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〜第6章〜ラドン編
56話
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「・・・いた」
岩陰からこっそりと頭を出して前方を確認するサエラ。彼女が見つめる先には無数のヤゴがウジャウジャとまるで雨後のタケノコのようにひしめき合っていた。
ヤゴの集団がいるのは雨水や川の水が鉱山の地中をろ過されながら染み込み、一時的に池状になって溜まった水溜りのような場所だ。
これらの水はまたさらに地中に流れ、それはマグマの熱で暖められて上層へと送られるのだろう。
今はただの水だ。
サエラは魔力のパルスを飛ばし、奥までどれほどのヤゴがいるのかを索敵する。
「・・・ここにいるのは100匹前後。成虫はいないと思う」
「ふむふむ。なるほど」
サエラの頭に乗っかったウロボロスがうむうむと頷く。少々重いウロボロスの体重に首が辛くなったのか、サエラはウロボロスの腹を掴んで頭から離し、隣に移動させた。
「いやぁ、凄えな」
ヤゴに聞こえないよう、小さな声で呟くガルム。
追跡者のジョブは冒険者にとって便利という意味で有名な職業なのだが、ここまで優秀な追跡者は初めてだった。
サエラはヤゴの足跡だけでヤゴの位置を特定したのだ。
しかもここは岩場なので、森のように土の上にできる窪みじみた足跡は一切ない。
なら足跡はなんなのかというと、岩の表面に着いた匂いである。サエラの嗅覚で匂い嗅げば、それは空気中に漂うモヤのように匂いを視覚的に捉えることができる。
同じ追跡者でも真似できる芸当ではないだろう。狩人として生き、さらに優秀な指導者である叔父から受けた技術があってこそ可能な追跡方法なのだ。
Sランカーに褒められたことでウロボロスとシオンは胸を張ってえっへんと威張った。
「そうだろうそうだろう?サエラはすごいのだぞ」
「さすがわたしの妹ですね!鼻高々ですよ」
「なんで二人が喜ぶの」
シオンとウロボロスのセリフに頰を赤く染めながらサエラは口を尖らせて言った。
サエラが高評価はされることを自分のように喜ぶのは、つまりそれだけサエラを大事に思っているということだ。それが恥ずかしいのだろう。
そんなサエラの感情など露知らず、ウロボロスとシオンは能天気そうに笑う。
「良いではないか」
「サエラがすごいのは事実ですよぅ」
「「ねー!」」
「もう、うっさい!」
これ以上聞いてられないと、サエラはヤゴの集団への観察に意識を集中させた。そうでもしないと顔が茹で上がったように真っ赤に染まりそうだからだ。
怒ったように声を荒げた。
なぜ怒鳴られたのかがわからない姉と子竜が首をかしげるのを、ガルムは優しげな微笑を一瞬浮かべて眺めた。
「・・・ん?」
と、その時、ヤゴを観察していたサエラが口を開かず喉だけ震わせ、疑問の混じった声を漏らす。
そして目を細め、遠くまで見通すように鋭い瞳の切れ味をさらに上げた。
ヒカリゴケの明かりを隠すほどの暗闇に、サエラの視線が切り込んだ。
「姉さん」
「なんです?」
「ヤゴって、白いの?」
サエラから投げられた質問を聞き、シオンは「はい?」と質問の内容を聞き直す。だが瞬時には理解が追いつき、首を横に振って答えを出す。
「いやぁ、薄い茶色って書いてありましたけどね?図鑑では」
「まぁ大体ヤゴってそんな感じだよな」
シオンの回答に同意を示すガルム。サエラも返ってくる答えは分かっていたらしく、だよねと小さく呟いて懐疑的な目で前方のヤゴを視界に入れる。
全員認識は合っている。だが、先の水の溜まり場に群がるヤゴの体色は白で、目は果実のように赤かった。
どう見ても普通のヤゴではない。そもそもメガニューラは普通のヤゴではないが、それでもおかしかった。
「・・・確かに白いな。まるでアルビノだ」
