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第2章~竜と少女たち~

6話「救出①」

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 森の中をひたすら走る。最初は踏み慣れたレッテルの森林周辺だったが、今では全く知らない樹海の坂道を走っている。
 私はあの後無事に牢屋から脱出し、叔父さんの言う通り装備を手に入れ姉さんの救出に向かっていた。
 村から出るのは簡単だった・・・とは言えない。それは足首にできた深い傷跡が証明してしまう。

 装備を手に入れた時、巡回兵が私を見つけ矢を放って来たのだ。
 若いエルフじゃない。それなりに訓練された矢の威力、つまりそっち・・・側のエルフだと言うことだ。
 私は急いで矢を引き抜き、物陰に隠れた後に叔父さんから貰った魔法のことを思い出す。
 透明化の魔法・・・ダメ元で試してみたけど上手くいってよかった。
 効果時間は10秒ほど。まともに狩りもしない老エルフから逃げ切るのに十分すぎる時間だ。私はそれ以降バレずに村を出ることができた。

 おそらく今、レッテルの村は大騒ぎになっているんだろう。私を見つけ出そうとするハズ。
 でも周辺の森を飛び出た後に追いつかれる様子は全くない。みんな恐いんだ。竜王の巣に近づく事が。

 まぁ私の知った事じゃない。そんなことを思いながら、私は「竜王の巣」に向かっていた。

 しかしここは誰もこない、レッテルの管理外。そうなれば当然魔物や動物の凶悪さが増す。

「ゴォオウウッ!!」

「ちっ!こんな時にっ」

 山道を走る私の真横から、巨大な影が飛び出して来た。
 衝突だけは避けたい。私は走るスピードを止めずに腰を落とし、スライディングするように巨大な影の真下を通った。

「ゴニャァ!?」

 その影は避けられたことに驚いたのか、はたまた獲物が消えたことに驚いたのか、どちらにせよ私を見失ったらしい。
 スライディングして影を追い越した後、私は透明化の魔法をもう一度使い姿を隠したのだ。
 まぁ隠したと言っても、透明化になっただけでこのまま全力疾走を止めるつもりはないけど。
 混乱してその場に硬直する影を離すのはとても簡単だった。

 今出て来たのはベヒモスウォールの有名な魔物「ケイブ・スミロドン」だ。サーベルのような犬歯とナイフのようなゴツい爪を持つ虎。
 普通の虎よりはるかに筋肉質で、ネコ科の面影がほとんどない。私は虎よりヒョウのスマートな感じの方が好きだ。お呼びじゃない。

 それでもいい出会いだったと、私は口元に小さく笑みを浮かべる。
 なぜかと言うと、ケイブ・スミロドンは縄張り意識が強く、周辺にいる他の肉食モンスターは当然、草食動物ですら狩り尽くす凶暴な魔物として有名だ。
 肉ならなんでも食べ、住処の洞窟に溜め込む。

 ということは・・・だ。ケイブ・スミロドンがいるということはここ周辺は他の動物は全くいないということ。
 一度あの大虎を回避すれば、しばらくは邪魔が入ることはないだろう。
 これで時間をだいぶ短縮できる。

「待ってて、姉さん!」

 そして・・・竜王ウロボロス、どうか姉さんには・・・

 私は地面を蹴り続けながらも、それを祈らずにはいられなかった。





「わーはっはっは!!アガリであーる!!」

「あー!!なんでわかったんですかぁー!?」

「・・・」

 私の前では、これまで見たことも聞いたこともないような奇想天外な出来事が、現在進行形でおこなわれている。
 ごめんなさい。自分でも何言っているのかよくわからない。
 だって私も、目の前で起きている事に追いつけないから。

「シオン!お主の弱点はのぉ・・・ババを触った時、満面の笑顔になることだー!」

「そ、そんなぁぁぁぁぁぁ!?」

 頭痛くなって来た。

 謎のじ・・・じん、人物?はビシィ!と姉さんに指差して言うと、姉さんはトランプのカードをばら撒いて倒れ込んだ。茶番劇でも見せられている気分。
 というかウロボロスはどこ?あの生贄はなんで呑気にババ抜きやっているの?しかもトランプなんていつ持って来たの?まさか常時携帯しているの姉さん?
 もうわけがわからない。誰かを殴り倒して問い詰めたい。

