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〜第6章〜ラドン編
55話
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地底湖へ向かうためには旧坑道を通り抜け、ダンジョンのように深い地下を進んでいかなければならない。
となれば向かうべきは現在、湯源管理所と化した廃鉱である。そもそもマグマに熱せられた湯を発見したのは、わずかに残る資源を探そうと地下を掘り返した結果なのだ。
なので湯の貯まる地底湖に繋がる道は衛兵によって厳重に警備されている。
鉱山付近に到着すると、シオンは本でしか知り得ることのなかった本物の鉱山を目の当たりにし、その大規模な作業場を見て興奮したように声を上げた。
鉱山というのは山のいたるところに蜂の巣のような穴を開けられ、人が行き来しやすいように木で組んだ足場が張り巡らされているイメージがあるだろう。
ラドン鉱山跡地は今もその全盛期の面影を残しており、まるで昔働いていた坑夫たちが今もなお活動しているようにも見える。
だが今では坑夫が潜った穴は完全に封鎖され、さらに観光客の姿もないせいでガランと静か空気が流れていた。
「ここがラドン鉱山・・・!」
「今はメガニューラの巣窟だけどな」
目をキラキラ輝かせるシオンに、ガルムは億劫そうに目元にしわを寄せた。
この大きな廃鉱丸ごと巨大なトンボの群れで埋め尽くされているのだ。封鎖した穴の壁に耳を当てれば耳障りな羽音が無数に反響して聞こえるかもしれない。
「片割れ。死者狩りの次は虫狩りだ。」
「ウム。面倒。」
「しかし竜王様と混浴。チャンスだぞ。」
「肯定。残り湯。」
「然り。保存容器は準備できたか。」
「抜かりなし。」
「「ぐへへ。」」
鎖を巻いて互いの距離を縮めたベタとガマはキスをするのではという近さで耳元で囁き合い、欲望に染まった表情を浮かべて目玉をぐるぐると動かした。
ウロボロスはゾクリと背後が凍る気配を感じ、シオンとサエラは聞かなかった事にして真顔になる。
「うぅっなんだか肌寒いである。風呂に入りたくなったのぅ」
「多分それ、ちがうと思う」
サエラの一言にウロボロスはコテンと首を傾げた。
そしてちょうどいいタイミングで、地底湖に入るための入り口である関所に到着した。
木で作られた骨組みをむき出しにしたような門だ。魔物や巨大な動物なら簡単に破壊できそうな入り口だが、人を足止めするには充分な大きさと頑丈さをもっていた。
門の前にいるのは、布の上に人体の急所の位置を守るように鉄板の貼られた装備をしているラドンの衛兵たちだ。比べるのは酷だろうが、リメットの衛兵と比べると装備も衛兵自体の実力レベルも低そうだ。
(人の暮らす土地によってここまで変わるものなのか)
ウロボロスは人知れず感じた驚きを胸にしまい、改めてリメットの衛兵隊を思い返す。
リメットでは凶悪なモンスターが湧き出るダンジョンがあり、そこを攻略する冒険者がいる。
しかし冒険者の大半は社会の落伍者によって構築されるので、犯罪を犯す冒険者は後を絶たない。しかもただの人間ではなく、魔物を殺すことのできる実力者だ。
それらの犯罪冒険者を鎮圧できるよう、リメットでは衛兵隊にも厳しい訓練が課せられる。
対してラドンは戦闘など身近にない。なので衛兵の質が多少下がっていても仕方のないことかもしれない。ウロボロスはあまり気にしないようにした。
そんな事を考えてるうちに、一行は門へと残り3メートル近くまで移動していた。
武器を構え、警備していた衛兵が敬礼を取る。
「Sランカー冒険者ガルム殿だ!おい、門を開けろ!」
衛兵の隊長格なのだろう。他の兵士よりも装飾の目立つ鎧を着た男が関所の真上にある坑道の穴に向かって叫ぶ。
坑道をそのまま施設として利用しているらしい。少し間を開けてから重々しい門の扉が鎖を巻く音と共に開いた。
中は明かりを放つ魔道具が天井に設置されているようで、中がしっかりと見通せる。
デコボコした岩肌の通路かと思いきや、意外にも石レンガを敷き詰めたまともな作りだった。
天井が崩れないよう石がアーチ状に並べられ、その上から骨組みが外殻とでも言うように覆いかぶさっている。
「ではガルム殿、地底湖までの道案内をしますので」
「あぁ」
真面目な衛兵の挨拶にガルムは適当に相槌を打ち、先を歩く衛兵の後を付いていく。
その背後ではベタとガマが「なぜ我ら。挨拶ない?。」「我ら。オマケ?。」「我ら。Sランカーぞ。」「あやつ。調子。乗ってる。」「如何する。姉上。処す?。処す?。」などと物騒な会話をおこなっていたが、ウロボロスが機嫌をとってくれる事を祈ってシオンたちはあえて振り返ったりしなかった。
