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第4章〜不死〜
37話
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「おおー」
明かされた部屋の中を見たシオンが感嘆を含ませた声を上げる。が、彼女の好奇心を掻き立てた様子を見せたのも束の間であった。
部屋の中から漂ってくる冷気と謎の異臭に目を潤ませ、片手で口元を押さえると「うえぇ」と呻いた。死体だらけのリメットを歩いたことで鼻がバカになっていたのだが、この部屋の臭いはそれとはまた違うベクトルの臭さである。
なんというか・・・腐った野菜の臭いだ。畑の肥料の臭さを濃縮させた感じである。我はすました顔でポーカーフェイスをとることに成功した。めっちゃくさい。
「くっさ~~~!」
「我余裕だぞ、超余裕。ふはは」
「無理しなくていい」
どこからか布を取り出したのか、サエラは布切れを取り出すと我とシオンに差し出してくれた。要は鼻に巻けということだろう。
我の寡黙な表情からよく見破ったな。流石である。
ありがたく布をマスクのように巻きつけ、臭いの大部分を遮断することに成功した。いつまでも臭いのある部屋に居たいわけではないが、この部屋も探索しなければいけない理由ができたのだ。
なぜなら部屋の中央には、牛でも生贄に捧げようとしていたのか馬鹿でかいサイズの魔法陣が描かれていたのだから。
異臭で涙目になっていたシオンは布を巻くことで余裕ができたらしく、改めて部屋の中を眺めた後大きな声で床を指差した。
「こ、これは魔法陣!!・・・ですよね?」
不安そうに我を見るな。お主仮にもけんていとやらに合格したのだろうが。
「うむ。まぁ・・・そうだな。今回の件と関連性があるかどうかは見てみないとわからんが」
これで実は「肥料を作る魔法陣でしたー」とかだったらシオンは陣ごと地面を粉砕しかねん。
わざわざ羽ばたいていく距離でもないので歩いて魔法陣の元へと近づく。
ふむふむ・・・魔力は空だな。ただ陣が痕跡どころか丸ごと残っているのを鑑みるに、使用後というより使用前と状態を判断した方が良さそうだ。
魔法陣から魔力を抜き取っておくのは賢いやり方だ。使用目的は大概悪事に働くことだがな。
魔力を抜いておくことで、魔術に対し知識を有する者が魔法陣の効果を鑑定するのを防ぐことができるのだ。むろんゼロにしてしまえば魔法陣ごと消えてしまうので完璧に隠蔽できるわけではない。
「ふむふむ。魔力を変換するのが目的の魔法陣か・・・」
エンシェントドラゴンである我なら、わずかに残った魔力から効果を判別することはたやすい。だがさすがに作ったのは誰か・・・?そこまではわからん。
うーむ、魔力変換・・・か。人目のつかない地域、生き物の好まない暗闇、地下。ますます怪しいな。恐らくあのバンパイアロードのものだと・・・思いたい。
「うーむ。怪しい・・・怪しいのだがなぁ」
魔法陣が思っていたのと効果が違くて、本当にバンパイアロードへの手がかりなのか?素直に頷くことができんのだ。
てっきり笛でおびき寄せたアンデット用の召喚魔法陣かと・・・うむむ。
しかし一軒家の地下にこんな大掛かりな魔法陣を形成しているのだから、何かしらの関連性はあるとは思うのだ。
シオンの吸血鬼化までのタイムリミットは後6日しかない。手ぶらで帰るわけにはいかんのである。
「ウーロさぁーん!」
こんこんと爪の先で床を叩いているとシオンの我を呼ぶ声が聞こえた。
「どうした?何かあったのか」
「見てくださいよ。日記です!」
近づいてきた我にシオンは勝ち誇ったような笑顔で革表紙の本を見せつけてきた。一瞬その屈託のない笑顔にムカつきを覚えたのは忘れたい。
なんだよ魔法陣より有力な手がかりじゃないか。
「見つけたのは私」
シオンの後ろからひょっこり現れたサエラが言う。そうかそうか偉いのぅ。