気になったメアリーもヤゴの様子を観察したのだろう。思わぬヤゴの姿にメアリーは色素の薄い突然変異種に例えたが、それは間違っていないように思えた。
それほど特徴が合致している。
「マジっすか」
「マジかよ」
シオンとガルムもヤゴを覗き見て異常性に気がつく。信じられないといった様子だ。
ウロボロスは顎に手を当て、思案するように唸る。
「ぬぅ、しかしアルビノとは珍しい。あやつらは早々産まれることなどあるまい?」
ウロボロスの言う通り、アルビノというのは非常に珍しく、希少な存在だ。特に自然界ではその目立つ体色のせいでまず生き残る個体が少ない。
産まれる確率も限りなく低いのだが、そういった存在が100匹近くいるのだ。困惑するのも無理はない。
「アルビノ同士の番がここで繁殖したとか」
シオンが人差し指をピンと伸ばし、言ってみるが表情は明るくない。自分で言っといてありえないと自覚した予想らしい。
たまたま偶然アルビノ同士が繁殖したなら、まぁ可能かもしれない。だがこの数は異常だ。一体どれほどの数のアルビノメガニューラの番がここにやってきたというのか。
「つーか、あのダルマ領主も衛兵も、なんでヤゴがアルビノって教えてくれなかったんだ?ここにいるの大量のヤゴを確認できなくても、温泉で何匹か確認してんだろ」
ガルムは指を噛んで考える。言われてみればヤゴが白いという情報を聞くことはなかった。
(騙された?嵌められた?いや、単にアルビノの個体がいるということを隠してもなんの得にもならん。能力は原種と変わらないし。衛兵も嘘をついている様子ではなかったしのぅ)
ウロボロスは領主や衛兵の会話していた時の表情を思い返す。全く謎だ。
少なくとも、領主や衛兵はアルビノのヤゴだとは知らなかったのだろう。ということは温泉に現れたのは茶色のノーマルタイプのヤゴか?
だとしたらなぜ通常種が地表に出て、アルビノは地下にとどまっているのか。むむむと唸りながら思考の海に頭を漬ける。
「?。変な感じ。」
「然り。」
サエラと共にヤゴを観察していたベタとガマが、何やら首を傾げながらそう言った。
岩陰からこっそりと頭を出して前方を確認するサエラ。彼女が見つめる先には無数のヤゴがウジャウジャとまるで雨後のタケノコのようにひしめき合っていた。
ヤゴの集団がいるのは雨水や川の水が鉱山の地中をろ過されながら染み込み、一時的に池状になって溜まった水溜りのような場所だ。
これらの水はまたさらに地中に流れ、それはマグマの熱で暖められて上層へと送られるのだろう。
今はただの水だ。
サエラは魔力のパルスを飛ばし、奥までどれほどのヤゴがいるのかを索敵する。
「・・・ここにいるのは100匹前後。成虫はいないと思う」
「ふむふむ。なるほど」
サエラの頭に乗っかったウロボロスがうむうむと頷く。少々重いウロボロスの体重に首が辛くなったのか、サエラはウロボロスの腹を掴んで頭から離し、隣に移動させた。
「いやぁ、凄えな」
ヤゴに聞こえないよう、小さな声で呟くガルム。
追跡者のジョブは冒険者にとって便利という意味で有名な職業なのだが、ここまで優秀な追跡者は初めてだった。
サエラはヤゴの足跡だけでヤゴの位置を特定したのだ。
しかもここは岩場なので、森のように土の上にできる窪みじみた足跡は一切ない。
なら足跡はなんなのかというと、岩の表面に着いた匂いである。サエラの嗅覚で匂い嗅げば、それは空気中に漂うモヤのように匂いを視覚的に捉えることができる。
同じ追跡者でも真似できる芸当ではないだろう。狩人として生き、さらに優秀な指導者である叔父から受けた技術があってこそ可能な追跡方法なのだ。
Sランカーに褒められたことでウロボロスとシオンは胸を張ってえっへんと威張った。
「そうだろうそうだろう?サエラはすごいのだぞ」
「さすがわたしの妹ですね!鼻高々ですよ」
「なんで二人が喜ぶの」
シオンとウロボロスのセリフに頰を赤く染めながらサエラは口を尖らせて言った。
