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第3章~魔物の口~
30話「吸血鬼2」
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黒いコウモリのような翼を羽ばたかせ、男は拳を小竜に向けて突きだした。しかし小さな体を生かして男の周りをぐるぐると回るウロボロスには、どれだけ早く放たれた攻撃もかすりはしない。
竜という強力な生物であるウロボロスは今、本能で戦っている。真っ赤に充血した目からは理性は感じられず、唾液を垂らす凶悪な口は男を食いちぎろうと開かれる。
無論、エネルギーの消費はとんでもないことになる。あと数十分もすれば使い果たし、墜落して動けなくなるだろう。
普段のウロボロスなら、体力を温存して地上で戦っていただろう。あとのことも考えればそれが妥当だ。
だが怒りに身を委ねたウロボロスは自分の最も戦いやすいステージ・・・すなわち空中戦で黒い男を仕留めようとしている。自分が生き残るより、目の前の敵を殺すことを優先しているのだ。
「ガアァァ!」
背後から近寄ったウロボロスが爪で切りかかると、男は瞬時に振り向きそれを足で蹴り返す。ウロボロスは反動で飛ばされ、そこを男が拳で貫く。
ウロボロスは迫る拳を見て少量のブレスを吐き、自らの体を飛ばして回避する。ブレスで男の腕は焼けたが、黒い霧に包まれると焼け跡は消える。
ウロボロスはそのままブレスを吐き続け、きりもみ回転しながら移動する。翼で制御しつつ、炎をドリルのようにまとわせて男の脇腹に直撃した。
炎の槍はそのまま男の胴体を貫く。腹に大穴を開け、高温の炎が肉を焼く。再生能力を持つ生物には有効な手段だ。傷を焼いて治癒を遅らせる。
ウロボロスは少し距離をとると動きを停止した。そして男の様子を観察する。
案の定、またもや黒い霧によって傷は再生されてしまった。男の再生能力に肉を焼く意味がないとわかるとウロボロスは炎を吐くのをやめ、空に魔力で作った壁を蹴ってその勢いを殺さず突撃した。
そこに男は赤い粘液で膜を作り、それを目の前に盾のように配置。男ではなく、それに当たったウロボロスはゴムで弾かれたように「ボヨン」と飛ばされてしまう。
それによりバランスが崩れ、羽ばたかせる翼をたどたどしく動かしてなんとか体勢を立て直そうとするが、その背後に黒い霧が迫っていた。
「!?」
慌てて振り向いたウロボロスは爪で霧を霧散しようと振る・・・が、なぜか腕の感触をウロボロスは感じることができなかった。
代わりに帰ってきたのは焼きつくように蝕む鋭く激しい痛み。そして視界の端に映るは肉体から離れ、くるくると回転する自らの腕。
一瞬の隙を突かれて切断されたのだ。ウロボロスは野獣らしい悲鳴を上げて墜落した。
ウロボロスの飛行は体に負荷がかかる。まだ幼い小竜の肉体故、翼だけではなく腕や足。全身に魔力を纏わさなければ宙を飛ぶことはかなわないのだ。
そして腕を失った喪失感と激痛。ウロボロスは重力に従い地面位激突し、砂煙を巻き散らした。
「ゴガァアアアアアアア!」
地面でもがきながら、咆哮をあげるウロボロスが失った腕の部分に魔力を集中させる。綺麗な切り口から次第に肉と骨が盛り上がると、腕はみるみるうちに再生していく。
絶命しなければ、ウロボロスは体のどこを欠損しても再生できるのだ。しかしそれも膨大な魔力を対価として支払わなければならない。
一度に大量の魔力を使用したことで、ウロボロスは貧血にも似た目眩と意識の混濁に襲われた。そこを追撃しようと、上空から黒い男がウロボロスを始末するために落ちてくる。
