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第2章~竜と少女たち~
4話「サエラ、怒りの救出劇②」
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「ウロボロスは・・・邪悪な魔物でもなく、戦前の魔王の配下どころか竜王ですらなかったんだ」
「・・・どういう事?」
叔父さんが言ったのは、ウロボロスの正体。伝説や伝承で誇張された姿形ではなく、ありのままのウロボロスを教えてくれた。
「じゃあつまり、ウロボロスは単に再生能力を持つエンシェントドラゴンって事?」
叔父さんは頷く。そしてなぜか、罪悪感にかられる罪人のような顔をすると、レッテル村の成り立ちを含め全てを話してくれた。
その話の中にあったのは、過去レッテルの人々が一匹のドラゴンにしてきた許しがたい残虐行為・・・ウロボロスもまた、多くの人々に利用されてきた被害者であるという事だった。
「ウロボロスは、このベヒモスウォール一帯を支配する一匹のドラゴンだった・・・何千年も昔、かつてこの地に移り住んだレッテルの民は、ただの開拓民だったんだ。常に凶暴な魔物に怯え、畑を作ってもすぐに野生の獣に荒らされ、外傷や空腹で少なくない死者も出たらしい・・・そんな儂らの先祖を救ったのが・・・」
ウロボロス?と私が口に出す前に、叔父さんは頷き肯定した。
「と言っても、ウロボロス自身はご先祖さんたちを守護しているつもりはなかったんだろうがな・・・だが、たまたまドラゴンの縄張りに入った儂らの先祖に危害を加えるわけでもなく、見逃してくれていたのは事実だ。竜の縄張りに入ってくる魔物や動物は他にいない。ウロボロスの縄張りのおかげで開拓民たちはレッテルを完成させることができたんだよ」
まるで本に出てくるお話のようだというのが、私の思った感想だった。
一匹の守護竜が小さな村や一国を守るというものは、よく物語の題材にされている。レッテル村の図書館にこの手の本が多いのはかつての名残なのかもしれない。
だけど、この話は物語じゃない。ドラゴンが人の都合のいいように動くはずがないのだから。
この一匹のドラゴン・・・ウロボロスは、ご先祖様を守護する気など叔父さんの言う通りなかっただろう。
ウロボロスが人々に干渉することがなかったのは、単に興味がなかっただけかもしれない。けど、自分の縄張りの中で小さな生き物が住処を作ることを許容するくらいは慈悲深かったらしい。
「ご先祖さんはウロボロスを崇め始めた。この時にウロボロスと対話することを目的とした巫女姫という役職も確立したらしい。そこから、ドラゴンは竜王ウロボロスと呼ばれるようになったんだ・・・ご先祖さんは村を守ってくれる竜に対し、貢物をした。生贄じゃなく、この村にある柑橘類の木を植えただけだがな・・・」
「柑橘類って・・・あのすごく酸っぱい、調味料で使うようなあれ?」
あれを貢物として差し出すなんてすごく失礼じゃ・・・そう思えるほどにあの果物は酸っぱいのだ。旨味はなく、ただ酸っぱいだけ。
姉さんですらそれを齧ることをためらうほどだ。もしレモンかあの果物を丸かじりするなら、私は前者を即座に選ぶ。
私がなんとも微妙な浮かべていると、叔父さんは苦笑いをしながら「当時はそれでも貴重な食料だったらしいぞ?」と言った。
だからってそんなものを住処の周りに・・・しかも大量に植え付けられるなんてことになったら・・・私だったらなぎ倒す。間違いなく。
あの酸味に美味しさを見出すのは、ドラゴンでも至難の業だと思う。
「村のお偉いさんしか読めない古文書には『竜王様は貢物を一つ咥え、瞳を閉じると、その種を地に埋め、新たな木を生み出そうとした』と書かれてたが・・・ありゃどう見たって酸っぱくて吐き捨てただけだろと思ったな」
「ふふっ確かに」
叔父さんのひねくれた回答に私は当時のその光景を想像し、思わず吹き出してしまった。
伝説と呼ばれる巨大なドラゴンが、人の掌にも満たない小さな果物の酸味に負けた姿は、案外可愛らしいのではないかと思えてしまう。
叔父さんの言いたい事はわかった。
ウロボロスは存在するが、決して邪竜や竜王などといった伝説的な存在ではなくただの一匹のエンシェントドラゴンだということだ。
まぁこっちの話の方が理解しやすいと感じたからだけど。
だけど、どうやらウロボロスの話はここからが本番だったらしい。
「だが、この関係を裏切ったのは他でもない、レッテルの民だった」
叔父さんは一段階声のトーンを落とし、その先の歴史を語った。
