。なんというか・・・あれだな、あれである。
「「「ビンゴ」ですね」である」
まさか本当にここがバンパイアロードと関連性のある場所だとは思わなかった。期待していたが、まさかの大収穫である。
読み終えたシオンはパタンと日記を閉じると、口をきゅっとすぼめて我とサエラを交互に見てくる。そんな捨てられた子犬みたいにするのはやめろ。
「こんなあっさり見つかるなんて思いませんでした・・・吸血鬼ですよね?これ吸血鬼ですよね?書いてあるし・・・」
偶然見つけた魔法陣と日記が、本当に手がかりにつながることに驚いているシオンは反応に困っている。
「う、うむ・・・とにかくガルムに報告だ」
ガルムは領主ともコネがあり、様々な人材との知人も多い。専門的な技術を有する者たちが調査すれば大きな手がかりになることは間違い無いだろう。
ここでの発見は大きい。瓦礫と落ちた時は運が無いと思っていたが、今思えば我が落ちなければここを発見できなかったと考えることができる。複雑な気持ちである。
すでに痛みの失せた後頭部をさすると、サエラが悲しそうに瞼を下がらせていた。
「最初は普通の人だったのに・・・」
それは最初の方のページのことを差しているのだろう。
当初は初恋という初めての感情に戸惑いを覚えていた青年らしい文章だった。だが後半になると残酷な描写や、ユーリという女性以外の存在はどうでも良いような邪悪に満ちた思考に変貌していた。
空白の時間の間に、二人に何かが起きたのは間違いない。
「それが吸血鬼化の恐ろしいところだ」
シオンがいるのでそれだけに止める。どんなに他人を思いやれる人物でも、吸血鬼になってしまえばアンデットとなり、他者の生体エネルギーを求める亡者になってしまう。
所詮動く屍。脳が新鮮かどうかの違いでしかない。
「うむむ。マジで笑い事じゃないですねこれ」
当の本人はこんな様子である。ただ冷や汗を流しているところを見ると、ある程度の危機感は覚えてくれたらしい。
さすがに周りに危害を加えることはシオンも嫌なのだろう。
「てっきり精神はそのままで吸血鬼になれると思ってたんですが・・・」
「馬鹿者。そんなうまい話があったら人類皆吸血鬼になるわ」
活動時間は夜だが、寿命や老いを克服して食べ物もネズミ一匹程の血を吸えばいい。なおかつ魔法も使えるようになるのだ。能力だけで見れば竜と精霊の下位互換だが、上位の存在になれるのは間違いない。
問題は、思考が文字通り怪物になってしまうという点だ。
「そりゃそうですよね」
シオンが納得した様子でふむふむと頷く。
「それじゃ戻ろ?ここ臭いしいい加減出たい」
くいくいと我の尻尾を引っ張りながらサエラが言う。そういえばサエラは感覚が鋭くなる能力を持っていたな。多分我と同じように臭いを我慢しているに違いない。
我らは無言で頷き、通路を目指して歩き出す。日記はシオンの持つかばんの中に入れておいた。さぁて脱出である。
と、その時であった。
「・・・っ!」
サエラが無言で振り返ると素早く弓を構え、暗闇の先へ矢を放ったのだ。そして数秒遅れて何かが床に倒れた音が聞こえてくる。
「え?サエラどうしたんです?」
感知系のスキルを持たないシオンが首を傾げた。
我は警告を飛ばす。
「シオン!下がっておれ、何か来るぞ!」
「あ、はーいバリア張ってまーす」
手馴れた手つきで陣を描き、強固なシールドを張ったシオン。ダンジョンで後方待機やヒールを飛ばす役割を担っているのでこうゆう事態に慌てず対処できるのだ。
危機感は薄れているのはどうにかしたいのだが・・・まあいいか。
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