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第4章〜不死〜

37話

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 我が頭をフリフリと振り鬱陶しい星を追い払っていると、瓦礫よりだいぶ軽いものが落下してくる音が聞こえた。
 そちらに視線を向ければ、無様な我とは違いうまく着地するサエラとしゃがんで足を押さえるシオンの二人が見えた。

「ウーロさん、大丈夫?」

 サエラが我の姿を認めると、駆け足で側まで寄ってきた。我は頷いて返答する。

「うむ。それよりシオンの方が大丈夫か?」

「姉さん何してるの?」

「ちょっと待ってください、足の痺れが・・・」

 地味に5メートルの着地の衝撃が足にきたらしい。プルプルとスライムのように震えているが、数秒立つと何事もなかったように立ち上がる。

「ふぅ、難関でしたね」

 お主にとってはそうなんだろうな。

「で、ここなんです?」

 シオンが辺りをキョロキョロと見渡しながらそう言う。石レンガや柱で囲まれた内装を見れば、それが自然にできたものではなく人が造った空間だと言うのはすぐにわかる。
 サエラは空の壁付けランタンに手を当てた。

「地下室?」

「物置・・・にしては広いですよねー」

「植木鉢たくさんある」

「広い地下室・・・ロマンですよね」

「姉さんトリップしないで」

 好奇心の強い二人はトコトコと移動しながら好き勝手に感想や想像に口にする。
 残念ながら我には人工物である部屋の役割など考察することはできないので二人に任せる事にする。
 そこで出口を探すついでに我も探検することにした。

「ぬぅ?何じゃこりゃ」

 壁の端、四面ある一箇所の床に排水溝のような溝があった。それは指を除いた人の手のひらくらいの大きさの穴に繋がっている。

「むむむ」

 穴とは反対の方へ視線を手繰らせていくと、今度は巨人が使う石階段を三段だけ切り取ったようなオブジェクトに繋がっていた。
 段の上部分はくり抜いたような大穴が空いていて、石の代わりに土が敷き詰められている。
 そしてそれに交差する感じで、先ほどの排水溝っぽい溝が何度も引かれているのだ。

「何だこれは」

 ぱっと見、水を流す目的のように見える。だがそこに水が流れていると言うことはない。

「何見つけたんですかー?」

 ぴょこんと我の真後ろに立ったシオンが翼をモミモミしながら言ってくる。
 ちょうどいい、知恵袋であるシオンに尋ねてみることにしよう。

「シオンよ。これはなんなのだ?溝とかいっぱいあるぞ」

「あー、これは栽培施設ですね」

 迷うそぶりも見せずシオンは名称を口にした。

「栽培施設?こんな暗い場所で植物が育つのか?」

 人間が外で畑を作ったりして食物を得ていることは我も知ってる。リメットでも大きい農園があるしのぅ。
 だが植物は空気と水、栄養と太陽の光が育成には必要だったはずだ。

「ヒカリゴケのポーションを使うんですよ。ほら、ダンジョンも明るいでしょう?」

 そういえばダンジョンにはそういうものもあったな。

「ヒカリゴケの光には魔力があって、それが日光の性質に似通ってると言われてるんです」

 シオンに聞かされた新事実に我は素直に驚いた。ダンジョンを照らすヒカリゴケにそのような効果があるとは思いもよらなかった。
 そういえば、長期間ダンジョンに篭って攻略する冒険者はなぜ体調を崩さないのか不思議に思っていたが・・・ヒカリゴケによる恩恵も大きいのかもしれん。

「もしかして、ギルドで換金していたヒカリゴケは・・・」

「そうですよ。ふつうに明かりにも使いますが、地下栽培での利用価値の方が高いんです」

 ほーん、なるほど。光るエキスなど何に使うと思えばそのような事に・・・。
 我が感心する様子を見せるとシオンはみるみる内に得意げな表情をドヤ顔に変えていく。腰に手を当てて「ふふふん」とでも言いそうだ。

「まぁわたしは検定一級ですからね!」

 よく言うわ実質五級が。そんな視線を送るとシオンは目だけで察し、むむむと睨んできた。
 勘が鋭くなってきたなこやつ。

「姉さん、ウーロさん。こっち来て」

 我とシオンが睨み合っていると、地下室の暗い方から呼び声が聞こえてくる。
 呼び声の発声した方向を頼りに二人で向かう。そこには人一人通るのがやっとというくらいの細い通路があり、先にはランタンらしき灯りが見えた。

「何じゃこりゃ」

「秘密基地みたいですね!」

 我を抱えて通路を通るシオンがワクワクした様子で言う。だがシオンの言う通り、今回は我も秘密基地という感じは理解できた。
 我もある程度人間の家の構造は知っている。だからこのような地下室が一般家庭にあると聞かれれば、頷くことは出来ないのである。
 灯りを目印に近づくと、そこではサエラがランタンを持ってまっていた。

 さらにその先に目を向けると、鉄でできた扉があった。

「こんなの見つけた」

 サエラがランタンを使って扉を照らす。小首を傾げながら「開けてみる?」と言ってくると、好奇心の塊であるシオンは動い速さでうんうんと頷きだした。
 我も気になる故、止めることなくシオンに賛同する。何か出てきたら我がブレスで焼くしな。

 我らの意思確認を確認すると、サエラはゆっくりとだが鉄の扉を開ける。
 しかし不思議なことに、扉は擦れる音を出すものの十数年前は放置されているわりにアッサリと開いた。


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