「ドラゴンから取れる爪や鱗、果てまでは臓物までもが道具や薬に加工される。余すところがないんだ。エンシェントドラゴンとなればその価値は格段と跳ね上がる。」
それこそ城を建てても有り余るくらいのな。と、叔父さんは悲しげに呟く。
「 レッテルの村ができて数百年。ドラゴンの莫大な金銭的価値を知った一人の村人がある国にこう言ったんだ。『エンシェントドラゴンの情報を売ります』とな。」
そこからウロボロスと人々の関係は一変してしまったのだという。人に警戒心を持たないドラゴンは実に狩りやすかっただろう、ただ静かに暮らしていた竜の命を人々は容赦なく奪い去った。
さらにタチが悪いことに、竜は死しても蘇るほどの超再生を持つ特殊なスキルを持っていたのだ。殺しても百年単位で蘇るドラゴンは、人にとっては長い時間でもエルフにとっては十分すぎるほどだった。
その能力のおかげでウロボロスは、神聖的でも伝説的でもなくただの資源に成り下がってしまったのだという。
竜の巫女姫も、最終的にはその予言の力を竜王復活の情報を手に入れるだけにしか使わなくなっていった。
こうしてレッテルはウロボロスの素材を特産品として扱う村として、数千年間とても長く繁栄した・・・800年前までは。
予想していた以上の酷い話に、私はなんと言うべきなのかと言葉が詰まる思いをした。
そして同時に、なぜ叔母やその周りの老エルフがあれほど必死にウロボロスに拘っていた理由もわかった。
あいつらは、またレッテルをかつてのように繁栄させたいのだろう。たとえ何を犠牲にしてでも、ウロボロスを殺して素材を手に入れるつもりだ。
そのために何度・・・人とウロボロスを殺すつもりなのだろうか。
そしてこれを知った私は、一体どうすべきなのだろうか?姉さんを助けるのは絶対だ。ウロボロスが敵対的な存在ではないとしても、危険が全くないというわけではない。
ならウロボロスをどうするべきなのか・・・もちろん、私一人でどうにかできるという小さな問題ではないのはよく分かる。
だからといって放っておくことが正解なのだろうか?レッテルの民である私が何かするのは、ウロボロスをむしろ苛立たせるだけでは・・・?
まるで大きな壁にぶつかった気分だ。飛び越えることも、下を潜り抜けることすらできない。
自分じゃどうしようもないと思ったその時、叔父さんが私にだけ聞こえる小さな声で「よし、できたぞ」と声を漏らした。
考え事をしていて気づかなかったが、いつの間にか私の両手の縄が解かれ、さらに手の甲に小さな魔法陣が描かれていたのだ。
やったのは多分叔父さんだろうけど、全然わからなかった。
叔父さんだってまともに動ける状態じゃないのに、どうやって?
「・・・叔父さん、これは?」
擦っても消えない。インクとかじゃない魔法かスキルで写し出された陣かもしれない。
叔父さんは「ふぅ」と一息ついた。
「これは継承魔法というものだ。今からサエラ、お前に必要な力を与える」
「・・・継承魔法なんて、聞いた事ないけど。というかいつの間に」
「話をしてる間だ」
何でもないように叔父さんは言うが、そもそも他者に魔法をかけることはすごく難しいことなんだけど?
それに話をしてる間にって、要は無詠唱で魔法を使ったってことでしょ?
「叔父さん、一体・・・」
何者なの?そう問いかける前に、私の中に膨大な量の情報が流れた。他人の技術、経験、知識。それらがまるで自分のものになったような感覚だ。
一瞬の出来事だったが、その一瞬のインパクトは大きなものだった。
「げほっ・・・ん、これって・・・」
「今お前に渡したのは透明化の魔法、それと影操作のスキルだ。使い方を教える時間はないが、お前ならすぐに使えこなせるはずだ」
この人は・・・本当に何者なのだろう?バナナの皮でよく滑るいつもの叔父さんじゃない。
雰囲気は、まるで歴戦の戦士のようにも感じられた。それにウロボロスの情報をたくさん持ってたり、無詠唱で魔法を使いだしたり・・・
冷静になった私に、そんな疑問だけが駆け巡っていた。
しかし、それも叔父さんの次の言葉で終わる。
「早く行け。どうやら巡回してた見張りが戻ってきたようだ」
「!?」
敵が来る。私は肉体強化のスキルを使い地面を蹴り飛ばした後、さらに壁を縦に蹴ってその飛距離を伸ばす。
強化した身体能力なら容易に通気口まで届く。
だけど鉄格子を曲げることはできない・・・空中で自由落下する前になんとか・・・
「サエラ、鉄格子の影を歪めろ!」
叔父さんの声が聞こえ、私は言われた通りにそれをイメージする。
影はどういうものか、物が光を遮ってできるものだと思う。それを歪める・・・としたらどうすればいい?影の形を変える手っ取り早い方法・・・
・・・影になってるもの自体を歪める・・・ことかな?
