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第4章〜不死〜
36話
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「四番地区の清掃はまだ終わったか?」
「いえ、五番地区と六番地区で強盗があり、焼却が遅れていると」
「おーい!だれか浄化魔法持ちーっ!ギルドで大量依頼発行してるぞー!!」
「お、おぇぇ」
「うわ!ゴミを増やすんじゃねぇ新人!」
リメットの街並みは相変わらず喧騒に包まれていたが、それは平和の象徴ではなく混乱を意味する騒がしさであった。
衛兵や冒険者、騎士や公的機関の職員たちが慌ただしく街を循環する。
ゾンビの死骸のほとんどは昨日の内に焼き払われていたが、たかが夕方から夜までの数時間で全てを片付けられるはずもない。
死骸は一塊20体ほどにまとめられ、街の至る所で小山を作り上げていた。
街角に死体の山が生み出されている光景はなんともグロテスクである。
そのせいか外出する子供の姿は見えない。代わりに汚れを求めたハエが飛び回っているが。
「くそ、全然減らねぇなぁ」
「ま、モノホンの死体よりマシさ」
横を通り過ぎた衛兵隊は白いローブを纏い、なにやらコソコソと話しているのが聞こえた。清掃用の装備を着用していることから、ゾンビの後始末を命令された隊らしい。
そんな彼らを見たシオンは横をふわふわと飛ぶ我に向かって話しかけてきた。無論小声で。
「皆、ウーロさんみたいな服着てますね」
「我みたいなではなく、我が皆の真似をしておるのだ」
身体を包む布を引っ張りつつ、シオンへと返答する。
そんな我を見ればペットが服を着ている光景を思い浮かべるであろう。ぶかぶかなコートを身につけ、妙な違和感を感じながら衣服を引っ張る。
実は宿を出るときゴードンが徹夜で作ったらしい防護服をくれたのだ。その完成度は衛兵が身につけてる白ローブを見事に小竜サイズに縮小させたような出来栄えであった。
服を着るという概念は我には無いものだったが、いざ身につけてみると布が鱗を擦って変な感じがする。これは慣れるまで時間がかかりそうである。
「いいじゃないですか。似合ってますし」
シオンがニコニコご機嫌で言うので脱ぐのは躊躇われる。そんなシオンと真逆の様子を見せるのは、ビクビクしながら周囲を警戒するサエラであった。
ちょくちょく死体の山を見ては怯えるという女子らしい一面を見せてくれる。いや、男でもこれは地獄絵図であるが。
「もう。サエラはビビリすぎですよ」
「・・・むしろ嫌悪感を出さない姉さんがおかしい」
「そんなことないですよ。ね?ウーロさん?」
「・・・」
ぶっちゃけサエラの言う通りなので黙って視線から逃れる。
「な、なんですかみんなしてっ」
「だって死体であるぞ?それが山になっているなど、竜の我でも恐ろしい光景だ。お主はよく平気でいられるな?」
「だって本物の人間の死体じゃないですし・・・」
もう少し、シオンには繊細さが欲しい。
だがシオンの言うこともあながち間違いではないのだ。
これらゾンビはダンジョンのモンスターのように自然発生したものなので、人間の死体とは言えない。
言ってみれば、魔力から生成された肉塊といっても変わりはないのである。
だがその姿は人型でボロい服を着ているのはどう見ても人間の死体にしか見えないだろう。
伝染病や寄生虫などの問題もあろうが、それよりも精神に悪影響を及ぼす危険性の方が強い。子供を外に出さなくて正解といえる。
もちろん子供だけではなく、住人たちの多くも家か避難所に引きこもってるらしい。死体だらけの汚染された地域では飲食店どころか他の店すら開店することはない。
商店街の立ち並ぶ店々も扉と窓を固く閉ざしていた。
ゴードンから渡されたマスクを手で押さえ、サエラは戦場よりも悲惨な光景を見渡す。
怯えながらもなんとかして見れるのは、それが本物の人間の死体じゃないからだろう。
心ではわかっているのだ。だからといって恐怖を覚えないとは言えぬが。
「・・・サエラ、大丈夫ですか?やっぱり無理しないほうが」