頭の近くまで羽ばたいて、我はサエラの頭をよしよしと撫でた。
「・・・わたしと扱い違くないですかねー?」
シオンが不満そうに言ってきた。だってお前・・・。
「お主を見ても癒されんし・・・」
「いつもどういう目でわたしを見ているか気になりますねぇ!」
「・・・バカだなぁって」
いっつも変なこと言うもんお主。そういうとシオンの目つきが変わり、すっと両手で構えるとジリジリと近寄ってきた。まずいこの体勢はこちょこちょだ。
逃れるためにサエラの後ろにひらりと隠れる。や、やーい。
「姉さん・・・喧嘩は同レベルでしか起こらないんだよ?」
サエラが言うとシオンは一瞬我をジッと見つめると「こほん」と咳払いをして皺の寄った服を軽く叩いた。
「ふ、生産性のない醜く下等なやり方はわたしは行いません」
おま。というか我もサエラにバカにされた気がするぞ?同レベルってなんだ同レベルって。我はそんな幼稚ではない。
今度は我がじーっとサエラを見つめ、サエラは明後日の方向へ顔を向けることになった。その間にもシオンは鼻歌を歌いながら日記のページをパラパラと開いていた。
「おい、我にも見せよ」
「私も見たい」
揃ってそう言い、シオンを間に挟む形で日記を覗き込んだ。なになに?「こんな気持ちは初めてだ・・・ティムにからかわれたが、やはりこれは恋なのか?あいつの言うことを認めるのは癪にさわるけど、一応話を聞いてみよう。あいつはそういう経験がありそうだし」・・・なんだこれは。
シオンが遠慮なく次々とページをめくっていくが、内容のほとんどが恋した男性が女性に対し思い悩むものが大半であった。
・・・変な意味で見ちゃいけないものを見ているような気がする。。
「はぁ~、この人ピュアですねぇ」
「・・・初恋、いいな」
もし我がこういう内容の日記を見られたら間違いなく発狂する。
ニヤニヤしている二人に呆れた視線を送り、我は再び日記に目を向けた。これで本当に吸血鬼関連のヒントがなければ持ち主に対して土下座をしよう。
二人でも十分姦しい黄色い声を聞きながら、我はそう思うのであった。
ごめん。
明かされた部屋の中を見たシオンが感嘆を含ませた声を上げる。が、彼女の好奇心を掻き立てた様子を見せたのも束の間であった。
部屋の中から漂ってくる冷気と謎の異臭に目を潤ませ、片手で口元を押さえると「うえぇ」と呻いた。死体だらけのリメットを歩いたことで鼻がバカになっていたのだが、この部屋の臭いはそれとはまた違うベクトルの臭さである。
なんというか・・・腐った野菜の臭いだ。畑の肥料の臭さを濃縮させた感じである。我はすました顔でポーカーフェイスをとることに成功した。めっちゃくさい。
「くっさ~~~!」
「我余裕だぞ、超余裕。ふはは」
「無理しなくていい」
どこからか布を取り出したのか、サエラは布切れを取り出すと我とシオンに差し出してくれた。要は鼻に巻けということだろう。
我の寡黙な表情からよく見破ったな。流石である。
ありがたく布をマスクのように巻きつけ、臭いの大部分を遮断することに成功した。いつまでも臭いのある部屋に居たいわけではないが、この部屋も探索しなければいけない理由ができたのだ。
なぜなら部屋の中央には、牛でも生贄に捧げようとしていたのか馬鹿でかいサイズの魔法陣が描かれていたのだから。
異臭で涙目になっていたシオンは布を巻くことで余裕ができたらしく、改めて部屋の中を眺めた後大きな声で床を指差した。
「こ、これは魔法陣!!・・・ですよね?」
不安そうに我を見るな。お主仮にもけんていとやらに合格したのだろうが。
「うむ。まぁ・・・そうだな。今回の件と関連性があるかどうかは見てみないとわからんが」
これで実は「肥料を作る魔法陣でしたー」とかだったらシオンは陣ごと地面を粉砕しかねん。
わざわざ羽ばたいていく距離でもないので歩いて魔法陣の元へと近づく。
ふむふむ・・・魔力は空だな。ただ陣が痕跡どころか丸ごと残っているのを鑑みるに、使用後というより使用前と状態を判断した方が良さそうだ。