これ以上考えても仕方ない、時間がないのだ。そのイメージでいこう。
幸い、鉄格子はヒカリゴケに照らされている。光に僅でも照らされていれば、当然影は生まれる。その影を私が通れるほどのスペースになるよう念じた時、それは起こった。
ぐにゃぁと影が歪み、それと同じように鉄格子も曲がったのだ。
驚きはあったけど、それは後回しだ。そうなることを望んでたし、イメージもできていたから割と冷静になっていたのもある。
私は人1人通れるようになった通気口に入り込んだ。
「サエラ。シオンが生きているかはウロボロス次第だ。怒り狂っているなら、シオンは既に・・・」
牢屋から聞こえる叔父さんの言葉に、私は唇を噛んだ。姉さんが送られたのは朝。そして私が気絶してからだいぶ時間が経ったはずだ。
何度も何度も人々に命を奪われたウロボロスは、姉さんを見てどうするのか、どう思うのか・・・
仮に姉さんが殺されていたら・・・私はウロボロスを許すのだろうか?
ハッキリ言って、無理だ。でもきっと体が動くんだろうな、返り討ちに遭うとわかってても。
多分そうなったとき、私はウロボロスの気持ちを理解するんだろう。悪い意味で。
「お前の弓矢と小太刀は果実箱の下にある。急げ」
私はウロボロスが姉さんに慈悲を与えてくれることに賭けるため、外へ進んでいく。
叔父さんに最後の感謝と別れを思いながら。
*********
書いてて思ったんですが、サエラが主人公じゃね?
いえ、そんなことはry
「・・・どういう事?」
叔父さんが言ったのは、ウロボロスの正体。伝説や伝承で誇張された姿形ではなく、ありのままのウロボロスを教えてくれた。
「じゃあつまり、ウロボロスは単に再生能力を持つエンシェントドラゴンって事?」
叔父さんは頷く。そしてなぜか、罪悪感にかられる罪人のような顔をすると、レッテル村の成り立ちを含め全てを話してくれた。
その話の中にあったのは、過去レッテルの人々が一匹のドラゴンにしてきた許しがたい残虐行為・・・ウロボロスもまた、多くの人々に利用されてきた被害者であるという事だった。
「ウロボロスは、このベヒモスウォール一帯を支配する一匹のドラゴンだった・・・何千年も昔、かつてこの地に移り住んだレッテルの民は、ただの開拓民だったんだ。常に凶暴な魔物に怯え、畑を作ってもすぐに野生の獣に荒らされ、外傷や空腹で少なくない死者も出たらしい・・・そんな儂らの先祖を救ったのが・・・」
ウロボロス?と私が口に出す前に、叔父さんは頷き肯定した。
「と言っても、ウロボロス自身はご先祖さんたちを守護しているつもりはなかったんだろうがな・・・だが、たまたまドラゴンの縄張りに入った儂らの先祖に危害を加えるわけでもなく、見逃してくれていたのは事実だ。竜の縄張りに入ってくる魔物や動物は他にいない。ウロボロスの縄張りのおかげで開拓民たちはレッテルを完成させることができたんだよ」
まるで本に出てくるお話のようだというのが、私の思った感想だった。
一匹の守護竜が小さな村や一国を守るというものは、よく物語の題材にされている。レッテル村の図書館にこの手の本が多いのはかつての名残なのかもしれない。
だけど、この話は物語じゃない。ドラゴンが人の都合のいいように動くはずがないのだから。
この一匹のドラゴン・・・ウロボロスは、ご先祖様を守護する気など叔父さんの言う通りなかっただろう。
ウロボロスが人々に干渉することがなかったのは、単に興味がなかっただけかもしれない。けど、自分の縄張りの中で小さな生き物が住処を作ることを許容するくらいは慈悲深かったらしい。
「ご先祖さんはウロボロスを崇め始めた。この時にウロボロスと対話することを目的とした巫女姫という役職も確立したらしい。そこから、ドラゴンは竜王ウロボロスと呼ばれるようになったんだ・・・ご先祖さんは村を守ってくれる竜に対し、貢物をした。生贄じゃなく、この村にある柑橘類の木を植えただけだがな・・・」