アンデットが大の苦手であるサエラを気遣い、シオンがマスクでこもった声をかける。
しかしサエラは首を左右にふって、覚悟を決めるように口を噤んだ。
「大丈夫、もう動いてないし」
「でも死体のふりして動くかもしれませんよ」
「・・・どうしてそういうことを言う?」
少々弱気で眉を下げたサエラがシオンとの距離を縮め、服を指で掴むと責める視線を向けた。
明後日の方向を見て乾いた声で笑うシオンに我は「余計なことを」と小声で呟いた。
逃げ場のないシオンは話をそらすつもりか棒読みを空に向かって吐き出す。
「いやぁ、サエラももう慣れたかなぁと」
だからさっきからビビリまくっていたろうが。
「そんなわけない」
「あら、ならわたしの錯覚だったようですねあはは」
「ぶっ殺?」
サエラの人差し指と中指がゆらりと幽鬼のように持ち上がる。その突起させた二本の指は人体の視覚を有する器官にダメージを与えるのに適していた。
ダブルフィンガーの目潰しである。
その仕草にシオンの顔は色を失って青ざめる。
「じょじょじょ冗談ですよー!やだなぁもうー」
こいつじょを3回も言ったぞ。露骨すぎだろ。
「姉さんはもう少し気を引き締めて。だいたい姉さん自体の問題なんだから」
「あははー、めんぼくない」
気の抜けた返事にサエラはため息を隠さない。我らが向かっているのは冒険者ギルドだ。
といってもダンジョンや依頼目的ではなく情報収集であるが。
情報とはもちろん、例のバンパイアロードについてだ。金髪に赤い目、ボロボロの黒いローブ。
極めて特徴的な外見だ。目撃情報があるかもしれない。
「だって実感がないんですもん」
シオンが何気なしに呟く。我とサエラは今日シオンは休むよう言ったのだが、本人が体力的にも精神的にも案外ダメージがないとの事で結局付いて着てしまったのだ。
「アレですよ。みんな騒いでると当事者が一番冷静になるアレですよ」
「サエラよ。一度、わからせてやれ。我らがどれだけ心配したかをな」
「了解」
「え、ちょ」
情報収集が終わって宿に帰ったらシオンの耳にタコができるくらい説教してやろうと、ネチネチ怒るタイプのサエラの手から逃げ惑うシオンを見てそう思った。
「いえ、五番地区と六番地区で強盗があり、焼却が遅れていると」
「おーい!だれか浄化魔法持ちーっ!ギルドで大量依頼発行してるぞー!!」
「お、おぇぇ」
「うわ!ゴミを増やすんじゃねぇ新人!」
リメットの街並みは相変わらず喧騒に包まれていたが、それは平和の象徴ではなく混乱を意味する騒がしさであった。
衛兵や冒険者、騎士や公的機関の職員たちが慌ただしく街を循環する。
ゾンビの死骸のほとんどは昨日の内に焼き払われていたが、たかが夕方から夜までの数時間で全てを片付けられるはずもない。
死骸は一塊20体ほどにまとめられ、街の至る所で小山を作り上げていた。
街角に死体の山が生み出されている光景はなんともグロテスクである。
そのせいか外出する子供の姿は見えない。代わりに汚れを求めたハエが飛び回っているが。
「くそ、全然減らねぇなぁ」
「ま、モノホンの死体よりマシさ」
横を通り過ぎた衛兵隊は白いローブを纏い、なにやらコソコソと話しているのが聞こえた。清掃用の装備を着用していることから、ゾンビの後始末を命令された隊らしい。
そんな彼らを見たシオンは横をふわふわと飛ぶ我に向かって話しかけてきた。無論小声で。
「皆、ウーロさんみたいな服着てますね」
「我みたいなではなく、我が皆の真似をしておるのだ」
身体を包む布を引っ張りつつ、シオンへと返答する。
そんな我を見ればペットが服を着ている光景を思い浮かべるであろう。ぶかぶかなコートを身につけ、妙な違和感を感じながら衣服を引っ張る。
実は宿を出るときゴードンが徹夜で作ったらしい防護服をくれたのだ。その完成度は衛兵が身につけてる白ローブを見事に小竜サイズに縮小させたような出来栄えであった。
服を着るという概念は我には無いものだったが、いざ身につけてみると布が鱗を擦って変な感じがする。これは慣れるまで時間がかかりそうである。
「いいじゃないですか。似合ってますし」