魔法陣から魔力を抜き取っておくのは賢いやり方だ。使用目的は大概悪事に働くことだがな。
魔力を抜いておくことで、魔術に対し知識を有する者が魔法陣の効果を鑑定するのを防ぐことができるのだ。むろんゼロにしてしまえば魔法陣ごと消えてしまうので完璧に隠蔽できるわけではない。
「ふむふむ。魔力を変換するのが目的の魔法陣か・・・」
エンシェントドラゴンである我なら、わずかに残った魔力から効果を判別することはたやすい。だがさすがに作ったのは誰か・・・?そこまではわからん。
うーむ、魔力変換・・・か。人目のつかない地域、生き物の好まない暗闇、地下。ますます怪しいな。恐らくあのバンパイアロードのものだと・・・思いたい。
「うーむ。怪しい・・・怪しいのだがなぁ」
魔法陣が思っていたのと効果が違くて、本当にバンパイアロードへの手がかりなのか?素直に頷くことができんのだ。
てっきり笛でおびき寄せたアンデット用の召喚魔法陣かと・・・うむむ。
しかし一軒家の地下にこんな大掛かりな魔法陣を形成しているのだから、何かしらの関連性はあるとは思うのだ。
シオンの吸血鬼化までのタイムリミットは後6日しかない。手ぶらで帰るわけにはいかんのである。
「ウーロさぁーん!」
こんこんと爪の先で床を叩いているとシオンの我を呼ぶ声が聞こえた。
「どうした?何かあったのか」
「見てくださいよ。日記です!」
近づいてきた我にシオンは勝ち誇ったような笑顔で革表紙の本を見せつけてきた。一瞬その屈託のない笑顔にムカつきを覚えたのは忘れたい。
なんだよ魔法陣より有力な手がかりじゃないか。
「見つけたのは私」
シオンの後ろからひょっこり現れたサエラが言う。そうかそうか偉いのぅ。
頭の近くまで羽ばたいて、我はサエラの頭をよしよしと撫でた。
「・・・わたしと扱い違くないですかねー?」
シオンが不満そうに言ってきた。だってお前・・・。
「お主を見ても癒されんし・・・」
「いつもどういう目でわたしを見ているか気になりますねぇ!」
「・・・バカだなぁって」
いっつも変なこと言うもんお主。そういうとシオンの目つきが変わり、すっと両手で構えるとジリジリと近寄ってきた。まずいこの体勢はこちょこちょだ。
逃れるためにサエラの後ろにひらりと隠れる。や、やーい。
「姉さん・・・喧嘩は同レベルでしか起こらないんだよ?」
サエラが言うとシオンは一瞬我をジッと見つめると「こほん」と咳払いをして皺の寄った服を軽く叩いた。
「ふ、生産性のない醜く下等なやり方はわたしは行いません」
おま。というか我もサエラにバカにされた気がするぞ?同レベルってなんだ同レベルって。我はそんな幼稚ではない。
今度は我がじーっとサエラを見つめ、サエラは明後日の方向へ顔を向けることになった。その間にもシオンは鼻歌を歌いながら日記のページをパラパラと開いていた。
「おい、我にも見せよ」
「私も見たい」
揃ってそう言い、シオンを間に挟む形で日記を覗き込んだ。なになに?「こんな気持ちは初めてだ・・・ティムにからかわれたが、やはりこれは恋なのか?あいつの言うことを認めるのは癪にさわるけど、一応話を聞いてみよう。あいつはそういう経験がありそうだし」・・・なんだこれは。
シオンが遠慮なく次々とページをめくっていくが、内容のほとんどが恋した男性が女性に対し思い悩むものが大半であった。
・・・変な意味で見ちゃいけないものを見ているような気がする。。
「はぁ~、この人ピュアですねぇ」
「・・・初恋、いいな」
もし我がこういう内容の日記を見られたら間違いなく発狂する。
ニヤニヤしている二人に呆れた視線を送り、我は再び日記に目を向けた。これで本当に吸血鬼関連のヒントがなければ持ち主に対して土下座をしよう。
二人でも十分姦しい黄色い声を聞きながら、我はそう思うのであった。
ごめん。
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