魔力の制御なしの、自由落下による攻撃だ。まともに喰らえばウロボロスといえど全身が弾け飛ぶかもしれない。そうなれば再生で生き残るかは五分五分だろう。
しかし、ウロボロスに男の攻撃が当たる瞬間。突如真横か放たれた鋼鉄の拳が男の顔にめり込むと、男は地面をゴロゴロと転がりながら吹っ飛ばされた。
「客に手ェ出すんじゃあないよ小童っ!!」
鋼鉄のゴリラが戦いに乱入してきた。
鋼鉄の鎧を身にまとったゴードンが、獣のように叫びながら地を蹴り男の元へ飛んで行く。移動しながらゴードンは鋼鉄を粘土のように操り、とあるものを手に持った。
プライパンである。
「こぉんの馬鹿たれがあああああああああ!!」
壁にぶつかって止まった男の頭部に、ゴードンがプライパンの裏で殴りつけた。「カァーン」と軽い音とは反対に、叩かれた男は顔面から地面に叩きつけられて地面にめり込んだ。
石でできた地面にである。当然フライパンは持ち手から大きく曲がってしまっていた。
男はピクリとも動かず、霧が出てくる様子もない。ゴードンはそれを見てほっと息を吐くと、「ウーロちゃん!!」と振り返り小さな小さな竜の子供の元へ向かう。
ウロボロスは再生した腕を押さえ、倒れこんだまま「グルルルルゥ」と唸っていた。血走った目がぎょろぎょろと動き、獲物の姿を探している。
動かないのは、腕の再生に魔力を使ってしまったせいだろう。生命を維持する以外の戦闘用のエネルギーが枯渇してしまったのだ。
今のウロボロスは、ベヒモスウォールで復活したばかりのウロボロスと大差ない。ゴードンには、弱り切った子供の竜にしか見えないが。
「ウーロちゃん、もう大丈夫よ。さ、シオンちゃんのところに戻りましょう?」
シオン。と名を聞くと、ウロボロスは目を大きく開く。そして全身から力が抜けると、先ほどまでの凶暴さが嘘のようにおとなしくなった。
その様子を見たゴードンは一息安心するように吐くと、軽いウロボロスを抱え、急いで宿の中へ戻っていった。時折後ろを見て黒い男の様子を確認するのを忘れずに。
竜という強力な生物であるウロボロスは今、本能で戦っている。真っ赤に充血した目からは理性は感じられず、唾液を垂らす凶悪な口は男を食いちぎろうと開かれる。
無論、エネルギーの消費はとんでもないことになる。あと数十分もすれば使い果たし、墜落して動けなくなるだろう。
普段のウロボロスなら、体力を温存して地上で戦っていただろう。あとのことも考えればそれが妥当だ。
だが怒りに身を委ねたウロボロスは自分の最も戦いやすいステージ・・・すなわち空中戦で黒い男を仕留めようとしている。自分が生き残るより、目の前の敵を殺すことを優先しているのだ。
「ガアァァ!」
背後から近寄ったウロボロスが爪で切りかかると、男は瞬時に振り向きそれを足で蹴り返す。ウロボロスは反動で飛ばされ、そこを男が拳で貫く。
ウロボロスは迫る拳を見て少量のブレスを吐き、自らの体を飛ばして回避する。ブレスで男の腕は焼けたが、黒い霧に包まれると焼け跡は消える。
ウロボロスはそのままブレスを吐き続け、きりもみ回転しながら移動する。翼で制御しつつ、炎をドリルのようにまとわせて男の脇腹に直撃した。
炎の槍はそのまま男の胴体を貫く。腹に大穴を開け、高温の炎が肉を焼く。再生能力を持つ生物には有効な手段だ。傷を焼いて治癒を遅らせる。
ウロボロスは少し距離をとると動きを停止した。そして男の様子を観察する。
案の定、またもや黒い霧によって傷は再生されてしまった。男の再生能力に肉を焼く意味がないとわかるとウロボロスは炎を吐くのをやめ、空に魔力で作った壁を蹴ってその勢いを殺さず突撃した。
