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第3章~魔物の口~
35話「あらたな手がかり2」
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「それにしてもウーロさんの親しい人がいるとは驚き」
シオンより少し固く細くも繊細さの感じる腕を持つサエラがそう呟いた。近くで猛獣のように唸っていたシオンも反応する。
「うむ。すっかり忘れていたがな」
「ちょっと薄情すぎませんかねー?」
苦笑いしながらシオンがツッコむ。
「そう言われてもな、アルファ・・・ベタとガマを送り出した後は2000年以上の勇者との殺し合いが続いたのだ。案外覚えていられるほどではないぞ」
それでも覚えてはいたかったがなと口の中で言葉を転がし、我はふぅと軽く息を吐いた。もうすでに我が最初に産まれた時の記憶などなくなっている。それどころかいつエルフたちが我の縄張りに村を作ったのかさえ記憶が曖昧なのだ。
シオンは我の話を聴くと「あぁ~」と間延びしたけれども納得した様子で頷いた。
「そういえば、ウーロさんっておじいちゃんでしたね」
「の、割には子供っぽい気はする」
「ぐぬっ!?」
サエラが失礼な事を呟いた。が、それは我でも否定できなかった。身体が変わると性格もその肉体に引っ張られるという話はどこかで聞いたことがあるが、その影響もあるのでは?と自分なりに考えが浮かんでいたりする。
無論環境も関係するだろう。一人の凡人が貴族と孤児で産まれればまったく性質の異なった人間が育つ。
人の価値観、主観、考え方など所詮生きた時間と経験に左右されるしかない。
サエラのいう子供っぽいというのは、もしかしたら我は甘えられる相手が欲しかったのかもしれない。オギャー的なものではなく、友人として接せられる関係を。
まぁそれを言うのはなんか変態っぽいので、体が幼いから性格も引っ張られるとだけ伝える。
「でもすごいですね。転生の儀式でしたっけ?ウーロさんのためにそんなことまでやってのけるなんて」
「出会ったのもこの時代でよかった・・・のかな?」
話は戻り、ベタとガマの話。我だって最初はびっくりした。
二人の言葉に我はふむと顎に手を構える。いまでは魔族と人間は共存しているし、種族間の亀裂も大きく問題にならないくらいには時も経ち過ぎている。
竜も希少性は高いものの一般的に知られる。腕で抱えてても珍しいくらいにか思われない。そう考えればあの子らと今日出会えたのは幸運だったのかもしれん。
「今では3人とも幼児ですからねー」
「人生?竜生?の、やり直しって思えば」
「・・・そうだな」
新しい生と思えば、自然と心も軽くなるものだ。せっかく竜王の名を捨て、あの子らも勇者という称号はなくなった。
出会い頭に殺しあう必要はないし、人と一緒にいても不自然とは思われない。
「まだ人間の法を覚えるのは難しいが、この時代でよかったな。お主らとも会えたし」
「あら?それは照れますねー」
えへへとはにかんで笑うシオン。サエラは何も言わないが、我を抱きしめる腕の強さが少し上がった感じがする。ぎゅっと。
その温かみを感じ、フッと考えがよぎる。今は我は一人ではない。
数千年前、アルファの時は我がどうにかするには世界そのものをどうにかするしか方法がなかった。
だが今は違う。弱体化したものの、協力者も仲間もいる。言ってみればとれる選択肢の幅がだいぶ増えたのだ。それに一人で考え込まなくともいい。
我が思いつく以外の、最善の手段を取ることも可能だろう。
孤独じゃないのが、こんなにも心強いとは思わなんだ。ありがたいと思うし、足掻きたくなるし、温かみを忘れないように生きたい欲求もある。
我はそこで、初めて人が生きる理由がわかった気がした。
そのことがたまらなく嬉しく、言葉にしようとした瞬間、我は気配を察し口を閉ざした。
「む、誰かいる」
感覚の鋭いサエラが小動物に匹敵する反応速度でピクンと体を止める。一瞬の驚きは、まさかメイズに人がいるとは思わなかったからだろう。
サエラの指摘に、同じことを考えていたシオンも驚いた。
「え!マジですか。ウーロさん」
「うむ、あいわかった。ペットタイムだな」
「「それはいつものことなんで」」
「むーむむぅ?」
我が首をかしげる間にも謎の人物との距離も近くなる。次第に気配は強まっていき、そこで我はその人物が一人で、なおかつ立ち止まっていることが本能で察することができた。
おそらく敏感な感知性能をもつサエラもそのことは感じ取れているだろう。
テクテクと道を歩いていくと、そこには一人の男性が花束を持ち、廃墟の目の前でしゃがんでいる姿を見ることができた。
赤と白の基調の鎧に、背中にはガルムのような持ち手の長い武器。つまるところ槍を背負っている。
しゃがんでいるし、夜で暗いので顔は見えない。だがその鎧は見覚えがあった。
確か軍団と呼ばれる傭兵団だったか?今朝方リメットに来ていた。
なぜ一人でこんなところに?我は首を傾げた。
ランタンの灯りが自分以外にもあると気付いたのか、男はピクリと肩を揺らすとゆっくりと顔をこちらに向けて来た。
年は中年くらいだらう。無精ヒゲが顎に生えているが顔のシワや堀のお陰である程度様になっている。
