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〜第6章〜ラドン編

68話

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「・・・なぁ?」

「なにかね?」

「俺、なんか悪いことしたか?」

「強いて言うなら産まれてくる性別をたがえたのではないか?」

「女体化の魔法って、あんのかねぇ?」

「あるわけないであろう」

「だよなぁ」

 はぁーっと深いため息を吐いたガルムの肩を我がぽんぽんと叩こうとしたが、腰を下げても彼の肩には届かないので腕を叩いてやった。
 それは慰めにもならんだろう。目の前では女性たちが華やかにコミュニケーションしておるというのに、自分は蚊帳の外なのだからな。

 シング族のいる集落まで無事戻ってこれた我らは、早速見つかった魔女とガルム、そしてフィンを紹介した。二人は快く受け入れられた・・・のは良いのだが、ガルムだけは多少警戒されていた。

 それは男性という理由だ。この集落ではトールマン以外の男は見ていない。実際ほぼいないようである。見かけたのは数人程度。
 なので長であるトールマンや身内ではない初めての男ということで、彼女たちも反応に困っている様子だ。
 ちなみに我はペット枠として受け入れられたらしい。人間じゃなくて良かった本当に。

「あー、まじ、くじ引きで仲良くない女子グループに一人放り込まれた気分だわ」

「具体的だな」

 もしかしたら過去に似たような経験をしていたのかもしれない。たしかに異性だらけだと気まずくはあるな。メスのドラゴンなど会ったためしがないが。

「つか、あのチビ共・・・もしかして友達か?友達作ってんのか?マジ?」

 ガルムが指差す方向にはベタとガマ、そしてラスが仲よさげにミミズを抱えているのが見える。野生のものを取っ捕まえてきたようだ。ガルムはそれが信じられないという驚愕の表情をしていた。

「まぁ、友達ではないか?」

「嘘だろ。リメットじゃ不気味がられて近寄られもしなかったってのに」

 「流石にそれは・・・あるのかのぅ」

 やはり我を崇めるのをやめさせるべきか。しかしあれがあの子たちなりの愛情表現であるし、それを否定するのは如何なものか。だが将来のことを考えると・・・うーむ。

「竜王様。」
「見て見て。」

 我が悩んでいると、それを破るように二人が話しかけてきた。ぐいっと顔にミミズを近付けられた我は苦虫を噛み潰した顔を見せず、なんとか笑顔を保ってみせた。

「お、おぉ、でかいのぅ」

 ほんっとデカくて気色悪い。なぜこの子らは普通に触れるのだ。

「ドラゴンさん、わたしのも見てっ」

「おー、これまた太いのう」

 ラスも負けじと我にミミズを見せてくる。ヌメヌメと光を反射し、所々虹色に輝いているが、それは美しさよりも気色悪さをより際立てている。あががが。
 我はもはや平静を保つので必死である。

「よく捕まえてきたのぅ、ほれ、可哀想だから逃がしてあげなさい」

「必要なし。」
「然り。」

「うん。これ、今日のね、晩御飯にするの」

 嘘だと言ってくれ。我はそっと目を瞑って力なくうなだれた。

「嬉しい?。」
「竜王様。お肉好き。」

 好きと言っても我が好むのは哺乳類の肉で環形動物ではないのだが。
 だが我は二人の育て親であり、好き嫌いしてみせるわけにもいかなかった。なので我は平然としているフリをしてミミズを毎日食べているのだ。
 そのせいかベタとガマが勘違いをしてしまった。ラスの手前バラすわけにもいかず、結局我がミミズ嫌いなことを打ち明ける機会はなくなってしまったのである。

「う、嬉しいぞ?楽しみだなぁ」

 そう言うと、子供たちは花が咲いたような笑顔を浮かべ、少々弾んだ足取りで建物へ向かって行った。あそこには調理器具があり、おそらく下処理なりなんなりするのだろう。
 シング族のおかげでちょびっと料理が上手くなったシオンとサエラに手伝ってもらうのだろうな。
 あぁ、味は良いのにどうも見た目がなぁ。

「お前も大変だな」

 今度はガルムが我の背中を叩いてきた。
 慰めるな。恵まれているのはわかっている。好かれているということは幸せなことである。

「待たせた」

 すると背後から低い男性の声が聞こえてきた。
 誰かはわかる。振り返ると白髪の赤目の男性ヴァル・トールマンが我らを見下ろしていた。
 我は沈んでいた気分を持ち上げ、手をフリフリ振って気にしていない様子を見せる。サエラのように無表情なその顔の中に、申し訳なさがあったように見えたからだ。

「気にしておらん。手伝ってくれて感謝である」

「そうか。探すのが手間取った」

 そう言ってトールマンが渡してくれたのは古びた石版である。表面にミミズのような文字が刻まれており、所々しっかり読める部分には「輪廻の竜」と書かれているのが読み取れた。

「ウロボロス、か」

「そうだ。かの名高い竜王について書かれたものだ」

 トールマンが頷く。魔女とガルムが我の石像を見たというので、ドラゴンに詳しいトールマンに何か知らないかと尋ねたら、我について書かれた石版があると言い、頼んだら読ませてくれると言ってくれたのだ。

「ふむ」

 別にこの地下からの脱出とは全く関係がないが、我の情報がなぜこの地下に残っているのかが気になるところである。
 調べきれるとは思えんが、脱出までの暇つぶしになってくれれば良いなとは思っておる。

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