そこに男は赤い粘液で膜を作り、それを目の前に盾のように配置。男ではなく、それに当たったウロボロスはゴムで弾かれたように「ボヨン」と飛ばされてしまう。
それによりバランスが崩れ、羽ばたかせる翼をたどたどしく動かしてなんとか体勢を立て直そうとするが、その背後に黒い霧が迫っていた。
「!?」
慌てて振り向いたウロボロスは爪で霧を霧散しようと振る・・・が、なぜか腕の感触をウロボロスは感じることができなかった。
代わりに帰ってきたのは焼きつくように蝕む鋭く激しい痛み。そして視界の端に映るは肉体から離れ、くるくると回転する自らの腕。
一瞬の隙を突かれて切断されたのだ。ウロボロスは野獣らしい悲鳴を上げて墜落した。
ウロボロスの飛行は体に負荷がかかる。まだ幼い小竜の肉体故、翼だけではなく腕や足。全身に魔力を纏わさなければ宙を飛ぶことはかなわないのだ。
そして腕を失った喪失感と激痛。ウロボロスは重力に従い地面位激突し、砂煙を巻き散らした。
「ゴガァアアアアアアア!」
地面でもがきながら、咆哮をあげるウロボロスが失った腕の部分に魔力を集中させる。綺麗な切り口から次第に肉と骨が盛り上がると、腕はみるみるうちに再生していく。
絶命しなければ、ウロボロスは体のどこを欠損しても再生できるのだ。しかしそれも膨大な魔力を対価として支払わなければならない。
一度に大量の魔力を使用したことで、ウロボロスは貧血にも似た目眩と意識の混濁に襲われた。そこを追撃しようと、上空から黒い男がウロボロスを始末するために落ちてくる。
魔力の制御なしの、自由落下による攻撃だ。まともに喰らえばウロボロスといえど全身が弾け飛ぶかもしれない。そうなれば再生で生き残るかは五分五分だろう。
しかし、ウロボロスに男の攻撃が当たる瞬間。突如真横か放たれた鋼鉄の拳が男の顔にめり込むと、男は地面をゴロゴロと転がりながら吹っ飛ばされた。
「客に手ェ出すんじゃあないよ小童っ!!」
鋼鉄のゴリラが戦いに乱入してきた。
鋼鉄の鎧を身にまとったゴードンが、獣のように叫びながら地を蹴り男の元へ飛んで行く。移動しながらゴードンは鋼鉄を粘土のように操り、とあるものを手に持った。
プライパンである。
「こぉんの馬鹿たれがあああああああああ!!」
壁にぶつかって止まった男の頭部に、ゴードンがプライパンの裏で殴りつけた。「カァーン」と軽い音とは反対に、叩かれた男は顔面から地面に叩きつけられて地面にめり込んだ。
石でできた地面にである。当然フライパンは持ち手から大きく曲がってしまっていた。
男はピクリとも動かず、霧が出てくる様子もない。ゴードンはそれを見てほっと息を吐くと、「ウーロちゃん!!」と振り返り小さな小さな竜の子供の元へ向かう。
ウロボロスは再生した腕を押さえ、倒れこんだまま「グルルルルゥ」と唸っていた。血走った目がぎょろぎょろと動き、獲物の姿を探している。
動かないのは、腕の再生に魔力を使ってしまったせいだろう。生命を維持する以外の戦闘用のエネルギーが枯渇してしまったのだ。
今のウロボロスは、ベヒモスウォールで復活したばかりのウロボロスと大差ない。ゴードンには、弱り切った子供の竜にしか見えないが。
「ウーロちゃん、もう大丈夫よ。さ、シオンちゃんのところに戻りましょう?」
シオン。と名を聞くと、ウロボロスは目を大きく開く。そして全身から力が抜けると、先ほどまでの凶暴さが嘘のようにおとなしくなった。
その様子を見たゴードンは一息安心するように吐くと、軽いウロボロスを抱え、急いで宿の中へ戻っていった。時折後ろを見て黒い男の様子を確認するのを忘れずに。
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