「でも・・・よかった」

 無事で。姉さんが無事で本当に良かった。
 意味のわからない現象はまだ続いているけど、そうなれるほどは余裕があるらしい。
  岩の陰に隠れていた私はホッとすると、突然体から力が抜け、地面に倒れ込んでしまう。

「・・・あっ」

 なんか、今・・・。
 緊張が切れた。今までの疲れが一気に押し寄せて来たようなそんな感じ。
 それに、凄く眠い。瞼が重い。
 足掻こうとは思わなかった。だって、姉さんの無事は確認できたし・・・それに、少し休みたい。

 私はいつの間にか、眠りについていた。



☆☆☆☆☆



「む?」

 気のせいか?我の後ろから何か倒れような音が聞こえて来たのだが・・・何者かが我が巣の中に入り込んだのだろうか?

「あれ?何か聞こましたよね?」

 小娘・・・いや、シオンと名乗っていたか。シオンにも音は聞こえていたらしい。ふむ、気のせいではないのか。
 この娘、なかなか天然な成分が大半を占めているようだが、冷静な情報分析能力や現象を正しく理解する力に長けている。

 そんなシオンが聞こえたのなら、勘違いではないだろう。
 普段なら石でも落ちたと思うが、今は今までとは状況が異なる。警戒しておくに越したことはあるまい。

「ふむ、確認してみるか?」

「そうですね、もしかしたら村から新しい誰かが送られて来たかも?ここはウロボロス様の縄張りですし、野生動物の可能性は低いと思いますし」

「むぅ、可能性としてはあるの。見てみるか」

 我が先頭で、シオンが後ろから付いて来る。シオンは援護系の魔法が使えるとの事で、もしものことがあったら我のサポートをしてもらおうと思っている。
 ちなみに我は、両手の爪で腹を隠しながら歩いている。
 ・・・実はシオンに言われたのだが、腹の鱗は刃物が通るくらい柔らかいらしいので、もし相手が敵対的だった時のことも考慮してそう歩くか、ワニのように四つん這いで歩くよう言われたのだ。

 う、うむ・・・我でも気づかなかったのに、こやつただの脳筋ではないな。
 しかも我のことを散々可愛い可愛いと言ってた癖に、しっかりと我を戦力として加えているのもすばらしい。
 チームの得意分野を把握し、より良い陣形を考えることもできるのだろう。
 まったく、ゴリラ系女子は侮れん。

「さて、この岩の陰か」

「気をつけてくださいね。何かあったらすぐに言ってください。ウロボロス様も今は子竜ですから」

「う、うむ」

 はて?天然がどこかに蒸発したぞ?
 そんな冗談を思いつつ、我は岩陰をそっと覗いてみる。と、そこには人が倒れていたのだ。
 麻袋をそのまま服にしたような粗末な服に、弓やナイフ、小太刀など様々な武器をこれでもかというくらい背負っていたのだ。
 服装は奴隷のくせに、戦争にでも行くつもりなのだろうか?

 歩く武器庫か?恐ろしい。

 ふむ、顔は中性的だから一瞬少年と思ったのだが、一応この麻服は女性用なので少女なのだろう紛らわしい。
 うーむしかし、誰かに似ている気がするのぅ。誰だったか・・・?

「ウロボロス様、どうしました?」

 シオンが心配そうに問いかけて来たので、我は振り返ってありのまま答えた。

「少女が倒れておる。武器をたくさん持っておるがおそらく訳ありだろう。武装を解除して運んでやろう。怪我もしてるし手当をせねば」

「あ、わかりました。じゃぁ今そちらに・・・って、サエラ!?」

 倒れている人物の元にシオンが向かうと、相当驚いたのかビクンと体を一瞬揺らした。
 どうやら知り合いのようだな。耳がとんがっとるし、エルフなのだろう。

「知っているのか?シオン」

「知ってるも何も、私の妹ですよ!!」

 そう言われてやっと気付いた。そうだそうだ、こやつシオンと目元が似ていたのだそうだそうだ。
 シオンは目も大きいしほんわかした印象のある娘だが、意外と目元がスッとしていたりするのだ。
 そうかそうか、姉妹かこの2人。

「ならば急いで運ぶのだ。我は布を持って来る」

 布と言ってもシオンが貢物に隠れていた時の樽の中にあった、粗末な布だがゴツゴツした地面に寝かせるよりはマシだろう。
 シオンもそれを知ってか、お願いしますと我に頭を下げると、ひょいっと武装したままの・・・・・・サエラを持ち上げたのだ。

 ・・・もう何も言うまい。
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