「柑橘類って・・・あのすごく酸っぱい、調味料で使うようなあれ?」
あれを貢物として差し出すなんてすごく失礼じゃ・・・そう思えるほどにあの果物は酸っぱいのだ。旨味はなく、ただ酸っぱいだけ。
姉さんですらそれを齧ることをためらうほどだ。もしレモンかあの果物を丸かじりするなら、私は前者を即座に選ぶ。
私がなんとも微妙な浮かべていると、叔父さんは苦笑いをしながら「当時はそれでも貴重な食料だったらしいぞ?」と言った。
だからってそんなものを住処の周りに・・・しかも大量に植え付けられるなんてことになったら・・・私だったらなぎ倒す。間違いなく。
あの酸味に美味しさを見出すのは、ドラゴンでも至難の業だと思う。
「村のお偉いさんしか読めない古文書には『竜王様は貢物を一つ咥え、瞳を閉じると、その種を地に埋め、新たな木を生み出そうとした』と書かれてたが・・・ありゃどう見たって酸っぱくて吐き捨てただけだろと思ったな」
「ふふっ確かに」
叔父さんのひねくれた回答に私は当時のその光景を想像し、思わず吹き出してしまった。
伝説と呼ばれる巨大なドラゴンが、人の掌にも満たない小さな果物の酸味に負けた姿は、案外可愛らしいのではないかと思えてしまう。
叔父さんの言いたい事はわかった。
ウロボロスは存在するが、決して邪竜や竜王などといった伝説的な存在ではなくただの一匹のエンシェントドラゴンだということだ。
まぁこっちの話の方が理解しやすいと感じたからだけど。
だけど、どうやらウロボロスの話はここからが本番だったらしい。
「だが、この関係を裏切ったのは他でもない、レッテルの民だった」
叔父さんは一段階声のトーンを落とし、その先の歴史を語った。
「ドラゴンから取れる爪や鱗、果てまでは臓物までもが道具や薬に加工される。余すところがないんだ。エンシェントドラゴンとなればその価値は格段と跳ね上がる。」
それこそ城を建てても有り余るくらいのな。と、叔父さんは悲しげに呟く。
「 レッテルの村ができて数百年。ドラゴンの莫大な金銭的価値を知った一人の村人がある国にこう言ったんだ。『エンシェントドラゴンの情報を売ります』とな。」
そこからウロボロスと人々の関係は一変してしまったのだという。人に警戒心を持たないドラゴンは実に狩りやすかっただろう、ただ静かに暮らしていた竜の命を人々は容赦なく奪い去った。
さらにタチが悪いことに、竜は死しても蘇るほどの超再生を持つ特殊なスキルを持っていたのだ。殺しても百年単位で蘇るドラゴンは、人にとっては長い時間でもエルフにとっては十分すぎるほどだった。
その能力のおかげでウロボロスは、神聖的でも伝説的でもなくただの資源に成り下がってしまったのだという。
竜の巫女姫も、最終的にはその予言の力を竜王復活の情報を手に入れるだけにしか使わなくなっていった。
こうしてレッテルはウロボロスの素材を特産品として扱う村として、数千年間とても長く繁栄した・・・800年前までは。
予想していた以上の酷い話に、私はなんと言うべきなのかと言葉が詰まる思いをした。
そして同時に、なぜ叔母やその周りの老エルフがあれほど必死にウロボロスに拘っていた理由もわかった。
あいつらは、またレッテルをかつてのように繁栄させたいのだろう。たとえ何を犠牲にしてでも、ウロボロスを殺して素材を手に入れるつもりだ。
そのために何度・・・人とウロボロスを殺すつもりなのだろうか。
そしてこれを知った私は、一体どうすべきなのだろうか?姉さんを助けるのは絶対だ。ウロボロスが敵対的な存在ではないとしても、危険が全くないというわけではない。
ならウロボロスをどうするべきなのか・・・もちろん、私一人でどうにかできるという小さな問題ではないのはよく分かる。
だからといって放っておくことが正解なのだろうか?レッテルの民である私が何かするのは、ウロボロスをむしろ苛立たせるだけでは・・・?