軽薄そうな印象がするが、少なくとも悪人面ではない。まぁ顔で人の内面が分かるわけがないのだが。
シオンより少し固く細くも繊細さの感じる腕を持つサエラがそう呟いた。近くで猛獣のように唸っていたシオンも反応する。
「うむ。すっかり忘れていたがな」
「ちょっと薄情すぎませんかねー?」
苦笑いしながらシオンがツッコむ。
「そう言われてもな、アルファ・・・ベタとガマを送り出した後は2000年以上の勇者との殺し合いが続いたのだ。案外覚えていられるほどではないぞ」
それでも覚えてはいたかったがなと口の中で言葉を転がし、我はふぅと軽く息を吐いた。もうすでに我が最初に産まれた時の記憶などなくなっている。それどころかいつエルフたちが我の縄張りに村を作ったのかさえ記憶が曖昧なのだ。
シオンは我の話を聴くと「あぁ~」と間延びしたけれども納得した様子で頷いた。
「そういえば、ウーロさんっておじいちゃんでしたね」
「の、割には子供っぽい気はする」
「ぐぬっ!?」
サエラが失礼な事を呟いた。が、それは我でも否定できなかった。身体が変わると性格もその肉体に引っ張られるという話はどこかで聞いたことがあるが、その影響もあるのでは?と自分なりに考えが浮かんでいたりする。
無論環境も関係するだろう。一人の凡人が貴族と孤児で産まれればまったく性質の異なった人間が育つ。
人の価値観、主観、考え方など所詮生きた時間と経験に左右されるしかない。
サエラのいう子供っぽいというのは、もしかしたら我は甘えられる相手が欲しかったのかもしれない。オギャー的なものではなく、友人として接せられる関係を。
まぁそれを言うのはなんか変態っぽいので、体が幼いから性格も引っ張られるとだけ伝える。
「でもすごいですね。転生の儀式でしたっけ?ウーロさんのためにそんなことまでやってのけるなんて」
「出会ったのもこの時代でよかった・・・のかな?」
話は戻り、ベタとガマの話。我だって最初はびっくりした。
二人の言葉に我はふむと顎に手を構える。いまでは魔族と人間は共存しているし、種族間の亀裂も大きく問題にならないくらいには時も経ち過ぎている。
竜も希少性は高いものの一般的に知られる。腕で抱えてても珍しいくらいにか思われない。そう考えればあの子らと今日出会えたのは幸運だったのかもしれん。
「今では3人とも幼児ですからねー」
「人生?竜生?の、やり直しって思えば」
「・・・そうだな」
新しい生と思えば、自然と心も軽くなるものだ。せっかく竜王の名を捨て、あの子らも勇者という称号はなくなった。
出会い頭に殺しあう必要はないし、人と一緒にいても不自然とは思われない。
「まだ人間の法を覚えるのは難しいが、この時代でよかったな。お主らとも会えたし」
「あら?それは照れますねー」
えへへとはにかんで笑うシオン。サエラは何も言わないが、我を抱きしめる腕の強さが少し上がった感じがする。ぎゅっと。
その温かみを感じ、フッと考えがよぎる。今は我は一人ではない。
数千年前、アルファの時は我がどうにかするには世界そのものをどうにかするしか方法がなかった。
だが今は違う。弱体化したものの、協力者も仲間もいる。言ってみればとれる選択肢の幅がだいぶ増えたのだ。それに一人で考え込まなくともいい。
我が思いつく以外の、最善の手段を取ることも可能だろう。
孤独じゃないのが、こんなにも心強いとは思わなんだ。ありがたいと思うし、足掻きたくなるし、温かみを忘れないように生きたい欲求もある。
我はそこで、初めて人が生きる理由がわかった気がした。
そのことがたまらなく嬉しく、言葉にしようとした瞬間、我は気配を察し口を閉ざした。
「む、誰かいる」
感覚の鋭いサエラが小動物に匹敵する反応速度でピクンと体を止める。一瞬の驚きは、まさかメイズに人がいるとは思わなかったからだろう。
サエラの指摘に、同じことを考えていたシオンも驚いた。
「え!マジですか。ウーロさん」
「うむ、あいわかった。ペットタイムだな」
「「それはいつものことなんで」」
「むーむむぅ?」
我が首をかしげる間にも謎の人物との距離も近くなる。次第に気配は強まっていき、そこで我はその人物が一人で、なおかつ立ち止まっていることが本能で察することができた。
おそらく敏感な感知性能をもつサエラもそのことは感じ取れているだろう。
テクテクと道を歩いていくと、そこには一人の男性が花束を持ち、廃墟の目の前でしゃがんでいる姿を見ることができた。
赤と白の基調の鎧に、背中にはガルムのような持ち手の長い武器。つまるところ槍を背負っている。
しゃがんでいるし、夜で暗いので顔は見えない。だがその鎧は見覚えがあった。
確か軍団と呼ばれる傭兵団だったか?今朝方リメットに来ていた。
なぜ一人でこんなところに?我は首を傾げた。
ランタンの灯りが自分以外にもあると気付いたのか、男はピクリと肩を揺らすとゆっくりと顔をこちらに向けて来た。
年は中年くらいだらう。無精ヒゲが顎に生えているが顔のシワや堀のお陰である程度様になっている。
軽薄そうな印象がするが、少なくとも悪人面ではない。まぁ顔で人の内面が分かるわけがないのだが。
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