サエラが高評価はされることを自分のように喜ぶのは、つまりそれだけサエラを大事に思っているということだ。それが恥ずかしいのだろう。
そんなサエラの感情など露知らず、ウロボロスとシオンは能天気そうに笑う。
「良いではないか」
「サエラがすごいのは事実ですよぅ」
「「ねー!」」
「もう、うっさい!」
これ以上聞いてられないと、サエラはヤゴの集団への観察に意識を集中させた。そうでもしないと顔が茹で上がったように真っ赤に染まりそうだからだ。
怒ったように声を荒げた。
なぜ怒鳴られたのかがわからない姉と子竜が首をかしげるのを、ガルムは優しげな微笑を一瞬浮かべて眺めた。
「・・・ん?」
と、その時、ヤゴを観察していたサエラが口を開かず喉だけ震わせ、疑問の混じった声を漏らす。
そして目を細め、遠くまで見通すように鋭い瞳の切れ味をさらに上げた。
ヒカリゴケの明かりを隠すほどの暗闇に、サエラの視線が切り込んだ。
「姉さん」
「なんです?」
「ヤゴって、白いの?」
サエラから投げられた質問を聞き、シオンは「はい?」と質問の内容を聞き直す。だが瞬時には理解が追いつき、首を横に振って答えを出す。
「いやぁ、薄い茶色って書いてありましたけどね?図鑑では」
「まぁ大体ヤゴってそんな感じだよな」
シオンの回答に同意を示すガルム。サエラも返ってくる答えは分かっていたらしく、だよねと小さく呟いて懐疑的な目で前方のヤゴを視界に入れる。
全員認識は合っている。だが、先の水の溜まり場に群がるヤゴの体色は白で、目は果実のように赤かった。
どう見ても普通のヤゴではない。そもそもメガニューラは普通のヤゴではないが、それでもおかしかった。
「・・・確かに白いな。まるでアルビノだ」
気になったメアリーもヤゴの様子を観察したのだろう。思わぬヤゴの姿にメアリーは色素の薄い突然変異種に例えたが、それは間違っていないように思えた。
それほど特徴が合致している。
「マジっすか」
「マジかよ」
シオンとガルムもヤゴを覗き見て異常性に気がつく。信じられないといった様子だ。
ウロボロスは顎に手を当て、思案するように唸る。
「ぬぅ、しかしアルビノとは珍しい。あやつらは早々産まれることなどあるまい?」
ウロボロスの言う通り、アルビノというのは非常に珍しく、希少な存在だ。特に自然界ではその目立つ体色のせいでまず生き残る個体が少ない。
産まれる確率も限りなく低いのだが、そういった存在が100匹近くいるのだ。困惑するのも無理はない。
「アルビノ同士の番がここで繁殖したとか」
シオンが人差し指をピンと伸ばし、言ってみるが表情は明るくない。自分で言っといてありえないと自覚した予想らしい。
たまたま偶然アルビノ同士が繁殖したなら、まぁ可能かもしれない。だがこの数は異常だ。一体どれほどの数のアルビノメガニューラの番がここにやってきたというのか。
「つーか、あのダルマ領主も衛兵も、なんでヤゴがアルビノって教えてくれなかったんだ?ここにいるの大量のヤゴを確認できなくても、温泉で何匹か確認してんだろ」
ガルムは指を噛んで考える。言われてみればヤゴが白いという情報を聞くことはなかった。
(騙された?嵌められた?いや、単にアルビノの個体がいるということを隠してもなんの得にもならん。能力は原種と変わらないし。衛兵も嘘をついている様子ではなかったしのぅ)
ウロボロスは領主や衛兵の会話していた時の表情を思い返す。全く謎だ。
少なくとも、領主や衛兵はアルビノのヤゴだとは知らなかったのだろう。ということは温泉に現れたのは茶色のノーマルタイプのヤゴか?
だとしたらなぜ通常種が地表に出て、アルビノは地下にとどまっているのか。むむむと唸りながら思考の海に頭を漬ける。
「?。変な感じ。」
「然り。」
サエラと共にヤゴを観察していたベタとガマが、何やら首を傾げながらそう言った。
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