まるで大きな壁にぶつかった気分だ。飛び越えることも、下を潜り抜けることすらできない。
自分じゃどうしようもないと思ったその時、叔父さんが私にだけ聞こえる小さな声で「よし、できたぞ」と声を漏らした。
考え事をしていて気づかなかったが、いつの間にか私の両手の縄が解かれ、さらに手の甲に小さな魔法陣が描かれていたのだ。
やったのは多分叔父さんだろうけど、全然わからなかった。
叔父さんだってまともに動ける状態じゃないのに、どうやって?
「・・・叔父さん、これは?」
擦っても消えない。インクとかじゃない魔法かスキルで写し出された陣かもしれない。
叔父さんは「ふぅ」と一息ついた。
「これは継承魔法というものだ。今からサエラ、お前に必要な力を与える」
「・・・継承魔法なんて、聞いた事ないけど。というかいつの間に」
「話をしてる間だ」
何でもないように叔父さんは言うが、そもそも他者に魔法をかけることはすごく難しいことなんだけど?
それに話をしてる間にって、要は無詠唱で魔法を使ったってことでしょ?
「叔父さん、一体・・・」
何者なの?そう問いかける前に、私の中に膨大な量の情報が流れた。他人の技術、経験、知識。それらがまるで自分のものになったような感覚だ。
一瞬の出来事だったが、その一瞬のインパクトは大きなものだった。
「げほっ・・・ん、これって・・・」
「今お前に渡したのは透明化の魔法、それと影操作のスキルだ。使い方を教える時間はないが、お前ならすぐに使えこなせるはずだ」
この人は・・・本当に何者なのだろう?バナナの皮でよく滑るいつもの叔父さんじゃない。
雰囲気は、まるで歴戦の戦士のようにも感じられた。それにウロボロスの情報をたくさん持ってたり、無詠唱で魔法を使いだしたり・・・
冷静になった私に、そんな疑問だけが駆け巡っていた。
しかし、それも叔父さんの次の言葉で終わる。
「早く行け。どうやら巡回してた見張りが戻ってきたようだ」
「!?」
敵が来る。私は肉体強化のスキルを使い地面を蹴り飛ばした後、さらに壁を縦に蹴ってその飛距離を伸ばす。
強化した身体能力なら容易に通気口まで届く。
だけど鉄格子を曲げることはできない・・・空中で自由落下する前になんとか・・・
「サエラ、鉄格子の影を歪めろ!」
叔父さんの声が聞こえ、私は言われた通りにそれをイメージする。
影はどういうものか、物が光を遮ってできるものだと思う。それを歪める・・・としたらどうすればいい?影の形を変える手っ取り早い方法・・・
・・・影になってるもの自体を歪める・・・ことかな?
これ以上考えても仕方ない、時間がないのだ。そのイメージでいこう。
幸い、鉄格子はヒカリゴケに照らされている。光に僅でも照らされていれば、当然影は生まれる。その影を私が通れるほどのスペースになるよう念じた時、それは起こった。
ぐにゃぁと影が歪み、それと同じように鉄格子も曲がったのだ。
驚きはあったけど、それは後回しだ。そうなることを望んでたし、イメージもできていたから割と冷静になっていたのもある。
私は人1人通れるようになった通気口に入り込んだ。
「サエラ。シオンが生きているかはウロボロス次第だ。怒り狂っているなら、シオンは既に・・・」
牢屋から聞こえる叔父さんの言葉に、私は唇を噛んだ。姉さんが送られたのは朝。そして私が気絶してからだいぶ時間が経ったはずだ。
何度も何度も人々に命を奪われたウロボロスは、姉さんを見てどうするのか、どう思うのか・・・
仮に姉さんが殺されていたら・・・私はウロボロスを許すのだろうか?
ハッキリ言って、無理だ。でもきっと体が動くんだろうな、返り討ちに遭うとわかってても。
多分そうなったとき、私はウロボロスの気持ちを理解するんだろう。悪い意味で。
「お前の弓矢と小太刀は果実箱の下にある。急げ」
私はウロボロスが姉さんに慈悲を与えてくれることに賭けるため、外へ進んでいく。
叔父さんに最後の感謝と別れを思いながら。
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書いてて思ったんですが、サエラが主人公じゃね?
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