203 / 237
〜第6章〜ラドン編
65話
しおりを挟む
ぶっ倒れていた理由は本人たちにとっては重大な問題なのだろうが、それももはや完全回復している様子を見ると焦って走ってこなくても良かったのではないかとシオンはガクリと肩を下げた。
いかにシオンが必死に走ってきたかなどつゆ知らず、ベタとガマはミミズの輪切り肉を腹に入れるとキョロキョロと首を動かして周囲の観察を始めた。
「シオン。シオン。竜王さまは?。」
「何処?。」
小さな手で二人がギュッとシオンの服の袖を引っ張る。そこにSランカーの力は一切なく、人形のように首を傾げて尋ねる姿は愛嬌もあり、子供らしいあざとい純粋があるように見えた。
だが忘れてはいけない。彼女らは恋い慕う竜に会うために転生の儀を行うような頭のネジが外れた人外なのである。
シオンはプルプルと甘やかしたい衝動を抑え、シオンは考える。
果たして今ウロボロスの居場所を教えていいものなのか。今はウロボロスの鱗で満足しているようだが、実物に会ったらそれこそ吸血鬼ばりの勢いでウロボロスの正気をすするかもしれない。
そうしなくても、ベタとガマなら何も考えずにデカイ声でウロボロスの事を竜王と呼んでしまうだろう。
ウロボロスに会わせる前に、いろいろ口裏を合わせる必要がある。どこから切り出そうかと悩むと、サエラがベタとガマにこんなことを言い出したのだ。
「真のウロボロス教の信徒なら、気配でウーロさんを察知することくらいできない?」
なぁに言ってんスかと、なんとも言えない表情でサエラを見つめるシオン。
ウロボロス教ってなぁに?信徒ってなぁに?初めて聞いたんですけど。
思考が停止して頭の中で文章を作成できなくなったのは、突拍子も無いサエラの冗談だけではなく、雷に打たれたかのように背筋を伸ばし、目を見開いたベタとガマを見たせいでもある。
「た、たしかに・・・!。」
「しかし。我ら。血脈繋がらず。」
「否!。種の壁。それを乗り越えてこそ。真なる親愛。」
「然り。」
何かよくわからない会話をするちびっ子共に、シオンは嫌な予感を止めることができない。
だってこの二人ならやりそうだから。そんな曖昧な予想に説得力を持たせる力を、ベタとガマはすでに持ち合わせてしまっていたのだ。
二人は祈るように地に座り、天に向かって光を浴びるみたいに手をのばした。
しばらくそのポーズを続けていると、何を受信したのか急に立ち上がった。目がマジである。
「竜王さま。!」
「今。そこへ。!」
「えっ」
冗談のつもりで言ったサエラは、まさか本当に気配で場所を検知するとは思わなかったらしい。無表情面が、珍しく間抜け面に変わった。
次の瞬間には幼女コンビは走り出し、小さな突風を発して小屋の外へ出て行った。目にも留まらぬ速さである。
迷いのない動きにシオンとサエラは呆気にとられ、頭が理解するまでに多少のラグが生まれてしまった。
ぽかーんと扉の外を見つめ、やっと理解した時にはすでに小さな背中は見えなくなっていた。
「え、えぇぇえ!?どこ行ったんですかあの二人!?」
あまりの速さにシオンは多少声に混乱が混ざり、自身も小屋の外へ出る。
サエラも外へ出て、何やら難しそうな顔を浮かべつつ口を開く。
「・・・ウーロさんのところじゃない?」
「いや、わかるもんなんですか!?」
ベタとガマはまだこの地下都市の全貌を全く把握していない。シオンですら半分も道を覚えていないのだ。
リメットのメイズにも似た入り組んだ道はおそらく、地下という限られたスペースをより効率的に使うため、できるだけ建築物を詰めた結果なのだろう。石の建物の下に道が続くなんてこともざらにあるのだ。
正直、あの迷路のような道で痕跡を見つけて追跡するのは至難の技だろう。いかにベタとガマといえど、ウロボロスを一瞬で見つけるのは不可能なはずだ。
・・・はずだ。
「一応・・・養殖場行ってみます?」
「そだね」
もしかしたらベタとガマならウロボロスの気配を感じ取れるかも・・・と根拠のない考えだがどうにも納得しそうな気持ちに微妙な表情を作る。
こうなったら自分たちも急いで養殖場へ行き、ベタとガマをに追いつくしかない。それに先回りできれば御の字だ。
しかし、すでにそこには珍しくラフな格好となっていたベタとガマとウロボロスが再会している瞬間だった。
だがそれは感動的なものでは一切なく、どちらかというと修羅場に近い一触即発な空気を醸し出していた。
「竜王さま。」
「その女だれ。」
ゴゴゴと黒い靄を発しているような気がする。言葉を無理やり落ち着かせているが、放つ空気が完全に怒りのそれだ。
物陰から隠れて見つめるシオンとサエラは謎の展開についていけず、会話に入り込めなかった。
ベタとガマの見つめる先には、ラスに膝枕してもらっているウロボロスが見えた。
なんだこれ。
「え、なんですかこれ」
「浮気現場みたい」
困惑するシオンに、縁起でもないことを言うサエラ。下手に刺激すると爆発するかもしれないレッド・キャップの背中は恐ろしかった。
いかにシオンが必死に走ってきたかなどつゆ知らず、ベタとガマはミミズの輪切り肉を腹に入れるとキョロキョロと首を動かして周囲の観察を始めた。