そしてウロボロスは半自動的にその厄介役を押し付けられたのだと、誰も突っ込みを入れない流れから悟り「なーぜー?」と恨めしそうに皆を見るのだった。
となれば向かうべきは現在、湯源管理所と化した廃鉱である。そもそもマグマに熱せられた湯を発見したのは、わずかに残る資源を探そうと地下を掘り返した結果なのだ。
なので湯の貯まる地底湖に繋がる道は衛兵によって厳重に警備されている。
鉱山付近に到着すると、シオンは本でしか知り得ることのなかった本物の鉱山を目の当たりにし、その大規模な作業場を見て興奮したように声を上げた。
鉱山というのは山のいたるところに蜂の巣のような穴を開けられ、人が行き来しやすいように木で組んだ足場が張り巡らされているイメージがあるだろう。
ラドン鉱山跡地は今もその全盛期の面影を残しており、まるで昔働いていた坑夫たちが今もなお活動しているようにも見える。
だが今では坑夫が潜った穴は完全に封鎖され、さらに観光客の姿もないせいでガランと静か空気が流れていた。
「ここがラドン鉱山・・・!」
「今はメガニューラの巣窟だけどな」
目をキラキラ輝かせるシオンに、ガルムは億劫そうに目元にしわを寄せた。
この大きな廃鉱丸ごと巨大なトンボの群れで埋め尽くされているのだ。封鎖した穴の壁に耳を当てれば耳障りな羽音が無数に反響して聞こえるかもしれない。
「片割れ。死者狩りの次は虫狩りだ。」
「ウム。面倒。」
「しかし竜王様と混浴。チャンスだぞ。」
「肯定。残り湯。」
「然り。保存容器は準備できたか。」
「抜かりなし。」
「「ぐへへ。」」
鎖を巻いて互いの距離を縮めたベタとガマはキスをするのではという近さで耳元で囁き合い、欲望に染まった表情を浮かべて目玉をぐるぐると動かした。
ウロボロスはゾクリと背後が凍る気配を感じ、シオンとサエラは聞かなかった事にして真顔になる。
「うぅっなんだか肌寒いである。風呂に入りたくなったのぅ」
「多分それ、ちがうと思う」
サエラの一言にウロボロスはコテンと首を傾げた。
そしてちょうどいいタイミングで、地底湖に入るための入り口である関所に到着した。
木で作られた骨組みをむき出しにしたような門だ。魔物や巨大な動物なら簡単に破壊できそうな入り口だが、人を足止めするには充分な大きさと頑丈さをもっていた。
門の前にいるのは、布の上に人体の急所の位置を守るように鉄板の貼られた装備をしているラドンの衛兵たちだ。比べるのは酷だろうが、リメットの衛兵と比べると装備も衛兵自体の実力レベルも低そうだ。
(人の暮らす土地によってここまで変わるものなのか)
ウロボロスは人知れず感じた驚きを胸にしまい、改めてリメットの衛兵隊を思い返す。
リメットでは凶悪なモンスターが湧き出るダンジョンがあり、そこを攻略する冒険者がいる。
しかし冒険者の大半は社会の落伍者によって構築されるので、犯罪を犯す冒険者は後を絶たない。しかもただの人間ではなく、魔物を殺すことのできる実力者だ。
それらの犯罪冒険者を鎮圧できるよう、リメットでは衛兵隊にも厳しい訓練が課せられる。
対してラドンは戦闘など身近にない。なので衛兵の質が多少下がっていても仕方のないことかもしれない。ウロボロスはあまり気にしないようにした。
そんな事を考えてるうちに、一行は門へと残り3メートル近くまで移動していた。
武器を構え、警備していた衛兵が敬礼を取る。
「Sランカー冒険者ガルム殿だ!おい、門を開けろ!」
衛兵の隊長格なのだろう。他の兵士よりも装飾の目立つ鎧を着た男が関所の真上にある坑道の穴に向かって叫ぶ。
坑道をそのまま施設として利用しているらしい。少し間を開けてから重々しい門の扉が鎖を巻く音と共に開いた。
中は明かりを放つ魔道具が天井に設置されているようで、中がしっかりと見通せる。
デコボコした岩肌の通路かと思いきや、意外にも石レンガを敷き詰めたまともな作りだった。
天井が崩れないよう石がアーチ状に並べられ、その上から骨組みが外殻とでも言うように覆いかぶさっている。
「ではガルム殿、地底湖までの道案内をしますので」
「あぁ」
真面目な衛兵の挨拶にガルムは適当に相槌を打ち、先を歩く衛兵の後を付いていく。
その背後ではベタとガマが「なぜ我ら。挨拶ない?。」「我ら。オマケ?。」「我ら。Sランカーぞ。」「あやつ。調子。乗ってる。」「如何する。姉上。処す?。処す?。」などと物騒な会話をおこなっていたが、ウロボロスが機嫌をとってくれる事を祈ってシオンたちはあえて振り返ったりしなかった。
そしてウロボロスは半自動的にその厄介役を押し付けられたのだと、誰も突っ込みを入れない流れから悟り「なーぜー?」と恨めしそうに皆を見るのだった。
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