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第3章~魔物の口~

16話「ガルム③」

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 ゴードンの鉄拳制裁事件から翌日。ゴードンから得たガルムの情報を元に、最終的には依頼を受ける事に決めた。
 我らは、約束の場所へと足を運ぶ。
 約束通り、場所は早朝の冒険者ギルド。相も変わらず人は少ない。
 だからこそ都合が良いと言えるのだがな。広いギルド内でも少し見渡せばどこに誰がいるのかはすぐにわかる。
 キョロキョロと目的の人物を探していると、まだ最新の依頼書が貼られていないクエストボードに一人の青年が壁にもたれ掛かっていた。あの長い薙刀は見覚えがある。
 おそらくガルムだ。フードで外見を隠してはいるが、匂いが同じなのですぐにわかった。サエラも追跡者チェイサーとしての能力故か、ガルムであると確信できているようだった。

「ガルムさん?」

「多分」

「ガゥ」

  唯一確かめるすべを持たないシオンが聞いてきたのを、我らは肯定する。
 どうやらフードを被っているお陰で、周囲の冒険者には気づかれていないらしい。ガルムの周りに誰もいない内に、接触するとしよう。
 ガルムの方へ歩みを進めると、あちらから気づいたのか片手でフードを持ち上げ、チラッと我らの姿を黙認する。胡散臭そうな笑みを浮かべて手を振ってきた。

「お、エルフちゃん二人とドラゴンたんか。約束通り来てくれて嬉しいよ。いやホントにありがとうございます」

 たんってなんだ。たんって。
 ガルムはまるで神でも拝むように我らを「ありがたやーありがたやー」と崇め始めた。
 えぇい、鬱陶しい。昨日仕事終わりに聞いたゴードンの「ふざけないと死ぬ」という情報は間違ってないようだ。

「いやー、女の子と待ち合わせなんて、なんかドキドキするよね。死にそう」

「・・・はぁ」

 サエラは無表情な顔を一ミリも動かさず、おかしなモノでも見るかのような冷たい視線を送った。

「ちょ、なにその蔑んだ視線。いいぞもっと・・・じゃなくて、冗談抜きで来てくれてありがたい」

「・・・こちらからこの時間にお願いしたんだし、来るのは当然」

「いやいや!その当然のことを守ってくれない奴が多いんだよ!!この前だってドタキャンされたし・・・ひどくない?」

 サエラのセリフに、ガルムは大袈裟に手を横に振ってそう言う。
 冒険者は荒くれ者が多いイメージがある。まぁ色々と苦労したのだろうな、この男も。

「まあそんな話は置いといて、だ。話し合った結果を教えてくれ」

 そう言うガルムであるが、なんとなく切実そうな様子も感じ取れた。意外と人が集まってないのか、子竜の我に興味があるのか、はたまたシオンかサエラの方に気があるのか。
 普通に考えて、まぁ人が集まらなかったのだと思う。この様子だと。しかしそこはSランカー。声をかけて断られたというのとは違うと思う。
 おそらく探し出すあの謎の笛は、相当ワケありの物品なのだろう。先ほどの言い方だと、集合時間の約束を反故するような、いい加減な者には任せられないだけなのかもな。
 まぁ全てが想像なので何とも言えんが。

「えぇと、まぁ受けようと思います」

「おぉ!マジかいやぁ助かる助かる!断られたらどうしようかと思ってた!」

 ガルムがシオンの手を握ってブンブンと振う。嬉しくてたまらないといった感じだ。その仕草はとてもSランカー冒険者とは思えない。
サエラはいきなり姉の手を掴まれた事にムッとした表情を浮かべると、二人の元に近づき「ペシン!」と容赦なくガルムの手をはたいた。

「うおっと、すまんすまん。嬉しくてつい」

 流石に異性の手を握ったのは悪いと思ったのか、ガルムがバツの悪そうな様子で叩かれた手を摩る。

「すいませんウチの妹がシスコンで」

「姉さん・・・男の人の手を触ったら妊娠しちゃうよ?」

「えっ・・・うそ」

 サエラの嘘に、戦慄するように硬直したシオン。いや、ないから。騙されるなよお主。

「・・・えっ」

 ガルムが驚愕のあまり目を限界まで見開いた。おい、貴様もか。

「嘘だけど」

 ぼーっとした顔の中に、僅かに呆れの入った表情でサエラが言う。
 すると二人はあからさまにホッとした様子を見せて、幾分かの余裕を取り戻していた。

「もぉーひどいですよサエラ!一瞬手と手でどうやって受精するのか本気で悩んじゃったじゃないですかー!!」

 お主がまず気にするところはそこなのな。シオンらいと言ったら、らしいズレなのだが。

「・・・うん、まずは受付で依頼を受託してくれ。そっから詳しく話すからよ」

 平静を保とうとガルムが言うが、隠れて冷や汗をかいているのがわかる。
 コイツ・・・ただのウブ野郎かもしれん。
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