「シオン。シオン。竜王さまは?。」
「何処?。」
小さな手で二人がギュッとシオンの服の袖を引っ張る。そこにSランカーの力は一切なく、人形のように首を傾げて尋ねる姿は愛嬌もあり、子供らしいあざとい純粋があるように見えた。
だが忘れてはいけない。彼女らは恋い慕う竜に会うために転生の儀を行うような頭のネジが外れた人外なのである。
シオンはプルプルと甘やかしたい衝動を抑え、シオンは考える。
果たして今ウロボロスの居場所を教えていいものなのか。今はウロボロスの鱗で満足しているようだが、実物に会ったらそれこそ吸血鬼ばりの勢いでウロボロスの正気をすするかもしれない。
そうしなくても、ベタとガマなら何も考えずにデカイ声でウロボロスの事を竜王と呼んでしまうだろう。
ウロボロスに会わせる前に、いろいろ口裏を合わせる必要がある。どこから切り出そうかと悩むと、サエラがベタとガマにこんなことを言い出したのだ。
「真のウロボロス教の信徒なら、気配でウーロさんを察知することくらいできない?」
なぁに言ってんスかと、なんとも言えない表情でサエラを見つめるシオン。
ウロボロス教ってなぁに?信徒ってなぁに?初めて聞いたんですけど。
思考が停止して頭の中で文章を作成できなくなったのは、突拍子も無いサエラの冗談だけではなく、雷に打たれたかのように背筋を伸ばし、目を見開いたベタとガマを見たせいでもある。
「た、たしかに・・・!。」
「しかし。我ら。血脈繋がらず。」
「否!。種の壁。それを乗り越えてこそ。真なる親愛。」
「然り。」
何かよくわからない会話をするちびっ子共に、シオンは嫌な予感を止めることができない。
だってこの二人ならやりそうだから。そんな曖昧な予想に説得力を持たせる力を、ベタとガマはすでに持ち合わせてしまっていたのだ。
二人は祈るように地に座り、天に向かって光を浴びるみたいに手をのばした。
しばらくそのポーズを続けていると、何を受信したのか急に立ち上がった。目がマジである。
「竜王さま。!」
「今。そこへ。!」
「えっ」
冗談のつもりで言ったサエラは、まさか本当に気配で場所を検知するとは思わなかったらしい。無表情面が、珍しく間抜け面に変わった。
次の瞬間には幼女コンビは走り出し、小さな突風を発して小屋の外へ出て行った。目にも留まらぬ速さである。
迷いのない動きにシオンとサエラは呆気にとられ、頭が理解するまでに多少のラグが生まれてしまった。
ぽかーんと扉の外を見つめ、やっと理解した時にはすでに小さな背中は見えなくなっていた。
「え、えぇぇえ!?どこ行ったんですかあの二人!?」
あまりの速さにシオンは多少声に混乱が混ざり、自身も小屋の外へ出る。
サエラも外へ出て、何やら難しそうな顔を浮かべつつ口を開く。
「・・・ウーロさんのところじゃない?」
「いや、わかるもんなんですか!?」
ベタとガマはまだこの地下都市の全貌を全く把握していない。シオンですら半分も道を覚えていないのだ。
リメットのメイズにも似た入り組んだ道はおそらく、地下という限られたスペースをより効率的に使うため、できるだけ建築物を詰めた結果なのだろう。石の建物の下に道が続くなんてこともざらにあるのだ。
正直、あの迷路のような道で痕跡を見つけて追跡するのは至難の技だろう。いかにベタとガマといえど、ウロボロスを一瞬で見つけるのは不可能なはずだ。
・・・はずだ。
「一応・・・養殖場行ってみます?」
「そだね」
もしかしたらベタとガマならウロボロスの気配を感じ取れるかも・・・と根拠のない考えだがどうにも納得しそうな気持ちに微妙な表情を作る。
こうなったら自分たちも急いで養殖場へ行き、ベタとガマをに追いつくしかない。それに先回りできれば御の字だ。
しかし、すでにそこには珍しくラフな格好となっていたベタとガマとウロボロスが再会している瞬間だった。
だがそれは感動的なものでは一切なく、どちらかというと修羅場に近い一触即発な空気を醸し出していた。
「竜王さま。」
「その女だれ。」
ゴゴゴと黒い靄を発しているような気がする。言葉を無理やり落ち着かせているが、放つ空気が完全に怒りのそれだ。
物陰から隠れて見つめるシオンとサエラは謎の展開についていけず、会話に入り込めなかった。
ベタとガマの見つめる先には、ラスに膝枕してもらっているウロボロスが見えた。
なんだこれ。
「え、なんですかこれ」
「浮気現場みたい」
困惑するシオンに、縁起でもないことを言うサエラ。下手に刺激すると爆発するかもしれないレッド・キャップの背中は恐ろしかった。
0
お気に入りに追加
910
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生の果てに
北丘 淳士
ファンタジー
先天性の障害を持つ本条司は、闘病空しく命を落としてしまう。
だが転生した先で新しい能力を手に入れ、その力で常人を逸した働きを見せ始める。
果たして彼が手に入れた力とは。そしてなぜ、その力を手に入れたのか。
少しミステリ要素も絡んだ、王道転生ファンタジー開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる