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第3章~魔物の口~

28話「ウロボロス、恐怖する」

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「シオン。誰がウーロの手入れをしている?」

「・・・ウーロちゃんが自分でやってるんですよ」

「賢い。」

「然り。」

「「・・・」」

 我をペタペタ触りまくるレッド・キャップを面白くなさそうに見るシオンとサエラ。とは言ったものの我にはどうすることもできず、チラチラと申し訳ない気持ちをアイコンタクトで伝えるしかできない。
 なぜこんな事態になったのか?事の発端は馬に乗ってリメットへと帰還するときから始まっていた。





「「我らが護衛しよう。」」

 レッド・キャップがそう申し出たのだ。それ自体はありがたかった。リメットは広大な都市ゆえに、まだゾンビの残党が残っている可能性は否定できない。
 とは言ってもシオンとサエラは戦えないし、我は今エネルギー不足で火炎放射が使えないのだ。
 業火を吐いたせいである。崩壊した体を急速に再生した結果、膨大な魔力を回復に使ってしまったのである。
 なので代わりに戦ってくれる者がいるならこれほど心強い事はない。しかもSランカー。

 断る理由もなく、どっちにしろリメットへ戻らなければならなかったのでそれを我らは承諾した。(帰りの際はレッド・キャップが馬の歩幅と同じ速度で追ってきた)

  リメットの城門に戻るとそこは酷い有様だった。木で作られた扉は粉々に粉砕されており、フレッシュマンによって被害を受けた犠牲者たちが座り込んでる。
 不幸中の幸いにもフレッシュマンは我らを追ったため、重症なけが人はそう多くないようだ。だが失った命もある。

 何十人かの遺体が壁際に並べられており、その上に聖布(対アンデットの魔道具)がかけられていた。門が破壊されたときの瓦礫や破片に当たってしまったのだろう。
 小さな子供が一つの遺体に縋り泣いている様子を見たシオンは何も言わず、ぎゅっと我を抱きしめた。

 人間にとって命は一つで、失えば戻らない。いや人間に限ったことでもない。すべての生物が命を抱えながら生きている。
 我にはわからない生き方だ。

 不便だと思う。いつ失うかわからない曖昧なものに頼っているのだ。
 そんなことを我が考えていることを知る由もなく、レッド・キャップのガマは遺体を一目見ると視線を隠すように帽子を深くかぶった。

「リメットの中心部。そこで大きな魔力反応があった。」

「途端にアンデットが地面をすり抜けて現れた。」

 レッド・キャップの言葉を信じるのなら、文字通りアンデットが出現したのだろう。幽霊のように突然と。
 精霊や使い魔を瞬間的に現場に呼び出す魔法で、召喚魔法というものがある。が、笛が関係しているところを考えればアンデットを召喚師が召喚したという可能性はないだろう。

「・・・ひどい」

 サエラはそういうが、大規模にアンデットが出現した際の被害としては軽度な方だろう。
 腐乱死体は火の魔法で浄化して、魔法使いと兵士たちが瓦礫を撤去している。二次災害は防げたと言っていい。
 被害者たちは回復魔法の使い手によって傷を癒され、命の危険はもはやない。

 このリメットを収める領主はかなりの手腕のようだな。この広い都市を早々に鎮圧させ、被害者への救済も迅速におこなっている。
 普通なら放置だ。

 我らが何をするまでもなく、公的な組織が彼らを救うだろう。我らは門を遠慮なく通り抜けた。
 その後は慌ただしくリメットの街を動きまわる衛兵や冒険者を横目に、我らは命の気配が感じられない地域メイズに向かう。

 案外、メイズも人は少ないものの騒がしくはあった。
 鎧を着込んだ衛兵たちに向かって背を向けてみれば、そこには見慣れた黒髪の兄妹が何やら大きな声で喋っているのが見える。

「そこ!微弱だけど魔力の残滓が残ってるわよ!ヒソギを乾燥させた葉っぱを塗して!熱で消毒させるの」

「は、はい!」

「アンタ何やってんの!?ちゃんと魔封水の水を使って!寄生虫の危険性もバカにできないんだから!」

「ひゃい!」

 なんだこれは。兵士たちがビクビクしながら指示に従ってる。

「あ、あのーマーシーさーん」

 鬼気迫る表情をするマーシーにシオンが勇気を振り絞って話しかけると「あぁん!?」と振り返った鬼のような(実際鬼なのだが)雰囲気を一瞬で柔らかな笑顔に変え、こちらに走り寄ってきた。

「シオンにサエラ!無事だったのね!ゴードンさんに連絡入れても、今朝からいないこと以外は分からず終いだし・・・!」

 本当に心配していたようで、サエラの両手をガシッと握り、次はシオンの頭をよしよしと撫で、我の顔をムニッと触る。

 わっつ?

「色々あったけど、なんとか無事」

「あー、まぁ今回のことはサエラにとってはキツかったでしょうね」

 暗い顔をするサエラを慰めるように肩をポンっと叩くマーシー。いつのまにか呼び捨てにするほど仲良くなっていたらしい。

 時間的には我がスプリガンと訓練していた間だろう。この姉妹は何だかんだ言っても子供だし、頼れるお姉さん的なマーシーの側は居心地良かったのかもしれん。

「・・・無事か。しぶてぇやつらだな」

 マーシーの後ろから、熊のようなでかい体格をした鬼人族がのしのしとやって来る。グロンだ。
 無愛想な不機嫌顔であるが、その目の奥に安堵の色が見えた。素直ではない性格なのである。

 しかしそんなことを知らぬマーシーは、グロンの足の脛を思いっきり蹴りつけた。い、いたそー。

「ぐおっ!?」

 予想通りグロンは低い悲鳴をあげて膝を抱え、倒れる。どんまい。

「こんのクソ兄貴!フォローのふの字くらい覚えなさいよ!!」

 悶絶するグロンを気の毒に思うが、マーシーの言ってることは事実なので今後のためにも耐えてほしい。がんば。

「それで、マーシーさんは何を?」

 シオンがマーシーの背後にいる沢山の数の衛兵を見え首を傾げる。確かに、魔道具屋の命令をリメットの衛兵が従っているのは気になることだ。
 我も不思議に思い、シオンと同じくマーシーを見上げた。するとほっぺをかきつつ、恥ずかしそうにアハハと笑った。

「あー、自分で言うのも何だけれど・・・あたしって他とは変わった魔道具屋でしょう?」

 鬼人族だし。と言ってマーシーが笑う。

「実を言うと今までも領主様から特殊な魔道具の設計も依頼されることがあって、今回のアンデット出現の原因究明を依頼されちゃった一人なのよね」

 マーシーが困ったように腕を組んで、深いため息を吐いた。この手の仕事は苦手だと言わんばかりに。
 ・・・その割にはノリノリで衛兵に指示を下していたように見えたがな?
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