シオンがニコニコご機嫌で言うので脱ぐのは躊躇われる。そんなシオンと真逆の様子を見せるのは、ビクビクしながら周囲を警戒するサエラであった。
ちょくちょく死体の山を見ては怯えるという女子らしい一面を見せてくれる。いや、男でもこれは地獄絵図であるが。
「もう。サエラはビビリすぎですよ」
「・・・むしろ嫌悪感を出さない姉さんがおかしい」
「そんなことないですよ。ね?ウーロさん?」
「・・・」
ぶっちゃけサエラの言う通りなので黙って視線から逃れる。
「な、なんですかみんなしてっ」
「だって死体であるぞ?それが山になっているなど、竜の我でも恐ろしい光景だ。お主はよく平気でいられるな?」
「だって本物の人間の死体じゃないですし・・・」
もう少し、シオンには繊細さが欲しい。
だがシオンの言うこともあながち間違いではないのだ。
これらゾンビはダンジョンのモンスターのように自然発生したものなので、人間の死体とは言えない。
言ってみれば、魔力から生成された肉塊といっても変わりはないのである。
だがその姿は人型でボロい服を着ているのはどう見ても人間の死体にしか見えないだろう。
伝染病や寄生虫などの問題もあろうが、それよりも精神に悪影響を及ぼす危険性の方が強い。子供を外に出さなくて正解といえる。
もちろん子供だけではなく、住人たちの多くも家か避難所に引きこもってるらしい。死体だらけの汚染された地域では飲食店どころか他の店すら開店することはない。
商店街の立ち並ぶ店々も扉と窓を固く閉ざしていた。
ゴードンから渡されたマスクを手で押さえ、サエラは戦場よりも悲惨な光景を見渡す。
怯えながらもなんとかして見れるのは、それが本物の人間の死体じゃないからだろう。
心ではわかっているのだ。だからといって恐怖を覚えないとは言えぬが。
「・・・サエラ、大丈夫ですか?やっぱり無理しないほうが」
アンデットが大の苦手であるサエラを気遣い、シオンがマスクでこもった声をかける。
しかしサエラは首を左右にふって、覚悟を決めるように口を噤んだ。
「大丈夫、もう動いてないし」
「でも死体のふりして動くかもしれませんよ」
「・・・どうしてそういうことを言う?」
少々弱気で眉を下げたサエラがシオンとの距離を縮め、服を指で掴むと責める視線を向けた。
明後日の方向を見て乾いた声で笑うシオンに我は「余計なことを」と小声で呟いた。
逃げ場のないシオンは話をそらすつもりか棒読みを空に向かって吐き出す。
「いやぁ、サエラももう慣れたかなぁと」
だからさっきからビビリまくっていたろうが。
「そんなわけない」
「あら、ならわたしの錯覚だったようですねあはは」
「ぶっ殺?」
サエラの人差し指と中指がゆらりと幽鬼のように持ち上がる。その突起させた二本の指は人体の視覚を有する器官にダメージを与えるのに適していた。
ダブルフィンガーの目潰しである。
その仕草にシオンの顔は色を失って青ざめる。
「じょじょじょ冗談ですよー!やだなぁもうー」
こいつじょを3回も言ったぞ。露骨すぎだろ。
「姉さんはもう少し気を引き締めて。だいたい姉さん自体の問題なんだから」
「あははー、めんぼくない」
気の抜けた返事にサエラはため息を隠さない。我らが向かっているのは冒険者ギルドだ。
といってもダンジョンや依頼目的ではなく情報収集であるが。
情報とはもちろん、例のバンパイアロードについてだ。金髪に赤い目、ボロボロの黒いローブ。
極めて特徴的な外見だ。目撃情報があるかもしれない。
「だって実感がないんですもん」
シオンが何気なしに呟く。我とサエラは今日シオンは休むよう言ったのだが、本人が体力的にも精神的にも案外ダメージがないとの事で結局付いて着てしまったのだ。
「アレですよ。みんな騒いでると当事者が一番冷静になるアレですよ」
「サエラよ。一度、わからせてやれ。我らがどれだけ心配したかをな」
「了解」
「え、ちょ」
情報収集が終わって宿に帰ったらシオンの耳にタコができるくらい説教してやろうと、ネチネチ怒るタイプのサエラの手から逃げ惑うシオンを見てそう思った。
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